抗コレステロール薬の長期服用で膵がんリスクが上昇 肝がんリスクは低下 日本人6万人超を調査

2024.03.12
 抗コレステロール薬(スタチン系薬剤)の長期使用は、肝がんリスクの低下および膵がんリスクの上昇と関連していることが、大阪大学や国立がん研究センターなどが6万7,768人の日本人を10年間追跡した調査で明らかになった。

 抗コレステロール薬の5年以上の使用により、肝がんの罹患リスクは低下し(ハザード比 0.26、95%信頼区間 0.11~0.64)、膵がんの罹患リスクは上昇した(ハザード比 1.59、95%信頼区間 1.03~2.47)。

抗コレステロール薬の長期服用とがん罹患リスクとの関連を調査

 抗コレステロール薬(スタチン系薬剤)の長期使用は、肝がんリスクの低下および膵がんリスクの上昇と関連していることが、大阪大学や国立がん研究センターなどが6万7,768人の日本人を13年間追跡した調査で明らかになった。

 さまざまな薬剤で、期待される効果とは別に、がんの発生を予防あるいは促進する可能性が示唆されており、抗コレステロール薬についても、がんとの関連が議論されている。

 抗コレステロール薬としてもっとも一般的に使われているスタチンは、腫瘍の増殖阻害や特定の種類のがん細胞でのアポトーシスの誘導の効果があるという報告があるが、これまでに得られている研究結果では関連性は一致していない。

 そこで、研究グループは日本人を対象に、抗コレステロール薬の長期服用と、その後のがん罹患リスクとの関連を検討した。

 多目的コホート研究「JPHC Study」は、全国11保健所管内14万人の地域住民を対象とした、生活習慣とがん・脳卒中・心筋梗塞などの疾患との関連について長期追跡している調査で、国立がん研究センター研究開発費などにより行われている。

 研究グループは今回、1990年と1993年に、岩手・秋田・長野・沖縄・茨城・新潟・高知・長崎・大阪の10保健所管内に在住していた40~69歳の住民のうち、研究開始時調査・5年後調査・10年後調査のすべてに回答し、10年後調査の時点でがん既往がなく追跡可能だった男女6万7,768人を対象に、2013年まで追跡して調査した。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載された。

 その結果、全がん、およびその他の部位のがんについては、がん罹患のリスクと抗コレステロール薬の長期使用との間に統計学的に有意な関連はみられなかった。

 がん部位別に解析した結果、抗コレステロール薬を5年以上服用したグループで、肝がんの罹患リスクが有意に低下し(ハザード比 0.26、95%信頼区間 0.11~0.64)、さらに、膵がんの罹患リスクが有意に上昇した(ハザード比 1.59、95%信頼区間 1.03~2.47)。

抗コレステロール薬(スタチン系薬剤)の服用とがん罹患リスクとの関連
抗コレステロール薬を5年以上服用したグループで、肝がんリスクが低下し、膵がんリスクは上昇した。全がんおよびその他の部位のがんについては関連がみられなかった。
出典:国立がん研究センター、2024年

 なお解析では、年齢・性別・地域・喫煙状況・飲酒状況・体格(BMI)・コーヒー摂取・身体活動・職業・がん家族歴・糖尿病/高血圧の既往の有無など、がんと関連する要因を統計学的に調整し、これらの影響をとりのぞいた。なお、肝がんについての解析では、慢性肝炎または肝硬変の既往を、乳がんと子宮がんの解析では、閉経状況、ホルモン剤の使用の有無についても統計学的に調整した。

 3回のアンケートへの回答から得られた抗コレステロール薬の服用状況をもとに、がん既往歴のない人を、▼内服なし、▼5年未満服用、▼5年以上服用の3つのグループに分け、2013年末まで追跡して調査した。

 そして、服用なしと比べたその他のグループでの、その後のがん罹患との関連を、全部位・食道・胃・大腸・肝臓・胆道・膵臓・肺・乳腺・子宮・前立腺・腎臓のそれぞれのがんについて調べた。平均13.1年間の追跡期間中に、8,775人(男性5,387人、女性3,388人)が、何らかのがんと診断された。

スタチンの種類によりリスクが異なる可能性も

 「今回の研究で、抗コレステロール薬の長期服用が、肝がんの罹患リスクの低下および膵がんの罹患リスクの上昇と関連する可能性が示唆された。抗コレステロール薬の長期服用と肝がん罹患の関連に関しては、先行研究でも、スタチンの服用が肝がん罹患リスクの低下と関連しているという報告があり、今回の結果はこれとも一致するものだ」と、研究者は述べている。

 一方で、低コレステロール値が肝がん罹患リスク上昇に関連しているとする報告もある。今回の研究では、肝炎によりコレステロール値が低い人で、抗コレステロール薬の服用をしていなかった場合には、肝がん罹患リスクがもともと高い人が内服なしのグループに分類されている可能性があり、そのために抗コレステロール薬内服と肝がんの罹患リスク低下の関連に影響を与えた可能性も考えられるとしている。

 膵がんに関しては、スタチン服用が、がん罹患リスクを上昇させるという報告がある一方で、欧米からはスタチンの膵がん罹患に対する予防効果が多く報告されている。

 「今回の研究結果はこれと一致しないが、抗コレステロール薬の発がん性を検討した動物実験では、がんが促進されることが示されている報告もある。今回の研究結果が、欧米からの報告と一致しなかったのは、人種の違いなども影響している可能性も考えられる」としている。

 なお、本研究の限界点として、自記式のアンケート調査に基づいているため、抗コレステロール薬の種類を区別できていないことや、服薬期間が正確ではない可能性などがあげられる。

 「今回の研究では、抗コレステロール薬の長期服用ががんの罹患リスクに関連があることが示唆されたが、抗コレステロール薬の種類、特にスタチンの種類別によりリスクが異なる可能性もあるため、今後のさらなる研究が必要となる」としている。

多目的コホート研究(JPHC Study) (国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト)
Long-term use of anti-cholesterol drugs and cancer risks in a Japanese population (Scientific Reports 2024年2月5日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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