糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬などがアルコールに対する欲求を軽減 アルコール使用障害の治療として有用である可能性

2024.01.11
 GLP-1受容体作動薬「セマグルチド」およびGIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」の使用は、2型糖尿病および肥満症の患者のアルコールに対する欲求を軽減し、アルコール摂取量を減少させる可能性があると、米バージニア工科大学が発表した。

 GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬が、アルコールを摂取したいという欲求を含む依存性行動を軽減する予期せぬ作用があり、アルコール使用障害(AUD)の治療薬として有用である可能性が示された。

GLP-1受容体作動薬などがアルコールへの欲求を軽減

 GLP-1受容体作動薬「セマグルチド」およびGIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」の使用は、2型糖尿病および肥満症の患者のアルコールに対する欲求を軽減し、アルコール摂取量を減少させる可能性があると、米バージニア工科大学が発表した。

 米国では「セマグルチド」と「チルゼパチド」は2型糖尿病および肥満症の治療薬として承認されている。研究は、同大学生物医学研究所のWarren Bickel教授らによるもので、論文は「Scientific Reports」に掲載された。

 「GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬が、危険な飲酒習慣の抑制に有用である可能性を示した報告が増えている」と、Bickel教授は述べている。

 米国の主要なコミュニティ ネットワーク サイトである「Reddit」でも、2型糖尿病および肥満の治療を目的とするこれらの薬剤の使用により、アルコールへの欲求が軽減されたというユーザーの投稿がみられるとしている。

セマグルチドやチルゼパチドを使用している患者は飲酒量が少ない

 同研究所の依存症回復研究センターは、これらの薬物が動物モデルでアルコール摂取量を減らすのに効果的であることを示した基礎研究に着目し、2つの異なる方法で情報を収集した。

 研究グループは、GLP-1受容体作動薬などに関連する用語を含む2009年~2023年の6万8,000件を超えるRedditの投稿を、「Mounjaro」「Wegovy」「Ozempic」「Trulicity」といったキーワードで検索し、1万4,595人のユニークユーザーによる3万3,609件の投稿を分析した。この方法は、コミュニティサイトを利用し数千人のユーザーのエクスペリエンスを分析できる点がユニークだとしている。

 その結果、GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の利用とアルコール摂取との関連について、962人が1,580件の投稿を行っており、うち71.7%が「アルコールに対する欲求の軽減」「飲酒量の減少」「飲酒に関連する悪影響の低減」について言及していた。

 次に、肥満と自己申告した153人の参加者を、さまざまなソーシャルメディア プラットフォームから募集。うち3分の1はセマグルチドあるいは経口セマグルチドを使用しており、3分の1はチルゼパチドを使用していた。3分の1を糖尿病や肥満症の治療薬を使用してない対照群とした。

 その結果、セマグルチドあるいはチルゼパチドを使用している群は、対照群に比較して、平均的な飲酒量が有意に少なく、平均飲酒回数と暴飲暴食の比率が大幅に低いことが示された。

 セマグルチド群あるいはチルゼパチド群では、自己申告によるアルコール摂取量、飲酒エピソードごとの飲酒の回数、暴飲暴食のオッズ、アルコール使用障害スクリーニングテスト(AUDIT)のスコア、興奮作用および鎮静作用が有意に低いことが観察された。

アルコール使用障害(AUD)の新たな治療法として期待

 研究グループは今回の研究について、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬が、アルコールを摂取したいという欲求を含む依存性行動を軽減する予期せぬ作用があることをほのめかしているとしている。

 12歳以上の米国人の5.9%が罹患しているというアルコール使用障害(AUD)の治療での、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の併用の可能性を探るため、さらなるランダム化比較試験の実施を提案している。

 「GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬を使用している人の多くが、飲酒量や暴飲暴食が減り、アルコール摂取による興奮作用と鎮静作用が軽減され、アルコールによる悪影響が減ることを経験していることが示された」と、研究所のAlexandra DiFeliceantonio氏は述べている。

 「AUDに対するこれらの薬剤の有用性を裏付けるエビデンスは増えているが、この分野でのとくに根底にあるメカニズムの特定について、さらに解明を進める必要がある」としている。

 米国食品医薬品局(FDA)は、AUDの治療薬として、「ジスルフィラム」「ナルトレキソン」「アカンプロサート」を承認しているが、いずれも小さな成功しか収めておらず、患者のコンプライアンスも不十分で、処方量も少ないといった課題がある。

 アルコールなどの依存性行動と健康に関する米国の全国調査では、米国の1,570万人がAUDに関連する再発性脳障害の基準を満たしていることが示されており、死亡率の上昇に大きく関与しているにもかかわらず、依然として多くの患者が適切な治療が受けられていないとしている。

 まお、今回の解析の対象となったのは、ほとんどが白人であり、性別と人種の違いを調べるには、より多様な集団を対象とした研究が必要としている。

Virginia Tech researchers find drugs used to treat Type 2 diabetes reduce alcohol cravings, use in individuals with obesity (バージニア工科大学 2024年1月5日)
Semaglutide and Tirzepatide reduce alcohol consumption in individuals with obesity (Scientific Reports 2023年11月28日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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