【新型コロナ】新たな変異株BA.2.75はこれまでで感染力が最高の可能性 流行を警戒する必要が
オミクロンBA.2.75株は、過去のどの変異株よりも感染しやすく、ワクチン効果も低い可能性
オミクロンBA.2系統の亜系統であるBA.2.75株は、6月インドからはじめて報告されたのを皮切りに、日本を含む各国で検出されている。
神戸大学と富山大学の研究グループは、BA.2.75株の感染力について、(1)武漢株からのスパイクタンパク質遺伝子の進化距離(ワクチンの効果)、(2)スパイクタンパク質とヒト細胞受容体(ACE2)の結合親和性(コロナウイルスの細胞への感染)、の2点を解析し予測した。
その結果、オミクロンBA.2.75株は、流行中のBA.5株と比べ武漢株との進化距離が遠く、ワクチンによる中和抗体の効果の低下が示唆された。
また、オミクロンBA.2.75株のスパイクタンパク質とACE2との結合親和性は、突出して高いことが判明し、細胞へ感染しやすいことが示唆された。
「今回の解析結果から、オミクロンBA.2.75株は、過去のどの変異株よりも感染しやすく、またワクチン効果も低い可能性が示され、今後の動向を警戒する必要があります」と、研究グループでは述べている。
研究は、富山大学附属病院臨床研究管理センターの特命助教で神戸大学大学院医学研究科地域社会医学・健康科学講座医療システム学分野の医学研究員の菅野亜紀氏と、富山大学先端抗体医薬開発センターの副センター長で富山大学大学院医学薬学教育部計算創薬・数理医学講座の教授(附属病院医療情報・経営戦略部部長)および神戸大学大学院医学研究科地域社会医学・健康科学講座医療システム学分野の客員教授である髙岡裕氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「bioRxi」で公開された。
新型コロナ研究でも分子シミュレーション解析は有効な手法
研究グループはこれまで、コンピュータシミュレーションを駆使した分子シミュレーション解析を駆使して、計算創薬、薬効予測、副作用予測、病態解明に取り組み、数理モデル化によるタンパク質の機能予測を実現するなど、多くの研究成果をあげている。
分子シミュレーションは、タンパク質の3次元構造をコンピューター上に描出し、タンパク質同士や低分子化合物などとの物理的・化学的相互作用を解析する研究手法。数多くのタンパク質が公的なデータベースに登録されており、研究に用いられている。
実際、新型コロナウイルスのスパイクタンパクとヒト細胞の受容体ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)への結合を分子シミュレーションで再現し、その結果を用いて感染力予測の数理モデル化した研究を6月に発表し、スパイクタンパクが細胞の受容体ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)に結合するのを防ぐ生薬の成分の発見を2月に発表するなど、新型コロナウイルス関連の研究でも分子シミュレーション解析が非常に有効な手法であることを示している。
新型コロナウイルスの変異株の感染力の予測は、今後の感染対策を立てやすくするためにも重要となる。そこで今回、新型コロナウイルスBA.2.75株について、S遺伝子(スパイクタンパク質の遺伝子)の進化距離を武漢株のワクチン効果の指標として、分子シミュレーション解析による変異株のスパイクタンパク質とACE2の結合親和性を細胞への侵入(感染)の指標として解析した。
菅野特命助教が中心となり、S遺伝子の進化距離を解析するとともに、分子シミュレーションによりBA.4/5株とBA.2.75株のスパイクタンパク質の構造解析と、ヒトACE2との結合親和性を解析した。
その結果、BA.2.75株は、(1)(2)ともに最も数値が大きく、ワクチンが効きにくく高い感染性を有することが示唆された。なお今回の結果には、BA.2.75株の重症化リスクについての知見は含まれない。しかし、仮に重症化リスクが低い場合であっても、感染者が多くなると結果として重症者の数も増えると予想され、警戒を要するとしている。
「今後も、新たな変異株が出現した場合には、迅速な解析により変異株の性質に関する情報を提供してまいりたいと考えています」と、研究グループでは述べている。
神戸大学医学研究科・医学部
SARS-CoV-2 Omicron BA.2.75 variant may be much more infective than preexisting variants (bioRxiv 2022年8月27日)