【新型コロナ】感染拡大で価値観を揺るがされ抑うつや不安に 感染対策に協力できているという達成感が救いに
新型コロナの拡大は「自分」や「世界」の見方を変えた
新型コロナの感染拡大は、多くの人の日常を一変させた。パンデミックが始まったことで、いつになれば「普通」の生活に戻れるのか分からず、先行きを予測することも、環境をコントロールすることも難しい状況になったといえる。
予測や制御の困難な状況では、自分への自信や他者への信頼といった価値観や考え方を示す「中核的信念」が揺るがされることが多い。そうした価値観や考え方を作り直し、柔軟な対応をする必要が出てくる。
自然災害やテロ、重篤な病など、将来の予測や展開のコントロールが困難な状況では、人は自分や他者、世界についての根本的な考え方を変えざるをえなくなる。これが、中核的信念の揺らぎだ。
東北大学加齢医学研究所は、30~79歳の日本人1,196人を対象に2020年7月にWeb調査を行い、新型コロナの感染拡大が人々の中核的信念の揺らぎを引き起こしたこと、その揺らぎが大きいほど抑うつや不安感も大きいことを明らかにした。
研究は、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジング学際重点研究センターの松平泉助教、瀧靖之教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Humanities & Social Science Communications」に掲載された。
収入の減少やストレスが心理的苦痛に影響
調査では、新型コロナの感染拡大による中核的信念の揺らぎの程度について尋ねたほか、子供の休校の有無、感染拡大にともなう収入の変化、1回目の緊急事態宣言発令中に自分自身が感染対策に協力できていたと感じる程度(協力達成感)、感染対策への協力を負担に感じた程度(負担感)、感染拡大そのものに感じたストレス、心理的苦痛(抑うつと不安)などについても調査した。
その結果、感染対策への負担感がある人ほど、中核的信念の揺らぎを経験している、つまり自分への自信や他者への信頼が揺らいでいることが分かった。さらに、感染拡大にともなう収入の減少、感じているストレスは、中核的信念の揺らぎと心理的苦痛の大きさに大きく関わっていることが明らかになった。
新型コロナの感染拡大により中核的信念が大きく揺らいだ人ほど、心理的苦痛を強く感じていることも確認された。一方で、感染対策に協力できているという達成感は、中核的信念の揺らぎの改善に影響していることも分かった。
感染対策に協力できているという達成感は、価値観の揺らぎや心理的苦痛を改善する?
とくに欧米諸国のようなロックダウンが行われない日本では、感染対策にどのくらい真剣に取り組むかは、個々人に委ねられているといえる。このような社会で、新型コロナの感染拡大が人々の中核的信念に影響を与えたのか、またその影響が人々の精神的健康にどのように関与したのかが、研究ではじめて明らかになった。
「この結果から、新型コロナの感染拡大が人々に生き方を問い直させる事態であったことが示唆されます。感染対策への負担感や協力達成感が中核的信念の揺らぎに寄与したことは、関連する国外の研究ではみられなかった日本人独自の結果です」と、研究グループは述べている。
適切な感染対策の徹底は命を守るために必須であり、1人ひとりの自発的な対策行動が重要であることはいうまでもない。ただし、それによる社会と暮らしの変化が人間の心理にどのような影響をもたらすかを、同じ時代を生きる人同士で敏感に理解することが、感染症との戦いでは必要だと、研究者は指摘している。
「自分への自信や他者への信頼についての価値観は、1度目の緊急事態宣言発令中に感染対策に協力できていたと思う程度、協力を負担に感じていた程度、感染拡大そのものに感じたストレス、それにともなう収入の減少などの影響を受けます。感染症との戦いで、人の心理に生じる変化を考慮することは重要です」としている。
東北大学加齢医学研究所
東北大学加齢医学研究所スマート・エイジング学際重点研究センター
Core belief disruption amid the COVID-19 pandemic in Japanese adults(Humanities & Social Science Communications 2021年11月23日)