糖尿病治療薬のメトホルミンに筋萎縮や筋線維化を防ぐ効果 メトホルミンが高齢者の筋肉の使用不能後の回復と改善を促す
メトホルミンの抗老化特性を解明 筋萎縮や筋線維化を防ぐ効果を確認
高齢化にともなう筋力低下により、転倒・入院、慢性疾患の発症リスクが高まることから、筋肉の非活動性萎縮と筋力回復の両方を標的とした治療法が求められている。
長期間の入院などで安静状態が続くと関節の運動制限が生じ、日常生活動作の能力低下をまねく。これには、骨格筋の線維化にともなう伸張性の低下が関与すると考えられている。
若年者は一般に、メトホルミンなどの介入がなくても、筋肉を使用しなくなった後に比較的短期間で回復するが、高齢者では、免疫機能不全があり、体が老化細胞を除去することが難しくなり、老化細胞が蓄積されていく。それが、高齢者が筋肉を一定期間使用しなくなった後の回復が送れる原因のひとつになっている。
一方、メトホルミンの抗老化特性は、これまで前臨床研究を通じて実証されており、メトホルミンの使用により、筋肉量の減少を抑制したり、高齢糖尿病患者のサルコペニアやフレイル指標を減少することが報告されている。
そこで、ユタ州立大学医学部理学療法・運動トレーニング部のMicah Drummond教授らは、年齢が60歳以上でBMIが30未満の健康な男女の20人を対象に、複数週間の介入試験を実施した。参加者に介入前に筋生検とMRIを受けてもらい、5日間の床上安静を求めた。
2週間の導入期間中に、10人の介入群にはメトホルミンを投与し、残りの10人の対照群にはプラセボを投与した。その後、各グループに床上安静中にメトホルミンあるいはプラセボの投与を続けた。
床上安静の後、両群ともに再度、筋生検とMRIを実施し、7日間の再歩行期間を設けた後に、最終の筋生検を行った。
その結果、床上安静中にメトホルミンを投与した群では、不使用時のI型筋線維萎縮が少なく、炎症促進性転写プロファイルが低下し、回復時の筋コラーゲン沈着が少ないことが示された。コラーゲン含有量と筋線維のサイズは、筋肉全体の細胞老化とSASPマーカーの減少に応じていた。
さらに、メトホルミン投与により、筋肉に常在する原発性線維脂肪前駆細胞(FAP)の老化マーカーが減少し、筋線維芽細胞への移行が促進された。
メトホルミンが高齢者の筋肉の使用不能後の回復と改善を促す
これらの結果は、メトホルミンによる前処理が、骨格筋およびFAPの細胞老化、および細胞老化を検出するためのSASPマーカーを変化させることにより、高齢者が筋肉を使用しなくなった後の細胞外マトリックス(ECM)リモデリングを改善することを示唆している。
「メトホルミン投与により、筋萎縮が減少し、回復期間中には筋肉の線維化や過剰なコラーゲンも減少した。これらが蓄積すると、筋肉が適切に機能することが困難になる。コラーゲン含有量と筋線維のサイズは、筋肉全体の細胞老化とSASPマーカーの減少に応じていた」と、Drummond教授は述べている。
研究グループは、参加者全員に筋生検を行い、メトホルミンを投与した参加者は、細胞老化のマーカーが少ないことも発見した。
「今回の研究は、メトホルミンによる細胞の老化をターゲットとした治療法と、老化による筋肉の使用不能後の筋肉の回復と改善のあいだの直接的な関係を明らかにしたものだ」と、筆頭著者のJonathan Petrocelli氏は言う。
「メトホルミンが、運動不足からの回復期間中に、筋肉細胞の再構築と組織の修復を促進する可能性がある」としている。
「この研究の臨床応用に期待している。たとえば高齢者の膝の手術は回復が難しいことで知られているが、回復期にメトホルミンを投与すると、筋肉がより早く正常に戻るのを助けられる可能性がある」と、Drummond教授は述べている。
研究グループは次の目標として、患者が年齢を重ねても筋肉量と機能を維持できるようにするため、メトホルミンと、筋肉の成長を促し回復を加速する可能性のあるロイシンなどとアミノ酸と組み合わせる介入を計画している。前臨床動物実験では、この組み合わせの有効性をすでに実証しているとしている。
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