糖尿病患者の血糖値上昇時の食欲亢進 肝臓の「飢餓から命を守る仕組み」が関与 東北大学

2023.05.09
 東北大学は、飢餓の際に生命を守る仕組みを発見し、肝臓が非常に重要な役割を果たしていることを、マウスを用いて世界ではじめて解明したと発表した。

 肝臓は、カロリー摂取の減少を血中インスリン濃度の低下を通じて感知し、レプチンを捕捉しその働きを止めるタンパクであるsLepRを血液中に放出することで、カロリー消費を節約し食欲を増やしている。

 この仕組みは、糖尿病患者の血糖値が高いとき(肝臓でインスリンが効いていないとき)にも働いており、血液中のsLepR濃度を上げている。sLepRは食欲亢進の要因のひとつであり、糖尿病患者の過食を防ぐ方法に応用できる可能性がある。

肝臓が放出するタンパクがレプチンの働きを止める 糖尿病患者の食欲亢進の要因に

 東北大学は、肝臓がキーとなり、飢餓の際に必要以上のカロリー消費を抑え、食欲を高めることで、生命を守っている仕組みを発見したと発表した。

 この体に備わった仕組みには、肝臓が非常に重要な役割をになっており、糖尿病患者が血糖値が高いときにも働いており、食欲亢進の要因のひとつと考えられる。

 食物を食べると膵臓からインスリンが血液中に分泌されるが、食べ物が足りない場合はこの逆で、インスリンの分泌が減り、血液中のインスリン濃度が低下する。

 研究グループは、肝臓がこのインスリン濃度の減少を感知し、sLepRというタンパク質を血中に放出することを見出した。

 脂肪細胞から血中に分泌されるレプチンは、脳の受容体に結合し、食欲を抑制させるとともに、カロリー消費を亢進させる働きをする。

 sLepRはレプチンを捕捉し、レプチンの働きを止めるタンパクで、sLepRがない場合、レプチンは脳にあるレプチン受容体に結合するが、sLepRがある場合は、それによりレプチンが捕捉され、脳のレプチン受容体に結合できなくなる。

 肝臓から放出されたsLepRはレプチンを捕捉して、その働きを止めることにより、カロリー消費を抑え、食欲を増やしているとしている。

 研究は生命を維持する仕組みの解明のみならず、糖尿病患者の過食を防ぐ方法への応用にもつながることが期待されるとしている。

 研究は、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝科の高橋圭助教、片桐秀樹教授らによるもの。研究成果は、「Cell Reports」にオンライン掲載された。

sLepRは、レプチンを捕捉し、レプチンの働きを止めるタンパク

カロリー不足に陥ると、肝臓からsLepRが放出され、脳でのレプチンの働きを止める。すると、食欲の亢進やカロリー消費の減少が生じ、生命維持に有利になる。

出典:東北大学、2023年

血糖値が高い時にsLepRが増加 糖尿病の過食を防ぐ方法に応用

 研究グループは今回、食物の摂取が不足した際の生命の維持で、重要な役割を果たしていることを予想し、sLepRを分泌できないマウスを作成した。

 すると、肝臓からのsLepRの分泌がなくなると、食物摂取不足の状態になり、カロリー消費が節約できず、その結果、生命が維持できなくなった。つまり、カロリー摂取の減少を肝臓が感知し、生命を守る信号を送っているという、これまで知られていなかった仕組みを解明するのに成功した。

 さらに、この肝臓から分泌されるsLepRの血液中の濃度は、糖尿病患者で血糖値が高い時にも増加していることを見出した。肝臓でのインスリンの効きが悪くなると血糖値が上昇するが、この仕組みがsLepRの血液中の濃度を上げていると考えられる。

糖尿病患者の血糖値と血液中のsLepRの関係を調べたところ、血糖値が高いほどsLepRが多いことが分かった。血糖値が上昇している時に食欲の亢進が生じやすいメカニズムを解明。

出典:東北大学、2023年

 「これまで、血糖値が上昇している時に食欲の亢進が生じやすいことが報告されていましたが、その理由は明らかになっていませんでした。今回の発見はその理由のひとつと考えられ、糖尿病患者さんが食べ過ぎることを防ぐ方法への応用につながることが期待されます」と、研究グループでは述べている。

 研究は、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝科の高橋圭助教、片桐秀樹教授らの研究グループが、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子内分泌代謝学分野の山田哲也教授、山形大学医学部内科学第二講座の上野義之教授、東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野および東北大学病院消化器内科の正宗淳教授らと共同で行ったもの。

東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝内科学分野
東北大学病院 糖尿病代謝・内分泌内科
Inter-organ insulin-leptin signal crosstalk from the liver enhances survival during food shortages (Cell Reports 2023年4月27日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料