コロナ禍でのメンタルヘルス悪化は看護師でも深刻 院内の相談体制や⼼理的サポートが重要 筑波⼤学

2023.05.09
 新型コロナの感染への恐怖は、病院の看護師や事務職で強いことが、筑波⼤学の調査で明らかになった。

 一方、感染症対策について院内で相談できることや、⼼理的・感情的なサポートが提供されることは、新型コロナへの恐怖の低さに関連していた。

 感染拡⼤に対応する病院職員のメンタルヘルスケアでは、幅広い⽀援体制が重要で、その際には、⼼理的・感情的なサポートや、業務内で⽣じた疑問を相談できるような枠組みを作ることが有効であることが⽰唆された。

新型コロナへの恐怖 病院の看護師で⼼理的苦痛が強いことが明らかに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡⼤下でのメンタルヘルスの悪化は社会的な問題となっており、患者の治療にあたる看護師などの病院職員については、とくに悪化しており、3割以上の医療従事者で抑うつや不安が問題となっていたという報告もある。

 その要因としては、新型コロナに罹患している患者の治療に携わることによる、▼肉体的・精神的な疲労、▼感染リスク、▼家族への二次感染への恐怖、▼差別や偏見など、さまざまなことが考えられている。

 感染症のパンデミックがもたらすメンタルヘルスへの悪影響は長期間に及ぶことも知られており、コロナ禍での医療従事者のメンタルヘルスは重要な課題となっている。

 そこで筑波大学は、新型コロナに対応した7病院の職員に対しオンラインアンケート調査を実施し、職種別の心理的苦痛と新型コロナへの恐怖、レジリエンスとの関連を明らかにした。

 研究は、筑波大学医学医療系の太刀川弘和教授、新井哲明教授、山懸邦弘教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Psychiatry」に掲載された。

医師や看護師などの新型コロナへの恐怖やレジリエンスを調査

 研究グループは今回、茨城県で新型コロナ患者に対応した病院7施設を対象にオンラインアンケート調査を実施。コロナ禍での病院職員のメンタルヘルスに関して、各職種の心理的苦痛に新型コロナへの恐怖やレジリエンスといった要因がどのように関連するかを検討した。

 レジリエンスは、「恐怖や困難や不利な状況を乗り越える回復⼒」として理解されており、職域のメンタルヘルスでも重要な役割を果たすと考えられている。

 2020年12月24日~2021年3月31日にアンケートに回答した709人のうち、欠損値のない634人(89.4%)を解析の対象とした。

心理的苦痛は看護職で2.27倍に レジリエンスも低い

 研究グループは今回、精神的健康の指標として、心理的苦痛[ケスラーの心理的苦痛尺度:K6]、新型コロナへの恐怖[新型コロナウイルス恐怖尺度:FCV-19S]、レジリエンス[14項目版レジリエンス尺度:RS14]について測定した。

 K6は、気分障害や不安障害のスクリーニングのために開発された⾃記式の⼼理尺度で、6項⽬の質問で構成される。FCV-19Sは、新型コロナの恐怖を測るために開発された⾃記式の⼼理尺度で、7項⽬の質問で構成される。また、RS14は、レジリエンスを測るために開発された⾃記式の⼼理尺度で、14項⽬の質問で構成される。

 その結果、職種と心理的苦痛は、新型コロナへの恐怖(FCV-19S)や、レジリエンス(RS14)を考慮しない場合にのみ関連していた。

 心理的苦痛との関連は、「看護職」2.27倍、「事務職・その他」3.98倍、「夜勤あり」1.51倍に上った。

 このことから、新型コロナに関連する業務の経験に限らず、職種と心理的苦痛の関連は、職員個人の新型コロナへの恐怖やレジリエンスにより説明されると考えられる。

 職種毎の新型コロナへの恐怖は、医師で低く[15.5点]、看護職[19.8点]、事務職・その他[19.7点]で高かった。

 また、レジリエンスは医師で高く[69.5点]、看護職[59.5点]、薬剤師・検査技師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士[62.0点]、事務職・その他[61.3点]で低いという結果になった。

看護職は新型コロナへの恐怖が強くレジリエンスが低い傾向がみられる

出典:筑波大学

「院内で相談ができる」「心理的・感情的なサポートを受けられる」ことが重要

 新型コロナへの恐怖と、各病院での新型コロナ関連の取り組みに関する認識の関連については、感染症対策に関して、「院内で相談可能な状況であること」や「心理的・感情的なサポートを受けることが可能な状況にあること」が、新型コロナへの恐怖の低値に関連していた。

 これらの結果から、コロナ禍での医療従事者のメンタルヘルス対策にあたっては、新型コロナに関連する業務に従事している人だけではなく、事務職を含めた幅広い職員を対象にする必要があり、とくに看護職や事務職への支援は重要と考えられる。

 また、職種による心理的苦痛の違いには、新型コロナへの恐怖やレジリエンスが関わっており、恐怖の軽減やレジリエンス向上への取り組みが有効であること、さらに、新型コロナへの恐怖の軽減にあたっては、一方的な知識の提供にとどまらず、精神的なサポートや、感染症対策に関して相談できる窓口の設置など、双方向性のある支援体制の構築と周知が重要であることが示唆された。

 「病院職員のメンタルヘルスに関する問題を検討する際には、職種や働き方による違いに目を向けることが必要です」と、研究者は述べている。

 「本研究はコロナ禍の渦中で実施されましたが、現在は、COVID-19の感染症法上の位置付けが5類に移⾏するように、ポストコロナの時代に突⼊しつつあります。当時と現在において医療従事者のメンタルヘルスの実態や関連要因は変化していると考えられるため、今後、本研究をふまえ、ポストコロナ時代における医療従事者のメンタルヘルスに関する調査を実施する予定です」としている。

病院7施設で「心理的苦痛」「新型コロナへの恐怖」「レジリエンスを測定」

 研究グループは今回の解析で、参加者をK6≧5点をカットオフ値(正常範囲の基準)として心理的苦痛がある群とない群に分割し、K6とその他の変数の関連性を明らかにするためロジスティック回帰分析を実施した。

 その際、RS14やFCV-19Sを考慮するかどうかで、K6と職種(医師を基準としてその他の職種と比較)との関連性が変化するかを検討した。また、職種毎のFCV-19SやRS14を示すとともに、FCV-19Sと各参加者の所属病院での新型コロナ関連の取り組みに関する認識の関連性も検討した。

 主な結果は次の通り――。

  •  FCV-19SとRS14を除いたモデルでは、看護職(オッズ比:OR=2.27、95%CI 1.29~4.01)、事務職・その他(OR=3.98、95%CI 2.09~7.58)、夜勤あり(OR=1.51、95%CI 1.01~2.27)が心理的苦痛に関連していた。

  •  RS14を加えたモデルでは、RS14(OR=0.93、95%CI 0.92~0.95)と事務職(OR=2.94、95%CI 1.46~5.94)は関連したものの、看護職(OR=0.96、95%CI 0.51~1.81)と夜勤(OR=1.32、95%CI 0.85~2.05)は関連しなかった。

  •  FCV-19Sを加えたモデルでは、FCV-19S(OR=1.28、95%CI 1.22~1.34)と同居者あり(OR=0.56、95%CI 0.35~0.89)が関連したが、職種や夜勤の有無は関連しなかった。

  •  RS14とFCV-19Sの両方を考慮したモデルでは、RS14(OR=0.93、95%CI 0.92~0.95)、FCV-19S(OR=1.29、95%CI 1.22~1.36)、同居者あり(OR=0.50、95%CI0.30~0.82)が関連したが、職種は関連しなかった。

筑波大学医学医療系 災害・地域精神医学
Association of fear of COVID-19 and resilience with psychological distress among health care workers in hospitals responding to COVID-19: analysis of a cross-sectional study (Frontiers in Psychiatry 2023年4月27日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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