ビタミンDが風邪や肺炎など急性気道感染症の発症を減少 日本人を含む5万人対象の国際研究
ビタミンDのサプリメントを毎日飲むと、風邪から気管支肺炎まで急性気道感染症の発症リスクが16%低下することが、日本を含む16ヵ国の約5万人を対象とした国際共同研究により明らかになった。とくに基礎疾患として喘息がある場合は、発症リスクは27%減少した。
ビタミンDは、自然免疫を強化したり、獲得免疫にも好影響を与える働きをする。ビタミンDは、主に日光を浴びることにより皮下で生成されるが、冬になると日照時間が短くなり、日光を浴びる機会も減少するため、血中のビタミンD濃度は半分に低下するとみられている。
「ビタミンDのサプリメントは基本的に副作用がなく、日光を浴びるだけなら費用もかかりません。このようなシンプルな方法で、ときに致死的な急性気道感染症を予防できるのであれば、非常に意義のあることと考えられます」と、研究者は述べている。

ビタミンDが風邪や肺炎などの感染症の予防薬に?
ビタミンDのサプリメントを毎日飲むと、風邪から気管支肺炎まで急性気道感染症の発症リスクが16%低下することが、日本を含む16ヵ国の約5万人を対象とした国際共同研究により明らかになった。とくに基礎疾患として喘息がある場合は、急性気道感染症の発症は27%減少した。
研究は、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部の浦島充佳教授、腎臓・高血圧内科学講座の中島章雄助教らによるもの。研究成果は、「Lancet Diabetes & Endocrinology」に掲載された。
「冬になると、乳幼児や高齢者が、肺炎などの急性気道感染症により命を落とすことがあります。ビタミンDのサプリメントは基本的に副作用がなく、日光を浴びるだけなら費用もかかりません。このようなシンプルな方法で、ときに致死的な急性気道感染症を予防できるのであれば、非常に意義のあることと考えられます」と、研究者は述べている。
ビタミンDは、主に日光を浴びることにより皮下で生成される。そのため、冬になると日照時間が短くなり、日光を浴びる機会も減少するため、血中のビタミンD濃度は夏と比較して約半分に低下するとみられている。
さらにビタミンDは、免疫細胞内で活性化され、カテリシジンやディフェンシンといった強力な抗菌ペプチドの産生を促進することで、自然免疫を強化する。さらに、獲得免疫にも好影響を与えることが報告されている。
研究者は今回、「なぜインフルエンザAは冬に流行するのか?」という問いに対し、「冬になると免疫力を高めるビタミンDの血中濃度が低下するためではないか?」という仮説を立てて検証した。
研究には、英国のロンドン大学・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院、米国のハーバード大学医学部・コロンビア大学・ダートマス大学・ペンシルベニア州立大学、カナダのマクマスター大学、スウェーデンのカロリンスカ研究所、スイスのチューリッヒ大学、チリ・カトリック大学などから44人の研究者が参加。
研究グループは、約5万人を対象とした43件の二重盲検ランダム化臨床試験の結果を統合し、ビタミンDのサプリメントとプラセボの効果を比較するメタ解析を実施した。
その結果、ビタミンDによる介入はプラセボとの比較で、全体的には急性気道感染症リスクの6%の減少にとどまり[OR 0.94、95%CI 0.88~1.00、p=0.057]、有意差は認められなかった。
一方で、ビタミンDのサプリメントを毎日飲むと、急性気道感染症の発症リスクは16%低下し[OR 0.84、95%CI 0.73~0.97]、とくに基礎疾患として喘息がある場合は、発症リスクは27%減少した[OR 0.73、95%CI 0·36~1·49]。
ビタミンDのサプリは冬に流行する感染症に対して効果
今回の国際共同研究のきっかけになったのは、16年前に実施したインフルエンザの予防に関するランダム化試験だとしている。
研究グループは、冬に低下するビタミンDの血中濃度を、サプリメントで補うことで、インフルエンザAの発症を予防できるのではないかと考え、臨床試験を実施した。
2008年12月~2009年3月の4ヵ月間に、小中学生334人を対象に、二重盲検ランダム化プラセボ比較試験を実施。ビタミンDサプリメント(1,200 IU/日)を摂取する群と、プラセボを摂取する群に、1:1の割合でランダムに振り分けて比較した。
その結果、ビタミンDの摂取により、インフルエンザAの発症リスクは42%低下した[相対リスク(RR) 0.58、95%CI 0.34~0.99、P= 0.04]。インフルエンザAの発症率は、ビタミンD群では10.8%だったが、プラセボ群では18.6%だった。
この研究成果は、2009年に「American Journal of Clinical Nutrition(Am J Clin Nutr)」に掲載され、その後は738本の研究論文に引用されるなど、世界の研究者に大きな影響を与えたとしている。
さらには、連日ビタミンDのサプリメントを内服することで、急性気道感染症の発症を2割抑制することをランダム化臨床試験のメタ解析により確かめ、「British Medical Journal (BMJ)」に2017年に報告した。
また、ビタミンDサプリを内服することで、喘息発作の増悪を防げることも、ランダム化臨床試験のメタ解析で確かめ、「Lancet RM」に2017年に報告した。
新型コロナに対してはビタミンDの効果は薄まる?
こうした研究が、今回の国際共同研究につながった。国際共同研究チームは、2021年にも同様のメタ解析を実施し、ビタミンDのサプリメントを連日服用すると、急性気道感染症が22%減ることや[OR 0.78、95%CI 0.65~0.94、p異質性=0.003]、さらに週に1回や月に1回大量内服するやり方を含む全体の5万人のデータでも8%の予防効果があることを示している[OR 0.92、95%CI 0.86~0·99、p異質性=0.018]。
一方、今回の研究では全体でみると6%の減少にとどまり、P値も0.057で統計学的に有意ではなかった。前回と今回の研究を比べると、データの違いはコロナ禍のデータを含むか否かによるとみている。新型コロナは冬だけではなく夏も流行し、発症予防には、ビタミンDではなく、換気が重要となる。
そのため、新型コロナに対するランダム化臨床試験を追加したことで、ビタミンDの効果が薄まった可能性が考えられるとしている。
研究者は、ビタミンDのサプリメントは、すべての急性気道感染症を予防できるのではなく、インフルエンザのようなビタミンD血中濃度が低下する冬に流行する感染症に限定されるのではないかと想定しており、今後の検証が必要としている。
東京慈恵会医科大学分子疫学研究部
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Randomized trial of vitamin D supplementation to prevent seasonal influenza A in schoolchildren (American Journal of Clinical Nutrition 2010年5月)
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