東日本大震災後の高齢者のフレイルを調査 習慣的に運動をすることが低栄養リスクを下げる
東日本大震災と原発事故により低栄養やフレイルのリスクが上昇
研究は、福島県立医科大学保健科学部理学療法学科の岡崎可奈子氏らによるもの。研究成果は、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載された。
2011年に発生した東日本大震災と原発事故により、避難住民のあいだで、生活環境の変化によるストレスの増加や、身体活動量の減少が問題となっている。これらの影響は、肥満と関連するメタボリックシンドロームの増加として多く報告されてきた。
さらに、震災にともない体重が減少した住民や、栄養摂取量の低下も一定数みられており、フレイルのリスクが高まっていることが予想される。
そこで岡崎氏らは、問題が指摘されている低栄養に焦点をあて、その要因を明らかにするため、福島県県民健康調査のデータを解析した。対象となったのは、東日本大震災前の2008~2010年度に避難区域市町村に居住していた60歳以上の住民1万3,378人。
健診結果をもとに2017年度まで追跡し、震災前後の低栄養傾向の出現状況を把握するとともに、運動習慣をはじめとする生活習慣や既往の有無との関連について縦断的に検討した。
震災後の低栄養傾向の新規発生の割合は12.8%
その結果、観察期間10年間での、低栄養傾向(BMI 20未満)の推移は、男女ともに震災後にいったん減少したものの、女性では震災後徐々に増加し、直近の3年間は震災前よりも高い割合で推移したことが明らかになった。
一方、男性では、震災後わずかに増加したが、直近の3年間は横ばいで、震災前よりも低い割合で推移した。
震災後の低栄養傾向の新規発生での生活習慣要因の検討では、震災前の健診の時点で過体重・低栄養傾向のあった者を除外し、2017年度までの平均6.9年間追跡した。
低栄養傾向の新規発生の割合は12.8%だった。低栄養傾向の新規発生を、従属変数、年齢・性別・避難の有無・生活習慣の状況・既往歴・手術歴・自覚症状の有無を説明変数として、Cox比例ハザード回帰分析による多変量解析を行った。
運動習慣が不十分であることが低栄養に影響
その結果、震災後の低栄養傾向の発生に影響したのは、▼運動習慣が不十分であること(HR1.14、95%CI:1.03-1.27)、▼手術歴があること(HR1.24、95%CI:1.03-1.50)、▼生活習慣病の既往があること(HR1.27、95%CI:1.16-1.40)、▼自覚症状が2つ以上あること(HR1.26、95%CI:1.04-1.53)、▼就寝前2時間以内の夕食が週3回未満(HR1.26、95%CI:1.11-1.43)、▼非避難者(HR1.31、95%CI:1.17-1.47)であることが明らかになった。
「東日本大震災以降も、震災や集中豪雨被害が相次ぎ、避難所暮らしが長期化することによる健康への影響が問題となっています。高齢者を中心に、低栄養状態からフレイルへの進展が懸念され、それを防止するための対策が求められています」と、研究者は述べている。
「ふだんから運動習慣や身体活動を適切に維持することが、性別やその他の生活習慣、既往歴の状況を問わず、震災後の低栄養傾向発生の予防につながる可能性が示唆されました」としている。
福島県立医科大学保健科学部
Lifestyle Factors Associated with Undernutrition in Older People after the Great East Japan Earthquake: A Prospective Study in the Fukushima Health Management Survey (International Journal of Environmental Research and Public Health 2022年3月14日)
2022年 福島県立医科大学「県民健康調査」国際シンポジウム