日本人の高血圧に健康格差 低所得と[肥満・飲酒・喫煙・運動不足]が関与 メタボ健診の1億人超のデータを解析 東京医科歯科大学など
高血圧の有病率は低所得者層で高い 日本人の高血圧の格差は拡大
東京医科歯科大学などは、ビッグデータを用いて、日本人の高血圧の健康格差とそれを説明する行動について分析した。その結果、高血圧の格差は拡大しており、肥満などの修正可能な要因の影響が大きいことが示された。
健康格差は、所得などによる健康の差異で、その解消は「健康日本21(第二次および三次)」でも基本的な方向として位置づけられている。
健康行動の格差が、高血圧の健康格差に寄与しており、生活スタイルなどの修正可能なリスク要因により、所得による格差を説明できる可能性がある。
そこで研究グループは、2009~2015年のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用い、特定健診・特定保健指導(メタボ健診)に参加した、のべ1億人を超える40~74歳の成人のデータを横断研究として解析した。
健診を受診した場所の市町村の平均所得を、社会経済状況の指標として用いて分析をした。対象となった男性は6,868万4,025人で平均年齢は54.7歳(SD=9.6)、女性は5,911万8,221人で平均年齢は56.7歳(SD=10.0)。
その結果、次のことが明らかになった――。
- 高血圧の有病率は、高所得者層(男性33.3%、女性21.5%)よりも、低所得者層(男性48.6%、女性40.2%)の方が高いという健康格差が示された。健康格差は経年的に増加する傾向もみられた。
- 高血圧の定義を血圧だけとして、降圧薬の有無で層別した分析も実施したところ、降圧薬を使用していない人の方が健康格差は大きかった。
- 所得が低いほど、不健康な行動や肥満が多いという傾向がみられた。ただし、女性では所得が高いほど喫煙や飲酒が多かった。
- 修正可能なリスク要因により、所得と高血圧の関連を、男性で10.6%、女性で15.1%説明できることが分かった。高血圧の格差は、男性では飲酒により8.8%、肥満により5.5%が説明される。女性では肥満により18.8%が説明される。
- 運動不足(1回30分以上の軽く汗をかく程度の運動を週2日以上、1年以上実施にいいえと回答)は、経年的に格差を説明する割合を増加させた。
のべ1億人超のメタボ健診受診者を分析
高血圧の格差:男性は飲酒と肥満、女性は肥満の影響が大きい
運動不足の影響も
リスク要因を改善すれば高血圧の健康格差は縮小
研究は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野の相田潤教授の研究グループが、京都大学、大阪国際がんセンターと共同で行ったもの。研究成果は、「Hypertension Research」にオンライン掲載された。
「日本人成人における高血圧には健康格差が存在し、修正可能なリスク要因は格差を部分的に説明できることが分かりました。このことは、これらのリスク要因を改善することで、高血圧の健康格差が縮小することを示唆しています。一方で、高血圧の健康格差が経年的に増加していたことから、格差への対策が求められます」と、研究者は述べている。
「健康格差は、さまざまな環境により生じており、自己責任で解消するものではないことが知られています。そのため、肥満予防や禁煙の健康教育といった方法の効果は低く、むしろ経済的に豊かで余裕がある人の健康だけを改善して、貧しい人の改善には寄与しないことが多いです。職場での健康的な食事の提供や、禁煙や禁酒につながる税制、運動する余裕ができる勤務時間など、人々を取り巻く環境へのアプローチが大切です」としている。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野
Modifiable risk factors of inequalities in hypertension: analysis of 100 million health checkups recipients (Hypertension Research 2024年3月5日)