日本人脳卒中患者ではBMIが脳卒中後の転帰に影響 低体重は脳梗塞や脳出血の転帰不良に関連 国循が5.6万人のデータを解析
BMIは脳梗塞や脳出血の転帰不良に大きな影響をあたえる
日本人脳卒中患者では、脳卒中後の転帰にBMIが影響しており、低体重(BMI 18.5未満)は転帰不良に関連し、過体重(BMI 23~25)は、転帰良好に関連することを解明したと、国立循環器病研究センター(国循)が発表した。
研究は、国循が運営している「日本脳卒中データバンク」(JSDB)の登録情報を用いたもので、国内の多施設の脳卒中急性期患者の2006年1月~2020年12月のデータを解析した。
これまで肥満度の高い患者は、そうでない患者に比べて、生活習慣病や心血管病の発症リスクが高い一方、心血管病の発症後の機能回復はむしろ良好であることが報告されており、「obesity paradox」と呼ばれている。
高齢者の低体重は、低栄養やフレイルおよびサルコペニアといった全身状態や心身の脆弱性、身体的機能低下を反映することが多く、急性期脳卒中発症後の消耗に対して予備能が乏しいことが、転帰不良のメカニズムとして考えられる。
「フレイルやサルコペニアなどの影響が考えられる高齢者の体重減少の抑制は、脳卒中診療においても重要と考えられる」と、研究者は述べている。
研究は、国循脳血管内科の三輪佳織医長、吉村壮平医長、古賀政利部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Stroke」にオンライン掲載された。
低体重と脳梗塞や脳出血の転帰不良との関連を解明
研究グループは今回、JSDBに登録された計5万6,230人の急性期脳卒中例を、脳梗塞[IS、n=4万3,668、平均年齢74±12歳、男性61%]、脳出血[ICH、n=9,741、平均年齢69±14歳、男性56%]、くも膜下出血[SAH、n=2,821、平均年齢63±15歳、男性33%]のいずれかのグループに割り当てた。
その結果、次のことが明らかになった――。
- BMI 18.5未満の低体重は、脳梗塞と各病型(心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞)や脳出血における転帰不良のリスクを約1.4~2.3倍に高めた。
- 脳梗塞グループでは、低体重は他のグループに比べ、転帰不良リスクの可能性を高め[オッズ比 1.47、95%CI 1.31~1.65]、および院内死亡リスクの増加と関連していた[同 1.55、同1.31~1.83]。
- アテローム血栓性脳梗塞では、BMIと転帰不良にU字型の関連を認め、低体重と肥満はいずれも、転帰不良のリスクを高めた。
- 低体重[オッズ比 1.51、95%CI 1.19~1.90]、II度肥満[オッズ比 1.44、95%CI 1.01~2.17]。
- 低体重は、とくに重症の脳梗塞や再灌流療法後における転帰不良と関連していた。
- 脳出血患者では、低体重が転帰不良のリスク増加と関連していた[オッズ比 1.41、95%CI 1.01~1.99]。
- BMI 23~25の過体重や、80歳以上の高齢者でのBMI 25~30のI度肥満のグループは、脳梗塞後の転帰不良のリスクが9~17%低下し、obesity paradoxが認められた。
多変量解析後のオッズ比 アテローム血栓性脳梗塞におけるBMIと転帰不良のU字型関連
低体重と肥満はいずれも転帰不良のリスクを高める
- なお今回の研究では、BMIはWHOが推奨するアジア人における定義にもとづき、18.5未満を低体重、18.5~23未満を「正常体重」、23.0~25.0未満を「過体重」、25.0~30.0未満を「I度肥満」、30以上を「II度肥満」と分類した。脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分類した。さらに、脳梗塞病型を国際的に汎用されるTOAST分類を用いて、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、その他の脳梗塞、原因不明脳梗塞に分類した。
- 評価項目である退院時の転帰(患者自立度)は、国際標準尺度である修正ランキン尺度 (0[後遺障害なし]~6[死亡]の7段階の評価法)を用い、同尺度の5~6を転帰不良、0~2を転帰良好と定義した。
高齢者の体重管理の目標はBMI 25を基準にするのが適切か
- 肥満は脳卒中でも、発症リスク因子だが、脳卒中発症後の転帰に関する研究結果は一貫しておらず、これまで欧米で行われた複数の先行研究は、脳梗塞ではBMI 18.5未満の低体重の患者が転帰不良であると報告されているものの、obesity paradoxの関連は明らかではなく、また脳出血やくも膜下出血、さらに脳梗塞でも病型によって肥満度が転帰に関連があるかは明らかにされていなかった。
- また、日本は欧米に比べて肥満度の高い人が少ないことから、日本人集団に関する独自の検証が必要とされていた。そこで研究グループは今回、多施設国内共同レジストリ研究から、BMIが脳卒中病型毎の転帰におよぼす影響を検証した。
- 「大規模な個別臨床情報であるJSDBを使用して詳細な解析を行なった結果、先行研究と一致して、低体重と脳梗塞や脳出血の転帰不良との関連を認めた。フレイルやサルコペニアなどの影響が考えられる高齢者の体重減少の抑制は、脳卒中診療においても重要と考える」と、研究者は述べている。
- 「また、低体重だけでなく、BMI 30以上の肥満もアテローム血栓性脳梗塞後の転帰不良の危険因子であることが分かった。今回の研究結果から、高齢者の体重管理の目標値としてBMI 25を基準にすることが適切である可能性がある」。
- 「BMIは身長と体重のバランスを示す指標であり、BMIにもとづく体重管理は脳卒中の発症予防および重症化予防の実現可能な対策と言える。今後の脳卒中医療の啓発に、本研究結果は参考になると考える」としている。
国立循環器病研究センター
日本脳卒中データバンク
Clinical impact of body mass index on outcomes of ischemic and hemorrhagic strokes (International Journal of Stroke 2024年4月23日)