SGLT2阻害薬が糖尿病関連腎臓病(DKD)が悪化する「負のループ」を抑制 腎機能障害の進展を予防 京都府立医科大学

2024.02.21
 京都府立医科大学は、糖尿病関連の腎臓病症例での腎組織では、修復不全尿細管(FR-PTC)が出現し、その割合が高い症例ほど腎不全が進行し、組織の酸素不足がFR-PTCを誘導していることを明らかにした。

 さらに、血糖降下薬であるSGLT2阻害薬(ルセオグリフロジン、商品名:ルセフィ)が、腎臓にかかる過剰な負担を軽減し、FR-PTCの出現と、それに続く腎不全への進展を防ぐことを確認した。

腎臓で炎症を誘導するFR-PTCが腎不全の予測因子に
SGLT2阻害薬がFR-PTCの発生を抑制

 糖尿病患者では高頻度に腎臓病(糖尿病関連腎臓病、DKD)を併発し、人工透析を必要とする腎不全の原因の第1位である糖尿病性腎症への対策は急務になっている。

 京都府立医科大学は今回、DKDが進行した場合、周囲に炎症を誘導する細胞群である修復不全尿細管(FR-PTC)の割合が、腎不全へ進展する強力な予測因子であることを明らかにした。

 腎臓が傷害を受けると、尿の通り道である尿細管の細胞の一部が脱落し、その後は生き残った細胞が再生するが、傷害後の修復が不完全な組織では、特殊な細胞群であるFR-PTCが出現することが、近年の動物実験で明らかになっている。

 FR-PTCは、周囲に炎症を生じる物質を分泌し、腎不全を進行させる。研究グループは今回、DKD症例での腎組織でFR-PTCが出現し、その割合が高い症例ほど腎不全が進行することを明らかにした。進行したDKDでは、FR-PTCにより組織の傷害が進行し、FR-PTCの割合が多いほど腎不全が進行しやすくなるという。

 さらに、血糖降下薬であるSGLT2阻害薬(ルセオグリフロジン、商品名:ルセフィ)が、FR-PTCの発生を抑制することを明らかにした。

 SGLT2阻害薬が腎臓を守る作用があることはすでに知られていたが、今回その機序の一端を解明したことで、今後の創薬や予防法の開発、今後の改善につながることが期待されるとしている。

 研究は、京都府立医科大学大学院医学研究科腎臓内科学の草場哲郎助教、八木-冨田彩助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載された。

DKD症例での腎組織で修復不全尿細管(FR-PTC)が出現
FR-PTCは腎不全の予測因子に

出典:京都府立医科大学、2024年

DKD患者24人の腎生検組織を解析

 これまでの研究では、糖尿病関連腎臓病(DKD)の病状の進展に、FR-PTCがどのように関与するか不明だったので、研究グループは今回、糖尿病患者の腎臓の組織およびマウスを用いた実験により、その機序の解明を試みた。

 また、血糖降下薬であるSGLT2阻害薬は、腎臓からブドウ糖を排泄させることで血糖値を下げる作用を発揮する糖尿病治療薬で、心筋梗塞や脳卒中などの動脈効果に起因する疾患の発症の抑制や、尿タンパクの減少や腎機能の悪化を防ぐなど、DKDの進行を予防する効果もあることが臨床試験で示されている。

 そこで研究グループは、SGLT2阻害薬であるルセオグリフロジンがFR-PTCに及ぼす影響を、進行したDKDマウスを用いた実験により検討した。

 その後、DKD患者24人の腎生検組織をあらためて解析し、FR-PTCを示す物質である血管細胞接着分子1(VCAM1)の免疫染色を行い、その割合を解析するとともに、腎生検後の腎機能の推移を調べた。

 その結果、VCAM1陽性で示されるFR-PTCがヒトの腎臓組織内に存在し、その陽性率が高いほど、腎不全が進展(維持透析の導入、腎機能の40%の低下)する症例が多く認められた。

進行したDKDのモデルマウスを作成

 ヒトでは、年余にわたる高血糖の結果、DKDが進行するが、短命であるマウスでは病期の進んだDKDを再現することは困難だ。そこで研究グループは、肥満糖尿病マウスに対して、腎臓の大部分を切除することにより、ヒトで観察される進行したDKDモデルマウスを作成した。

 そのモデルマウスでは、ヒトで進行したDKDに確認されるような腎機能の低下と多量のタンパク尿を認めるとともに、腎臓内部では糸球体の高度な傷害、腎臓組織の線維化が認められた。

 またヒトの腎生検検体を用いた研究で確認されたように、このモデルマウスの腎臓の免疫染色にVCAM1陽性のFR-PTCが散見され、腎臓の組織が酸素不足に陥っていた。さらに酸素不足に曝された腎臓の尿細管細胞では、FR-PTCを示す物質であるVCAM1を発現することを証明した。

 進行したDKDのモデルマウスに対し、研究グループが新規に開発したSGLT2阻害薬(ルセオグリフロジン)を投与し、その腎臓保護効果を調べた。

 その結果、ルセオグリフロジンを投与したマウスの腎臓では、組織の酸素不足が改善され、FR-PTCの出現も抑制されていた。すると、ルセオグリフロジンが尿細管でのナトリウムの再吸収を抑制するために、組織の酸素消費量が軽減した。

 組織の酸素不足が改善した結果、FR-PTCの出現が抑制され、腎臓組織の保護効果が発揮されたとしている。また、FR-PTCの減少にともない、腎臓内の炎症や線維化も軽減していた。

出典:京都府立医科大学、2024年

SGLT2阻害薬による腎保護メカニズムを明らかに

 「本研究では、糖尿病関連腎臓病(DKD)の進展メカニズムを明らかにするために、進行したDKDを模した新たなモデルマウスを解析することにより、腎不全の病期が進展すると、(1) 残った正常な尿細管に過剰な負担がかかる、(2) 酸素消費の亢進により腎臓組織での酸素不足が起きる、(3) 尿細管の傷害により修復不全尿細管(FR-PTC)が出現する、(4) 周囲に炎症を巻き起こすことでさらなる腎障害が進展するという、負のループが形成されることを明らかにした」と、研究グループでは述べている。

 さらに、「SGLT2阻害薬であるルセオグリフロジンの投与は、負のループを抑制する効果があるため、腎機能障害の進展を予防することが示された。今回、新たに解明した機序により、近年明らかにされていなかったSGLT2阻害薬による腎保護メカニズムが明らかになるとともに、新たな標的に対する創薬や疾患予防法などの開発することで、DKD患者の予後をさらに改善させることが期待される」としている。

京都府立医科大学 大学院医学研究科 循環器内科学・腎臓内科学
The importance of proinflammatory failed-repair tubular epithelia as a predictor of diabetic kidney disease progression (iScience 2024年1月25日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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