糖尿病治療薬メトホルミンと免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が抗がん活性を高める 血管を正常化 岡山大学など

2024.11.19
 岡山大学などは、糖尿病治療薬であるメトホルミンと、がんの免疫治療で使われる免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)の併用療法が、血管を正常化し、抗がん活性を高めることを明らかにした。

 メトホルミンと抗PD-1抗体の併用により、インターフェロンγ(IFNγ)が産生され、IFNγが異常な腫瘍血管を正常化し、より多くの免疫CD8T細胞が腫瘍内に入るようになった。固形がんと戦うCD8T細胞は、腫瘍血管をまたいでがん組織内に入るが、腫瘍血管が粗雑なため、CD8T細胞の侵入をブロックしている。

 「今回の研究で、メトホルミンと抗PD-1抗体の併用療法は、腫瘍浸潤CD8T細胞を活性化し、その結果、大量に分泌されたインターフェロンγが異常な腫瘍血管を正常化、CD8T細胞のいっそうの内流入を促すことを見出した」と、研究者は述べている。

 「糖尿病の合併症である血管異常に対するメトホルミンの作用は、がん予防策になる可能性が示唆されており、糖尿病合併症の問題解決へ向けた突破口になる可能性も期待される」としている。

メトホルミンと免疫抗PD-1抗体の併用が血管を正常化し抗がん活性を高める
血管異常に対するメトホルミンの作用はがん予防策に

 岡山大学などは、糖尿病治療薬であるメトホルミンと、がんの免疫治療で使われる免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)の併用療法が、血管を正常化し、抗がん活性を高めることを明らかにした。

 がんの免疫治療では、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA4抗体などの免疫チェックポイント阻害薬が臨床の使用されている。これらの抗体医薬は、固形がんの中で免疫疲弊してしまったCD8T細胞の機能と増殖能を回復し、ふたたびがん細胞を攻撃できる状態に戻す働きをする。

 T細胞であるCD8T細胞は、細胞傷害性T細胞とも呼ばれ、がん細胞やウイルス感染細胞を殺傷するが、CD8T細胞が末梢血液中にあっても、腫瘍血管内から血管外へ出て、がん組織のなかへ入っていくことができないと効果を得られない。

 腫瘍血管は、正常血管とはまったく性状が異なっており、CD8T細胞の血管外への侵入をブロックしてしまう。この異常な腫瘍血管をいかに正常化できるかが課題になっている。

 研究グループはこれまでに、マウス腫瘍モデルでの抗PD-1抗体による治療効果は、メトホルミンを加えた併用治療により大幅に改善されること、この併用治療では抗PD-1抗体単独治療に比べて、インターフェロンγ(IFNγ)を産生するCD8T細胞の著しい増殖が認められることを報告している。

 今回の研究では、メトホルミンと抗PD-1抗体の併用療法が、腫瘍血管内皮細胞のVE-カドヘリン、VCAM-1の発現を促し、かつ血管を取り巻く周皮細胞の数を増加させることを見出した。

 血管内皮接着接合部の主成分であるVE-カドヘリンが増加することで、血管内皮細胞の相互の結合が強まり、液体成分が漏れないように血管壁が整えられる。さらには、周皮細胞の増加は血管壁に弾力性をもたらし、血液灌流を大幅に改善することを明らかにした。

 さらに、腫瘍浸潤CD8T細胞の数が、併用治療群で優位に上昇することも確認した。VCAM-1分子は、活性化CD8T細胞ががん組織内に侵入するために必要な足場として機能することが知られている。

 これらの変化は、メトホルミンと抗PD-1抗体の併用治療により、腫瘍血管の正常化が起きたことを示している。この併用治療による腫瘍血管正常化は、CD8T細胞の分泌するIFNγによってもたらされることが明らかになった。

 さらにヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をIFNγまたはメトホルミンと共培養すると、VE-カドヘリンおよびVCAM-1の発現上昇がみられ、IFNγとメトホルミンを同時に添加することで、相乗的な発現上昇がみられた。これは、腫瘍血管内皮細胞で観察された実験結果と符合する結果としている。

 研究グループは一連の実験結果により、抗PD-1抗体とメトホルミンの併用療法は、まずCD8T細胞を活性化し、産生されたIFNγを介して、血管内皮細胞のVCAM-1発現を促進することでCD8T細胞の接着を促し、同時に血管壁に小孔の形成(open gate)を誘導して、CD8T細胞の血管内から血管外への移動を可能にする、さらに移動が完了するとVE-カドヘリンによる血管内皮細胞の連結が速やかに起こることで、小孔の閉鎖(close gate)をもたらし、結果的に腫瘍血管のホメオスタシスをダイナミックに維持しているのではないかとみている。

メトホルミンと免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)の併用が腫瘍血管を正常化
出典:岡山大学、2024年

 「今回の発見は、現行のがん免疫治療にメトホルミンを併用することで、がんの治療効果が大幅に改善するメカニズムの一端に、腫瘍血管正常化があることを示唆している。異常な腫瘍血管を正常血管へと導く薬剤の開発が注目されているが、この目的が達成可能であることをあらためて示唆するものだ」と、研究グループでは述べている。

 腫瘍血管の正常化を促進する薬剤の開発は世界的な競争のなかにあり、メトホルミンと現行の免疫治療薬との併用で、腫瘍血管を正常化し、抗腫瘍効果を改善できることが期待されるとしている。

 「メトホルミンとIFNγの血管内皮細胞へ及ぼす相乗効果の詳細解明が期待されると同時に、糖尿病の合併症である血管異常に対するメトホルミンの作用は、がん予防策になる可能性が示唆されており、糖尿病合併症の問題解決へ向けた突破口になる可能性も期待される」としている。

 研究は、岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)免疫学の鵜殿平一郎教授、徳増美穂助教、西田充香子助教、金沢大学の内藤尚道教授、北海道大学の樋田京子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceeding of the National Academy of Sciences USA」にオンライン掲載された。

岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)免疫学
Metformin synergizes with PD-1 blockade to promote normalization of tumor vessels via CD8T cells and IFNγ (Proceeding of the National Academy of Sciences USA 2024年7月17日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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