2型糖尿病が家族歴の影響をもっとも強く受けることが判明 糖尿病・高血圧・脂質異常症のリスクに対する家族歴の影響を調査 新潟大学
新潟大学は、人間ドック受診者 4万1,361人を対象に、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症に関する詳細な「家族歴(親族における疾患発生状況)」が、各疾患の有病リスク、あるいは将来の発症リスクに及ぼす定量的な影響を、それぞれ横断解析と縦断解析により明らかにした。
家族歴は非常に有用なリスク評価指標であり、これを詳細に聴取・把握することにより、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症の現在の有病リスクと将来の発症リスクを個人別かつ定量的に評価可能であることが示された。
糖尿病、高血圧、脂質異常症のリスクに対する家族歴の影響を健診大規模データにより解明
新潟大学は、人間ドック受診者 4万1,361人を対象に、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症に関する詳細な「家族歴(親族における疾患発生状況)」が、各疾患の有病リスク、あるいは将来の発症リスクに及ぼす定量的な影響を、それぞれ横断解析と縦断解析により明らかにした。
横断解析では、3疾患いずれについても、何らかの家族歴がある人は、ない人と比較して、2~3倍の有病リスクの上昇がみられ、その影響度は、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧の順に強いことが分かった。
また、3疾患いずれについても、親族内罹患者数が多いほど有病リスクが上昇した。その傾向は、とくに2型糖尿病で他2疾患より著しく、家族歴がない人と比較した有病リスクは、罹患親族数2人で約6倍(他2疾患では約3倍)、同3人以上では約12倍(他2疾患では約4倍)、3世代にわたる家族歴が存在する場合には約20倍に達した。
家族歴と肥満はいずれも、しかも相加的に各疾患の有病リスクを上昇させた。とくに高血圧の家族歴を有しBMI 30以上の肥満の人の高血圧有病リスクは、家族歴がなくBMI 正常(18.5~24.9)の人に比較し約19倍高かった。
観察期間中央値5~6年間の縦断解析による発症リスクの比較では、2型糖尿病が他2疾患より家族歴の影響を強く受けることが判明した。
研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野の池田和泉客員研究員、藤原和哉特任准教授、曽根博仁教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Mayo Clinic Proceedings」に掲載された。
2型糖尿病が家族歴の影響をもっとも強く受ける
3世代にわたり2型糖尿病の親族がいる人の有病リスクは20倍に上昇
研究グループは今回、虎の門病院健康管理センター(東京都)の人間ドック受診者 4万1,361人を対象に、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症の3疾患それぞれについて、横断解析により有病リスクを解析し、その後観察期間中央値5~6年間の縦断解析により発症リスクを明らかにした。
具体的には、(1) 親族の種類(親、兄弟姉妹、祖父母)ならびにそれらの組み合わせや人数、世代などの詳細な家族歴の影響の検討およびその3疾患間の比較、(2) 上記3疾患いずれにも関連が深い肥満(の程度)と家族歴との組み合わせの影響の検討、(3) 横断解析(有病リスク)と縦断解析(発症リスク)の両方の検討ならびに3疾患間の比較を行いった。
対象者の有病率は、2型糖尿病 5%、高血圧 21%、脂質異常症 32%で、家族歴を「親、兄弟姉妹、祖父母」に1人以上罹患者が存在すると定義した場合、家族歴をもつ人の割合は、各疾患それぞれ19%、36%、5%だった。
横断解析では、3疾患いずれについても、上記定義による家族歴がある人は、ない人と比較して、2~3倍の有病リスク上昇がみられ、その影響度は、2型糖尿病(約3.2倍)、脂質異常症(約2.8倍)、高血圧(約2.3倍)の順に強くみられた。
この結果は、家族歴の範囲を「親、兄弟姉妹、祖父母」から「親と兄弟姉妹」または「親のみ」へ変更しても、ほとんど変わらず、これによりとくに親の家族歴の影響力の強さが示された。
一方、3疾患いずれでも、家族内の罹患者合計数が多いほど有病リスクが上昇した。その傾向はとくに2型糖尿病で顕著で、家族歴がない人と比較した有病リスクは、罹患親族数1人の場合約2.7倍であったものが、同2人では約6倍(他2疾患では約3倍)、同3人以上では約12倍(同 約4倍)と大きく上昇した。さらに、3世代にわたる家族歴が存在する場合にはこのリスク上昇度は約20倍にも達した。
このことから、とくに2型糖尿病の親族内罹患者が2名以上いる人は、若い頃から食事・運動などに注意し、毎年欠かさず健診を受けるなど早めの対応が望まれるとしている。
さらに、家族歴と肥満はどちらも各疾患の有病リスクを上昇させており、両方の要因を併せもつと著明な上昇がみられることが判明した。たとえば1人以上の高血圧の家族歴罹患者がいる場合、BMI 30以上の肥満をともなうと高血圧有病リスクは、家族歴がなく正常BMI(18.5~24.9)の人の約19倍も高まることが分かった。
また、「親、兄弟姉妹、祖父母」に2人以上の糖尿病罹患者がおり、さらにBMI 25以上の肥満があると、いずれもない人と比較して、糖尿病有病リスクは13倍に上昇した。
縦断解析では、観察期間約5~6年間(中央値で2型糖尿病 5.8年、高血圧 5.6年、脂質異常症 5.0年)における2型糖尿病、高血圧、脂質異常症の発生率は、それぞれ3%、11%、38%になり、家族歴がこれら3疾患の発症における独立したもっとも強いリスク因子の1つであることが確認された。
3疾患のうち2型糖尿病(家族歴「なし」に対し「あり」が約2.4倍の発症リスク)が、他2疾患(いずれも同約1.4倍)より、家族歴の影響を強く受けることが判明した。
現代でも家族歴は有用なリスク評価指標に 早期のリスク把握や予防介入に役立つ
2型糖尿病、高血圧、脂質異常症は、いずれも遺伝と環境の双方が深く関与するため、これら両要因を含む家族歴が発症に強く影響することが古くから知られている。家族歴には遺伝以外の生活習慣要因などが含まれるため、最新の遺伝子リスクスコアとも相関が少なく独自の意義があることが報告され、しかも容易かつ費用なしで把握できるというメリットもある。
しかし、家族歴にはさまざまな程度や状況(どのような近親者が何人罹患しているかに関する詳細)があるにも関わらず、これまで、これら3疾患で詳細な家族歴がどの程度の影響力を有するかについては、3疾患間の比較を含め未解明な点が多くあった。また家族歴と、これら3疾患共通のリスク要因である肥満との相互関係も十分検討されていなかった。
「家族歴は一般の人でも容易かつ費用なしに把握でき、医療保健現場では古くから聴取されてきた基本的指標です。それにも関わらず現在でも十分活用されているとは言えず、家族歴とこれら3種類の生活習慣病との関連を、これほど詳細に比較解析した研究もほとんどみられませんでした」と、研究者は述べている。
「今回の研究により、現代においても家族歴は非常に有用なリスク評価指標であり、これを詳細に聴取・把握することにより、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症の現在の有病リスクと将来の発症リスクを個人別かつ定量的に評価可能であることが示されました。さらに、これらの疾患の家族歴があっても、肥満を予防することでリスクをかなり低減できる可能性も示唆され、早期のリスク把握や早期の予防介入などに役立つことも期待されます」。
「今後は、本研究により得られた結果を、医療や健診の現場における早期発見や予防介入、個々の患者に応じた予防戦略や治療法に役立てるとともに、どのような生活習慣が、家族歴によって上昇したリスクを効果的に抑制しうるかについても検討を深めていく予定です」としている。
新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科学分野
Cross-sectional and Longitudinal Associations Between Family History of Type 2 Diabetes Mellitus, Hypertension, and Dyslipidemia and Their Prevalence and Incidence: Toranomon Hospital Health Management Center Study (TOPICS24) (Mayo Clinic Proceedings 2025年1月29日)