糖尿病治療薬のメトホルミンを心房細動治療薬として転用できる可能性 ドラッグ・リパーパシングを適用

2022.11.02
 米クリーブランド クリニックは、心房細動の新たな転用治療薬の候補として、糖尿病治療薬として広く利用されているメトホルミンを特定したと発表した。研究成果は、「Cell Reports Medicine」に掲載された。

 研究は、糖尿病治療薬であるメトホルミンに対し、既知の薬効などを利用し別の疾患への適用を探るドラッグ・リパーパシングを適用したもの。研究グループは、遺伝子配列決定についての高度な計算により、メトホルミンの標的が心房細動で調節不全となった遺伝子と著しく重複していることを確認した。

心房細動の新たな治療法が求められている

 「心房細動の新たな治療薬や治療法が求められていますが、重篤な副作用の潜在的な可能性があり、10年以上にわたり新薬の承認は行われていません」と、米クリーブランド クリニック心臓・血管・胸部研究所心臓血管内科のMina Chung氏は言う。

 「新薬を創薬し臨床試験を実施するまでに、通常は20年以上かかりますが、ドラッグ・リパーパシングの手法であれば、医薬品開発パイプラインを10年以上短縮できます。現在はAI技術などの進歩により、非常に効率の高い方法で試験を行うことが可能になっています」と、同クリニックのラーナー研究ゲノム医学研究所のFeixiong Cheng氏は言う。

 研究は、心房組織から薬物標的までの差次的に発現する遺伝子のネットワーク近接解析が、心房細動の転用薬物の優先順位付けに役立つことを示したもの。

 研究グループは、心房細動に関連する30の遺伝子を標的とし、メトホルミンがうち8つの遺伝子発現に直接影響を与えることを明らかにした。分析では他にも8つの候補薬が浮上したが、メトホルミンはもっとも有望な心房細動の転用薬物候補として特定された。

 大規模で縦断的な電子医療記録(EHR)の新たな設計分析であるアクティブ コンパクターを使用して、メトホルミンの使用が心房細動のリスク減少と有意に関連していることを解明した(オッズ比=0.48、95%信頼区間[CI] 0.36~0.64、p<0.001)。

 研究グループは、ネットワーク医療アプローチを使用して、分子相互作用の膨大なネットワークを作成し、転用候補薬を発見する研究を行っている。今回の研究では、3件のデータソースを分析し、FDAが承認した2,800件の治療薬のリストを選別し、心房細動に関連する遺伝子ネットワークと各医薬品の分子的もしくは遺伝的標的を含む、「インタラクトーム」と呼ばれるタンパク質間の相互作用のマップを作成した。

 「心房細動は、世界でもっとも一般的にみられる不整脈であり、脳卒中や心不全などの合併症を引き起こす危険性があります。主な治療法は、心臓イオンチャネルに作用する薬物による不整脈の予防、もしくは肺静脈からの異常電気信号が心臓全体に伝わらないようにする心臓カテーテルアブレーション治療ですが、副作用や潜在的な合併症リスクもあり、成功率の上昇にも限界があるなどの課題があります」と、Chung氏は言う。

 「心房細動の新たな治療薬や治療法が求められています。メトホルミンをもっとも有望な心房細動の転用薬物候補として特定したことで、今後の試験に期待しています」としている。

 研究グループは、ヒト幹細胞から成長させた生きた拍動する心臓細胞を用いた実験で、ネットワーク分析により、メトホルミンに遺伝子発現に対する肯定的な作用があることも突き止めている。

Cleveland Clinic researchers identify diabetes drug metformin as potential atrial fibrillation treatment in collaborative research (クリーブランド クリニック 2022年10月11日)
Transcriptomics-based network medicine approach identifies metformin as a repurposable drug for atrial fibrillation (Cell Reports Medicine 2022年10月18日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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