高齢者の「オーラルフレイル」に対策 フレイル予防のための「カムカム健康プログラム」を開始 東京医科歯科大学
オーラルフレイルの予防は注目されている
超高齢社会を迎えた日本では、介護・寝たきりの対策が急務の課題となっている。フレイルとは、介護前段階を意味し、加齢による筋力・筋肉量の低下を意味するサルコペニアなどを特徴とする「身体的フレイル」、うつや認知症などの「精神的フレイル」、孤独や閉じこもりからなる「社会的フレイル」からなる。
早期にフレイルに気づき、運動をしたりや栄養を十分に摂ることなどに気を付け、積極的に社会参加することで、健康な状態に戻ることができると考えられている。
一方、「オーラルフレイル」は、口の機能の衰えのこと。加齢にともない、口の機能が徐々に低下していくと、噛む力が弱くなり、軟らかい食べ物ばかり食べるようになる。軟らかいものばかり食べると、栄養が偏り、さらに噛む機能の低下につながるという、負のスパイライルにおちいる。
フレイル予備群の高齢者では、口腔機能の低下や食事摂取量の低下などが起きていることが多い。フレイルを予防するために、栄養価が高い食事の摂取と、その食事を食べる口腔機能の維持が重要であることが分かってきた。
政府も、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2022)」に、生涯を通じた歯科健診(国民皆歯科健診)の具体的な検討などを盛り込んでおり、オーラルフレイルの予防は注目されている。
オーラルフレイル予防プログラムを開発
そこで東京医科歯科大学などは、オーラルフレイルの予防と、その先にあるフレイル予防を目的に、「カムカム健康プログラム」を開発した。「カムカム」は栄養のある食事をしっかり「噛んで」食べ、口の健康を保つことを意味している。
このオーラルフレイル予防プログラムは、同大学地域・福祉口腔機能管理分野学の松尾浩一郎教授を研究代表者とした、科学技術振興機構 戦略的国際共同研究プログラムが開発したもの。
プログラムは、運動・社会参加を含めたフレイル予防のための複合プログラムでもあり、ふだんの運動に、栄養バランスのとれた噛みごたえのある食事「カムカム食」をプラスし、口のエクササイズや社会参加などについても盛り込んである。
「カムカム健康プログラム」のサイトでは、「肉や魚、野菜を食べないでいると、低タンパク質・低ビタミンになります」「やわらかいものばかり食べていると、高炭水化物・高脂質になります」などとして、▼1日2回以上の歯ブラシ・歯間ブラシと舌の清掃をする、▼歯科クリニックで定期的に検診を受ける、▼カラオケやおしゃべりをする、▼口腔トレーニングや唾液腺マッサージなど、具体的なアドバイスが紹介されている。
地域高齢者86人を対象に予防プログラムを実施
「高齢者の通いの場を利用したフレイル予防の取り組みは重要ですが、市民にとって無理がなく、楽しく継続的に参加できる取り組みであることも必要です」と、研究者は述べている。
同プログラムでは、食事を通して、オーラルフレイル予防についての意識変容を促す取り組みであり、地域在住高齢者を対象とした、口腔機能と運動機能が改善効果も報告されている。
研究では、大阪府大東市の地域高齢者86人を対象に、介入群には、12週間の運動プログラムと食事指導、噛みごたえのある食事「カムカム食」を提供し、対照群には、運動療法のみを提供した。
その結果、舌圧で測定した口腔機能は、介入群で有意に改善したが、対照群では変わらなかった手。さらに、体脂肪率や体力テストなどの結果も、介入群で対照群よりも有意に改善した。
「食べることは、人にとって生命維持機能のひとつであるだけでなく、根源的な喜びでもあり、人生のなかで最後まで残る楽しみでもあります。長生きを喜ぶひとつのかたちは、慣れ親しんだ場所で、いつまでも口からおいしく食べ、生きることを喜ぶことであると考えます。しっかり食べて活動することが健康寿命の延伸につながります」と、研究者は述べている。
に関する協業を開始
東京医科歯科大学大学院地域・福祉口腔機能管理学分野
地域在住高齢者へのオーラルフレイル予防プログラム"カムカム健康プログラム" (東京医科歯科大学)