境界型糖尿病の段階でアルツハイマー病リスクは1.30倍に上昇 大規模認知症コホート研究「JPSC-AD」の成果
大規模認知症コホート研究「JPSC-AD」の成果
研究は、金沢大学医薬保健研究域医学系脳老化・神経病態学(脳神経内科学)の山田正仁名誉教授、医薬保健学総合研究科認知症先制医学講座の篠原もえ子特任准教授、九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Alzheimer’s disease」にオンライン掲載された。
「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究(JPSC-AD)」は、2016年に開始された、全国8地域の高齢者1万人からなる大規模な認知症コホート研究。
研究グループは、JPSC-AD研究で2016~2018年に実施した調査に参加した全国の1万214人の高齢者を対象に、HbA1c値やGA値と、アルツハイマー病、血管性認知症との関連を解析した。
HbA1cは過去の1~2ヵ月の平均血糖を反映しており、血糖コントロールの指標となる。一方、GA(グリコアルブミン)は、血清アルブミンにブドウ糖が結合したもので、過去の2~4週間の平均血糖を反映しており、より短期の血糖コントロール状態が分かる。
糖尿病予備群の段階でアルツハイマー病の発症は増える
その結果、糖尿病の診断、HbA1cの高値、グリコアルブミンの高値は、アルツハイマー病の発症と関連していることが分かった。糖尿病のある人は糖尿病のない人に比べ、アルツハイマー病の発症が1.46倍高かった。
さらには、HbA1cが5.7~6.4%で、糖尿病と診断されるほどではないが血糖値が高めの糖尿病予備群(境界型)でも、HbA1cが正常(5.7%未満)の人に比べて、アルツハイマー病罹患のリスクは1.30倍に上昇した。
糖尿病の治療の目標は、血糖値を下げることだが、血糖値が必要以上に下がる低血糖にも注意が必要となる。とくに高齢者では低血糖が起こりやすい。
高齢者の血糖コントロール目標は、認知機能や日常生活動作(ADL)が良好であれば、血糖降下薬を考慮したうえで、HbA1c 7.0%程度とされている。これは、高齢者では低血糖のリスクを避けることが重要だからだ。
しかし、今回の研究ではHbA1c 6.5%以上でアルツハイマー病罹患の調整オッズ比は1.72(1.19-2.49、P<0.05)となった。「今回の研究結果により、認知症を予防するためには、より十分な血糖コントロールが望ましい可能性があることが示されました」と、研究グループでは述べている。
「糖尿病人口は不健康な食事、運動不足、肥満や高齢化を背景に増加し続けており、糖尿病により認知症をきたすメカニズムを明らかにすることは喫緊の課題です」としている。
研究グループは、2021~2023年に、同じ対象者について包括的な認知症スクリーニング調査を実施し、新たな認知症の発症や認知機能の変化を調査する予定としている。
「今後、縦断研究を行うことで、糖代謝異常がアルツハイマー病をきたす詳細なメカニズムを明らかにし、個々の認知症発症リスクに応じた予防・治療法を確立することを期待しています」。
健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究(JPSC-AD)
金沢大学医薬保健研究域医学系脳老化・神経病態学(脳神経内科学)
九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野
Diabetes mellitus, elevated hemoglobin A1c and glycated albumin are associated with the presence of all-cause dementia and Alzheimer’s disease: the JPSC-AD Study (Journal of Alzheimer’s disease 2022年1月4日)