GLP-1受容体作動薬が米国の肥満率を46.1%減らし、CVDリスクを17.8%抑制と推計

2023.09.20
セマグルチドで米国の肥満とCVDが著減する可能性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)であるセマグルチドの減量効果を検証した臨床試験の適格基準を満たす、すべての米国成人に同薬を使用した場合、肥満有病率が46.1%低下し、心血管疾患(CVD)イベントリスクは17.8%抑制されるとする推計データが報告された。米カリフォルニア大学アーバイン校のNathan D. Wong氏らの研究によるもので、詳細は「Cardiovascular Drugs and Therapy」に8月14日掲載された。

 米国における肥満(BMI30以上)の有病率は41.9%、過体重(同25~30未満)を含めると73.6%と報告されている。また、2030年までには肥満有病率が5割を超え、4人に1人は重度肥満(同40以上)になるとの予測もあり、それにともなう糖尿病をはじめとする心血管代謝性疾患の増加も想定される。一方、近年、GLP-1RAの減量効果が注目されており、例えば2021年に発表されたセマグルチドの臨床試験(Semaglutide Treatment Effect in People with Obesity;STEP1)では、同薬2.4mg/週の投与によって体重が14.9%減少したことが報告されている。Wong氏らはこれを背景に、米国の成人肥満者に対してセマグルチドによる介入を行った場合のインパクトを推計した。

 2015~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)の参加者1万9,255人のうち、STEP1の参加適格基準である「BMI30以上、またはBMI27以上の過体重で何らかのリスク因子を一つ以上有する」に合致するのは3,999人(肥満3,184人、過体重815人)だった。これを米国人口に当てはめた場合、9,302万7,041人(肥満7456万551人、過体重1846万6,490人)に、セマグルチドによる治療を適用可能と考えられた。この9,302万という人口にSTEP1で示された減量効果が同様に発揮されたと仮定すると、以下のように、肥満有病率やCVDイベントリスクが大きく低下すると予想された。

 まず、肥満者数は46.1%減少し4,300万人になると見込まれた。また、体重が5%以上減る人は8,040万人、10%以上減る人は6,430万人、15%以上減る人は4,700万人に上ると計算された。

 CVDについては、NHANESサンプルのうちCVD既往歴のない3,493人(米国全体で8280万人と試算)を対象として、前記と同様の手法で予測。その結果、向こう10年間のCVDリスクは10.15%から、絶対リスクで1.81%、相対リスクでは17.8%低下することが見込まれた。イベント件数では、介入が行われない場合が841万件、介入が行われた場合は691万件であり、150万件のイベントが回避されると考えられた。

 以上を基に論文の結論は、「STEP1研究の参加基準を満たす成人に対するセマグルチドによる治療は、米国の肥満有病率とCVDイベントを大幅に減少させ、医療費にも劇的な影響を与える可能性がある」とまとめられている。またWong氏は、「GLP-1RAは当初の治療対象であった糖尿病患者という枠組みを超えて、体重管理の手段として用いられるようになった。肥満はCVDによる身体の障害や死亡の主要な原因であることから、肥満または他の危険因子を伴う過体重の患者に対しては、この治療法を考慮すべきである」と述べている。

 なお、1人の著者が、セマグルチドのメーカーのノボノルディスク社を含む、医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

[HealthDay News 2023年8月22日]

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