2型糖尿病の治療を支援するAIを開発 83%以上の患者の治療薬選択を支援 日立など

2022.03.29
 日立製作所、米国のユタ大学、レーゲンストリーフ研究所は、複数の治療薬の併用など複雑な治療を要する、2型糖尿病患者の治療薬選択を支援するAI(人工知能)を開発したと発表した。

 病態が類似する過去の患者の治療経過をもとに、服用する治療薬ごとの治療効果を予測する技術を開発することで、適切な治療の提案を高率良く行い、患者に合わせた個別化医療を支援することを目指している。

2剤以上の併用治療でも83%以上の患者の治療薬選択を支援

 日立製作所などが開発したのは、病態が類似する患者をグループ化する「患者層別化技術」を用いて、複数の地域・施設の電子カルテデータを統合分析し、複雑な治療を要する糖尿病患者に対しても治療薬選択を支援できるAI(人工知能)。

 患者層別化技術は、治療の推移を過去のデータから学習し、患者の病態に応じた治療選択の傾向を精緻に表現するもの。病態が類似する患者をグループ化し、実施された治療薬の種類と効果の関係性をグループごとにモデル化し、患者の病態に応じて治療効果を予測する。

 この技術により、さまざまな治療薬を用いた症例を、病態に紐づけて学習し、患者の特徴や治療薬の選択肢に幅のある地域の分散データを、病態ごとに統合して分析できるようになった。これにより、複数施設のデータをもとに治療効果を予測し、症例が少ない複雑な治療の効果予測も可能になるという。

 3者はこのAIを用いて、米国のユタ大学、レーゲンストリーフ研究所と共同で、ユタ州とインディアナ州の糖尿病患者に対し過去に実施された治療について、効果予測の性能を検証した。その結果、2剤以上の併用治療でも、83%以上の患者の治療薬選択を支援できることを確認したという。

 研究では、3処方後3ヵ月以内に治療目標値(HbA1c値が8.0%以下)を達成する確率の予測性能(AUC)が0.70以上の治療パターンが選択された患者の割合が調査された。研究成果の一部は、「Journal of Biomedical Informatics」に掲載された。

 精度の高いAIを開発することで、複雑な治療を要する糖尿病患者に対しても、処方薬の組み合わせごとの効能を確認し、医師と患者が話し合いながら、それぞれに合った治療方針を決めることができるようになるとしている。

 糖尿病治療の改善だけでなく、患者のエンゲージメント(治療への積極的な関与)、コンプライアンス(医師の指示に従うこと)、QOLの維持向上につながることも期待される。

患者層別化技術による患者や治療効果のモデル化イメージ

出典:日立製作所、2022年

病態が類似する患者をグループ化する「患者層別化技術」を開発

 2型糖尿病の治療では、視力低下や腎臓病などの合併症を防ぐため、一部の患者には複数の治療薬の併用を処方し、血糖コントロールを行う必要がある。医師はそうした患者に対して、過去の経験などの知見から患者に適した治療を行っている。

 治療薬選択を支援するAIを開発するためには、患者のデータを増やし学習させる必要があるが、複数の医療機関の患者データを組み合わせるために、AIの専門知識と、複雑な医療データを用いた機械学習モデルの開発についての幅広い経験が必要となる。

 同社はこれまで、ユタ大学と共同で、「糖尿病治療の処方薬選択支援システム」の開発に取り組んできたが、複雑かつ症例が限られる治療については、単一施設のデータだけでは信頼性の高い治療効果予測モデルの学習が困難であり、高精度な予測を実施できなかったという。

 また、施設や地域間の患者の病態や治療薬の差異を考慮する必要があるため、複数施設のデータを横断的に活用することも容易ではなかった。

 そこで、こうした課題を解決するため、3者は協力しあい、取り扱うデータの拡充をはかった。そして、ユタ州とインディアナ州の電子カルテデータを横断的に分析し、体重・検査値・治療薬などの病態が類似する患者の治療パターンを抽出して学習することができるAIを開発し、実証を行った。

 患者層別化技術の開発により、データが少なく従来はAIの適用が困難だった患者に対しても、病態が類似する過去の患者の治療経過をもとに、服用する治療薬ごとの治療効果を予測できるようになった。

 3者は今後、引き続きこの技術の効果実証を行うとともに、ヘルスケアインフォマティクスのさらなる研究を通じて、適切な医療サービスの提供に貢献したいとしている。

Innovative AI technology aids personalized care for diabetes patients needing complex drug treatment (レーゲンストリーフ研究所 2022年3月25日)
Innovative AI Technology Aids Personalized Care for Diabetes Patients Needing Complex Drug Treatment (Journal of Biomedical Informatics 2022年3月25日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

脂質異常症の食事療法のエビデンスと指導 高TG血症に対する治療介入を実践 見逃してはいけない家族性高コレステロール血症
SGLT2阻害薬を高齢者でどう使う 週1回インスリン製剤がもたらす変革 高齢1型糖尿病の治療 糖尿病治療と認知症予防 高齢者糖尿病のオンライン診療 高齢者糖尿病の支援サービス
GLP-1受容体作動薬の種類と使い分け インスリンの種類と使い方 糖尿病の経口薬で最低限注意するポイント 血糖推移をみる際のポイント~薬剤選択にどう生かすか~ 糖尿病関連デジタルデバイスの使い方 1型糖尿病の治療選択肢(インスリンポンプ・CGMなど) 二次性高血圧 低ナトリウム血症 妊娠中の甲状腺疾患 ステロイド薬の使い分け 下垂体機能検査
NAFLD/NASH 糖尿病と歯周病 肥満の外科治療-減量・代謝改善手術- 骨粗鬆症治療薬 脂質異常症の治療-コレステロール低下薬 がんと糖尿病 クッシング症候群 甲状腺結節 原発性アルドステロン症 FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症 褐色細胞腫

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料