慢性肝疾患による肝硬変の進展などを評価できるELFスコア NAFLDの有病率が上昇 日本初の検査試薬を発売 シーメンス
肝線維化を非侵襲に測定できるELFスコアに期待
肝線維化は、ウィルス性肝炎や、自己免疫性疾患、過度のアルコール摂取、脂肪性肝疾患などにより、肝臓が継続的に損傷を受けることで引き起こされる。進行すると肝硬変、肝不全、肝細胞がんなどのリスクが上昇する。
日本肝臓学会は、6月に開催した第59回総会で「奈良宣言2023」を発表。アルコールの摂取が少ないにもかかわらず肝臓の病気が進行する「非アルコール性脂肪性肝疾患」(NAFLD)の潜在的な有病率の上昇についても懸念を示している。NAFLDの全世界での有病率は全人口の25%に上り、日本でも中高年層を中心に、潜在的な患者は2,000万人以上に上ると推定されている。
日本では現在、NAFLDの診断では、体外から針を刺す肝生検が主流となっているが、肝生検は侵襲性の高さ、サンプリングエラー、合併症のリスクなどが課題となっている。
代わりにバイオマーカーを用いた、肝線維化の拾い上げや進度の推定も行われているが、新たな指標として、肝硬変、肝細胞がんやその他関連疾患への病態進展予測を客観的に数値化するELFスコアが注目されはじめ、欧米ではこのELFスコアを用いたNAFLDに対する新薬の開発も進められている。
ELFスコアは、ヒアルロン酸(HA)、プロコラーゲンIIIアミノ末端ペプチド(PIIINP)、マトリックスメタロプロテアーゼ組織インヒビター1(TIMP-1)という線維症に関連した3つのマーカーを、非侵襲的血液検査で測定値から算出するもの。他の検査所見や臨床所見と合わせて、慢性肝疾患患者の肝硬変や肝関連イベントへの進展リスクを評価することができる。
横浜市立大学附属病院の消化器内科部長である中島淳主任教授(横浜市立大学大学院 医学研究科 肝胆膵消化器病学教室)は、次のようにコメントしている。
「近年、日本をはじめ世界中で患者が増加している非アルコール性脂肪肝疾患患者では、これまで入院のうえで行う肝生検がゴールドスタンダードでした。そのため、グローバルレベルで肝生検によらないハイリスク患者の拾い上げの方法の確立が急務でした。血液検査や画像検査など、各種診断方法が開発されておりますが、血液検査では、欧米のガイドラインなどでも推奨されているELFテストが日本では使えませんでした。また、現在多くの新薬開発が行われておりますが、その治療効果の判定にELFテストが用いられており、近い将来、新薬登場では治療効果の評価にも使われることとなるでしょう」。
日本で初めて承認された慢性肝疾患の病態進展予測適用とELFスコア測定
シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクスが発売した「ケミルミ TIMP-1」は、血清中の組織メタプロテアーゼ阻害物質(TIMP-1)を測定する試薬。
日本ではじめて、肝臓の線維化進展の診断の補助および慢性肝疾患患者での病態進展予測に適用される試薬として承認され、肝線維化の進展および進展予測をあらわすELFスコアの算出を可能にする。
「ケミルミ TIMP-1」は、既発売の「ケミルミ ヒアルロン酸」および「ケミルミ PIIIP」と組み合わせて、同社の免疫自動分析装置Atellica IMでの測定に使用できる。
測定が可能な項目のひとつとしてELFスコアが追加されることで、医療機関は幅広い検査・診断を行えるようになり、スクリーニングの段階で患者の肝疾患のステージに合わせた適切な2次診療先や治療先の紹介が可能になるとしている。
また、患者にとっても、疾患が疑われる段階あるいは進行していない段階で肝生検を受ける身体的な負荷の軽減につながる可能性がある。さらには大型の医療機関へのアクセスが悪い地域に在住する患者に対する、NAFLDの非侵襲スクリーニングの機会の拡大に貢献するとしている。
肝臓疾患と検査:ELFスコア (シーメンスヘルスケア)
奈良宣言特設サイト (日本肝臓学会)