インスリンの新しい作用を発見 糖代謝の調節だけではない 脂肪分化やミトコンドリアの品質管理にも関与

2024.03.27
 インスリンの新しい作用が発見されている。北海道大学などは、細胞内信号伝達に関わるアダプター分子であるSTAP-2が、インスリンの働きに作用し、脂肪細胞分化と高脂肪食による体重増加に関与することを明らかにした。

 ドイツのマックス プランク研究所は、インスリンが細胞内で多くのプロセスを制御しており、エネルギー生成で重要なミトコンドリアの品質管理に関与していることを解明した。

インスリン受容体信号伝達でのSTAP-2が脂肪細胞分化に作用

 北海道大学などは、細胞内信号伝達に関わるアダプター分子であるSTAP-2が、インスリンの働きに作用し、脂肪細胞分化と高脂肪食による体重増加に関与することを明らかにした。

 インスリンは細胞膜上のインスリン受容体と結合し、多様な生理活性を発現することが知られている。肝臓ではグリコーゲン合成の亢進や分解の抑制、筋肉ではブドウ糖の取り込み、およびグリコーゲン合成の亢進作用、脂肪細胞ではブドウ糖の取り込みの亢進と脂肪分解の抑制作用を示し、血糖値の低下をもたらす一方、脂肪細胞の脂肪関連遺伝子の発現調節や細胞増殖、分化促進を誘導する。

 細胞内信号伝達で、リン酸化酵素をはじめとする酵素群や転写因子の活性化を制御するアダプター分子のひとつであるSTAP-2(Signal-transducing adaptor protein-2)は、インスリン信号伝達経路を構成するタンパク質と直接結合してその働きを強めることにより、脂肪細胞分化を促進する。

 研究グループは今回、STAP-2の発現量により、高脂肪食による体重増加が左右されることを解明した。STAP-2の発現量や働きを制御することにより、糖尿病の新しい薬の開発を期待できるとしている。

 肥満は、インスリン抵抗性が関連する糖尿病、高血圧、脂質異常症などの原因となる。インスリン受容体信号経路の制御機構の解明による、新規の治療戦略開発が期待されている。

 研究は、北海道大学大学院薬学研究院の松田正教授、および京都薬科大学の関根勇一氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載された。

 「STAP-2が、インスリン受容体信号伝達経路を構成するCAP-Cbl複合体形成の足場タンパク質として脂肪細胞分化に作用することが新しく示された。肥満による糖尿病にはSTAP-2を標的とした新規治療薬が有効である可能性が示唆されたことから、STAP-2を標的とした新規治療薬の開発が進むことが期待される」と、研究者は述べている。

インスリンはミトコンドリアの品質管理にも関与

 ドイツのマックス プランク研究所は、インスリンが細胞内で多くのプロセスを制御しており、エネルギー生成で重要なミトコンドリアの品質を管理する働きをしていることを解明した。

 体内で十分なエネルギーが利用できる場合、インスリンは障害のあるミトコンドリアの除去を促進するが、エネルギーが不足している場合、あるいはインスリン信号が中断されている場合は、ミトコンドリアの機能は低下し、細胞は十分なエネルギー生成を得られなくなる。ミトコンドリア障害は、老化プロセスや神経疾患にも影響を与えている可能性がある。

 同研究所の生物研究室のAngelika Harbauer教授らはこれまで、ミトコンドリアが神経細胞を通過する過程で遺伝子産物であるPINK1の設計図を輸送し、PINK1がミトコンドリアへの標的化を制御し、その品質管理を制御していることを明らかにしている。

 今回の研究で、十分なエネルギーを利用可能な場合は、細胞表面のインスリン受容体からミトコンドリアに信号が送信され、PINK1の設計図がmRNA分子として保存され、それにより欠陥のあるミトコンドリアの排除が効率的に行われるが、エネルギー不足の場合、またはインスリン受容体の信号が欠落している場合、PINK1の設計図はミトコンドリアに結合したままになることを解明した。

 「エネルギーレベルが低いときは、PINK1の生成が減少し、細胞は損傷のあるミトコンドリアを使い続けることになる。インスリンシグナル伝達の欠陥は糖尿病の特徴であり、アルツハイマー病に関連して脳でも観察されている。非効率的なミトコンドリアの品質管理が、さまざまな神経変性疾患の一因となっている可能性がある」と、Harbauer教授は述べている。

北海道大学大学院薬学研究院
STAP-2 facilitates insulin signaling through binding to CAP/c-Cbl and regulates adipocyte differentiation (Scientific Reports 2024年3月9日)

Insulin affects mitochondria recycling (マックス プランク研究所 2024年3月19日)
Insulin signalling regulates Pink1 mRNA localization via modulation of AMPK activity to support PINK1 function in neurons (Nature Metabolism 2024年3月19日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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