糖尿病患者の血糖値上昇時の食欲亢進 肝臓の「飢餓から命を守る仕組み」が関与 東北大学
肝臓が放出するタンパクがレプチンの働きを止める 糖尿病患者の食欲亢進の要因に
東北大学は、肝臓がキーとなり、飢餓の際に必要以上のカロリー消費を抑え、食欲を高めることで、生命を守っている仕組みを発見したと発表した。
この体に備わった仕組みには、肝臓が非常に重要な役割をになっており、糖尿病患者が血糖値が高いときにも働いており、食欲亢進の要因のひとつと考えられる。
食物を食べると膵臓からインスリンが血液中に分泌されるが、食べ物が足りない場合はこの逆で、インスリンの分泌が減り、血液中のインスリン濃度が低下する。
研究グループは、肝臓がこのインスリン濃度の減少を感知し、sLepRというタンパク質を血中に放出することを見出した。
脂肪細胞から血中に分泌されるレプチンは、脳の受容体に結合し、食欲を抑制させるとともに、カロリー消費を亢進させる働きをする。
sLepRはレプチンを捕捉し、レプチンの働きを止めるタンパクで、sLepRがない場合、レプチンは脳にあるレプチン受容体に結合するが、sLepRがある場合は、それによりレプチンが捕捉され、脳のレプチン受容体に結合できなくなる。
肝臓から放出されたsLepRはレプチンを捕捉して、その働きを止めることにより、カロリー消費を抑え、食欲を増やしているとしている。
研究は生命を維持する仕組みの解明のみならず、糖尿病患者の過食を防ぐ方法への応用にもつながることが期待されるとしている。
研究は、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝科の高橋圭助教、片桐秀樹教授らによるもの。研究成果は、「Cell Reports」にオンライン掲載された。
血糖値が高い時にsLepRが増加 糖尿病の過食を防ぐ方法に応用
研究グループは今回、食物の摂取が不足した際の生命の維持で、重要な役割を果たしていることを予想し、sLepRを分泌できないマウスを作成した。
すると、肝臓からのsLepRの分泌がなくなると、食物摂取不足の状態になり、カロリー消費が節約できず、その結果、生命が維持できなくなった。つまり、カロリー摂取の減少を肝臓が感知し、生命を守る信号を送っているという、これまで知られていなかった仕組みを解明するのに成功した。
さらに、この肝臓から分泌されるsLepRの血液中の濃度は、糖尿病患者で血糖値が高い時にも増加していることを見出した。肝臓でのインスリンの効きが悪くなると血糖値が上昇するが、この仕組みがsLepRの血液中の濃度を上げていると考えられる。
「これまで、血糖値が上昇している時に食欲の亢進が生じやすいことが報告されていましたが、その理由は明らかになっていませんでした。今回の発見はその理由のひとつと考えられ、糖尿病患者さんが食べ過ぎることを防ぐ方法への応用につながることが期待されます」と、研究グループでは述べている。
研究は、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝科の高橋圭助教、片桐秀樹教授らの研究グループが、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子内分泌代謝学分野の山田哲也教授、山形大学医学部内科学第二講座の上野義之教授、東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野および東北大学病院消化器内科の正宗淳教授らと共同で行ったもの。
東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝内科学分野
東北大学病院 糖尿病代謝・内分泌内科
Inter-organ insulin-leptin signal crosstalk from the liver enhances survival during food shortages (Cell Reports 2023年4月27日)