医師の働き方改革 長時間労働に従事する医師の睡眠は6時間は必要 精神運動覚醒テスト(PVT)で評価 順天堂大学

2024.11.12
 順天堂大学は、「医師の働き方改革」に関する新たな評価手法を確立したと発表した。精神運動覚醒テスト(PVT)が、抑うつ・バーンアウトと有意に関連することを発見した。

 日本全国の1,200人以上の医師を対象に、PVTを実施し、慢性の睡眠不足を客観的に評価する実証実験を行った結果、(1) 長時間労働の医師は睡眠が短い、(2) 短時間睡眠ではPVTで測定される覚醒度が低下、(3) 覚醒度の低下は医師の抑うつ、バーンアウト(燃え尽き症候群)の程度と有意に関連することなどを明らかにした。

 これらの結果より、1日あたり6時間以上の睡眠を確保することで、PVTの成績を一定のレベル維持できることを明らかにした。そのためには年間960時間を超さない程度の残業時間レベルが求められるとしている。

 研究成果は、「医師の働き方改革」の一環として、同大学のグループが核となって作成した「長時間労働の医師の健康確保措置に関するマニュアル」で、面接指導対象医師のPVT実施を推奨する重要なエビデンスに位置付けられるとしている。

医師の睡眠を精神運動覚醒テスト(PVT)で客観的評価

 「医師の働き方改革」で長時間労働は課題になっているが、日本全国の医師を対象とした時間外・休日労働時間(以後、残業時間)の2019年の調査では、10%弱の医師は年間残業時間が1,860時間(月当り残業155時間)であり、過労死ライン(月あたり残業100時間)を超えている。

 長時間労働は心身の健康に影響を及ぼすが、(1) 日常的に自己犠牲的な態度で業務に従事、(2) 生理学的に慢性の疲労・睡眠不足は自覚困難などの理由により、医師本人からの疲労・睡眠に関する正確な自己申告を期待できない。

 研究グループは後者については、2万人の職業運転者を対象として調査した先行研究で、睡眠の問題があっても主観的な眠気などが強くなるとは限らないことを明らかにしている。

 そこで、長時間労働に従事する医師の睡眠について客観的評価が必要と考え、その手法として、精神運動覚醒テスト(PVT)に注目した。PVTは、共同研究者である米国ペンシルバニア大学のDavid Dinges教授が開発した、覚醒度を客観的に評価する検査で、数字が出るとボタンを押下する、という動作を3分間あるいは10分間繰り返し、その間の反応速度から覚醒度を測定・評価する検査。共同研究者のDinges教授、Mathias Basner教授、Makayla Cordoza氏らは、これまでにもNASAの宇宙飛行士あるいは米国のレジデントの覚醒度評価に活用してきた実績がある。

 研究グループは今回の調査研究で、2019年度の医師に対する全国調査の機会に参加医師を募り、覚醒度の客観的評価にPVTを活用した。1,200人を超す医師が参加し、PVTを実施した。

 PVTによる覚醒度の指標として反応速度および反応遅延回数を、抑うつおよびバーンアウト(psychological health)の程度は、それぞれ、CES-D質問票(抑うつ状態に関する質問票)およびバーンアウトに関する質問票(Maslach Burnout Inventory)を用いて評価した。

6時間以上の睡眠確保により抑うつや職場のストレスは緩和

 その結果、以下の結果が得られた――。

(1) 長時間労働の医師は、睡眠時間が有意に短く、6時間未満の睡眠である割合が増加した
(2) 6時間未満の睡眠では、PVTの成績が不良だった
(3) PVTの成績と抑うつ状態の程度、バーンアウトの程度が関連していた

 これらの結果より、1日あたり6時間の睡眠確保には、年間960時間を超さない程度の残業時間レベルが求められ、また6時間/日の睡眠確保により、PVTの成績も一定のレベルが維持できると考えられるとしている。

 研究グループはさらに、医師の働き方改革に関する先行研究で、6時間以上の睡眠確保により、残業時間が多くても、残業時間が多くない群と比較して、抑うつや職場のストレスの程度は有意には悪化していないことを明らかにしており、いずれも「長時間労働の医師の健康確保措置に関するマニュアル」の重要なエビデンスと位置付けられるとしている。

日本の医師における睡眠時間ならびに客観的覚醒度と心の健康との関連

出典:順天堂大学、2024年

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科公衆衛生学の和田裕雄教授、谷川武主任教授らが、米国ペンシルバニア大学と共同で行ったもの。研究成果は、欧州睡眠学会の公式ジャーナルである「Journal of Sleep Research」にオンライン掲載された。

 「2024年4月より本格実施の"長時間労働医師への面接指導"でも、本学では面接対象医師の覚醒度の評価をPVTを用いて実施している。このPVT導入の効果として、長時間労働の医師の覚醒度を客観的に評価するだけでなく、PVTの成績を自ら確認することを通じて『長時間労働の医師の健康確保措置に関するマニュアル』で目指す"医師が自分自身の睡眠不足・慢性の疲労、さらには、健康状態に気付く能力の涵養"という効果も期待される」と、研究者は述べている。

 今後の展開としては「現在の改正医療法によると、年間の残業時間は最長1,860時間までとなるが、さらに残業時間を短くすることが医師の健康確保には求められる。PVTを活用した睡眠の客観的評価は、医師だけでなく、医療関係者そして、エッセンシャルワーカー、さらには、さまざまな勤務体制に従事する働く人々のSleep Health(スリープ・ヘルス)の評価にも役立つと考えられる」と述べている。

順天堂大学大学院医学研究科公衆衛生学
Objective alertness, rather than sleep duration, is associated with burnout and depression: a national survey of Japanese physicians (Journal of Sleep Research 2024年8月12日)

「医師の働き方改革」.jp (厚生労働省)
長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアル(改訂版) (厚生労働省)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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