中年の肥満男性では血糖値スパイクが日常的にみられる 健診では分からない"隠れ高血糖" 新たな診断方法が必要
血糖値スパイクは糖尿病の危険因子であり、動脈硬化を進め心筋梗塞の原因にもなる。「血糖値スパイクの検出には新たな診断方法が必要」と指摘している。
研究成果は、「Journal of Diabetes Science and Technology」に2021年5月25日付で掲載された。
"隠れ血糖値スパイク"は糖尿病のない人でも日常的にみられる
糖尿病のない人でも、持続血糖モニター(CGM)を実施すると、通常の健康診断や人間ドックではとらえきれない高血糖(隠れ血糖値スパイク)が日常的に認められることが、公立豊岡病院内分泌・糖尿病内科の岸本一郎科部長らの研究で明らかになった。
岸本氏らが、糖尿病発症の高リスク群である肥満をともなった中年男性を対象にブドウ糖負荷試験と持続血糖モニタリング(CGM)を行い、データが得られた36名の非糖尿病者の日常での高血糖の頻度を調べたところ、糖尿病がなくても中年肥満男性は、食後高血糖(血糖値スパイク)を頻繁にきたしていることが明らかになった。
通常の健康診断で受ける血糖検査のみならず、人間ドックなどで受けられる精密検査でさえ、血糖スパイクをとらえきれないことが示唆され、現状の検査方法ではとらえられない血糖値スパイク(隠れスパイク)の発見には新たな診断方法が必要であることが示唆された。
中年肥満男性は食後高血糖(血糖値スパイク)を頻繁にきたしている
現在までの欧米および日本人を対象とした研究で、ブドウ糖負荷試験が正常と判定される人では血糖値がほぼ70~140mg/dLの間に収まっていることが知られている(Zhou J et al. Diabetes Care 2009など)。
他方、耐糖能が正常でも肥満があると、非肥満者に比較して血糖の平均値が高く変動が大きいことが報告されている(Ma CM et al. Obesity 2011)。しかし、糖尿病のない肥満者の日常生活での食後高血糖(血糖値スパイク)の頻度は明らかにされていない。
そこで岸本氏らは、糖尿病発症の高リスク群である肥満をともなった中年男性50名を対象にブドウ糖負荷試験と持続血糖モニタリングを行い、データが得られた36名の非糖尿病者の日常での高血糖の頻度を調べた。対象者の年齢の中央値は54歳、体格指数(BMI)は27.9だった。
その結果、空腹時血糖値は92mg/dL、HbA1c値は5.4%、ブドウ糖負荷試験2時間値は112mg/dLとすべて正常範囲だった。しかし、対象者の47%で最高血糖値が200mg/dLを超えていた。また、30%で5回に1回は食後の血糖値が180mg/dLを超えていた。
耐糖能正常の日本人若年非肥満者の平均血糖は101mg/dL、標準偏差は16.5mg/dLと報告されているが(Tsujino D et al. Diabetes Tech Ther, 2009)、中年肥満男性を対象とした今回の研究結果では平均血糖113mg/dL、標準偏差は20.7mg/dLと明らかに高い値だった。
血糖値スパイクは糖尿病の危険因子 動脈硬化を進め心筋梗塞の原因にも
これらの事実は、糖尿病がなくても中年肥満男性は食後高血糖(血糖値スパイク)を頻繁にきたしていることを示している。血糖値スパイクは将来の2型糖尿病発症の危険因子であるのみならず、それ自体が動脈硬化を進め心筋梗塞の原因になることが知られている。
さらに、がんや認知症などとの関連も指摘されており、早期に高血糖を改善しておくことが重要だが、通常の健康診断で受ける血糖検査のみならず人間ドックなどで受けられる精密検査でさえ、血糖スパイクをとらえきれないことが示唆されている。
岸本氏は、「中年肥満男性では現状の検査方法ではとらえきれていない血糖値スパイクが多く認められ、その効果的な検出には新たな診断方法が必要であることが明らかになりました。現在、われわれは本研究で明らかになった高血糖頻度と関連する因子を解析しており、さらに血糖値スパイクをきたしやすい状況が明らかになることで、糖尿病や動脈硬化の予防につなげたいと考えています」と述べている。
研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED:課題番号JP16ek0210034)と豊岡病院臨床研究助成の支援を受け実施された。研究成果は、「Journal of Diabetes Science and Technology」に2021年5月25日付で掲載された。
公立豊岡病院内分泌・糖尿病内科
Hyperglycemia During Continuous Glucose Monitoring in Obese/Overweight Male Individuals Without Diabetes
Ichiro Kishimoto, Akio Ohashi (Journal of Diabetes Science and Technology. 2021年5月25日)