GIP/GLP-1受容体作動薬は高血圧に対しても有用 降圧薬にも匹敵する降圧作用 AHAが発表
GIP/GLP-1受容体作動薬の投与により収縮期血圧が大幅に低下
GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチドを、BMI 27以上の肥満成人約500人に36週間投与した国際臨床試験で、収縮期血圧を大幅に低下したことが示されたと、米国心臓学会(AHA)が発表した。研究成果は、「Hypertension」に掲載された。
チルゼパチドは、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の2つの受容体に作用する持続性GIP/GLP-1受容体作動薬。
今回の試験は、チルゼパチドの第3相二重盲検ランダム化対照試験である「SURMOUNT-1」に参加した約600人の患者を対象としたサブ試験として、2019年12月~2022年4月に実施された。肥満はあるが2型糖尿病ではない患者を対象に、24時間外来血圧モニタリングによって測定された血圧値に対するチルゼパチドの影響を評価するように設計された。
参加者の約3分の1は、研究開始時に高血圧と診断され、1つ以上の降圧薬を服用していた。サブ試験が開始された時点では、参加者全員の血圧レベルは140/90mmHg未満であり、降圧薬を使用している場合は3ヵ月以上服用していた。
チルゼパチドの36週間の投与により得られた主な結果は次の通り――。
- チルゼパチド5mgを投与した患者で、収縮期血圧が平均7.4mmHg低下した。
- チルゼパチド10mgを投与した患者で、収縮期血圧が平均10.6mmHg低下した。
- チルゼパチド15mgを投与した患者で、収縮期血圧が平均8.0mmHg低下した。
- チルゼパチドの降圧効果は、日中と夜間の血圧測定で確認された。日中よりも夜間の最高血圧が、心血管死および全死因死の強力な予測因子とされている。
収縮期血圧の低下は、年齢・性別・BMI・高血圧に関連する他の危険因子などの追加要素を調整した後でも、参加者全体で一貫してみられたという。
GIP/GLP-1受容体作動薬が高血圧に対しても有効な戦略になる可能性
「今回の試験結果は、チルゼパチドによる肥満の治療が、高血圧の予防・治療に有効な戦略になる可能性があることを示唆している」と、テキサス大学サウスウェスタン医療センター所長であり、この試験の主任研究員であるKern Wildenthal氏は述べている。
「血圧への影響が投薬によるものなのか、体重減少によるものなのかは不明」としながらも、「チルゼパチドでみられた降圧作用は、多くの降圧薬でみられるものに匹敵する」としている。
「得られたデータは全体として、GIP/GLP-1受容体作動薬が体重を減らすのに効果的であり、さらに高血圧・2型糖尿病・脂質異常症などの肥満に関連する心臓代謝性の合併症の多くを改善するのにも有用であることを示唆している」と、AHAが2021年に発表した心血管疾患の予防のための減量戦略に関する声明を策定した委員会の議長であるミシシッピ大学医療センターのMichael Hall氏は言う。
「これらの有益な効果のそれぞれの影響は、個別に重要だが、肥満に関連する合併症の多くは相乗的に作用して心血管疾患のリスクを高めるので、複数の肥満関連の合併症のリスクを軽減する戦略は、心血管イベントのリスクを軽減するために有用と考えられる」としている。
「心臓発作や心不全などの心血管イベントへの長期的な影響について判断するには、追加の研究が必要となる。また、チルゼパチドのような薬を中止すると血圧にどのような変化が起こるのか、血圧がリバウンドして再び上昇するのか、それとも低下したままなのかなどを調査する必要もある」と付け加えている。
外来血圧モニタリングによる包括的な血圧評価を実施
米国では食品医薬品局(FDA)が2022年に、チルゼパチドを2型糖尿病の治療薬として承認し、2023年には、BMI30以上の肥満、またはBMI27以上過体重の成人で、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病・閉塞性睡眠時無呼吸症候群・心血管系疾患など、体重に関連した医学的問題を有する成人での体重減少および抑制を適応として承認した。
24時間自由行動下の収縮期血圧は心血管死の強い予測因子であり、AHAが2024年に発表した心臓病・脳卒中に関する統計調査によると、米国の成人の47%にあたる1億2,200万人以上が高血圧であり、42%が肥満としている。
SURMOUNT-1は、体重減少に対するチルゼパチドの用量増加の影響に関するランダム化試験で、BMI 27以上の過体重あるいは肥満の患者を対象に、チルゼパチド5mg、10mg、15mgを週1回投与した。体重に関してはプラセボと比較して、それぞれ平均15%、19.5%、20.9%の体重減少が示された。
研究グループはサブ試験では、SURMOUNT-1に参加した成人600人を対象に、チルゼパチド5mgを145人に、チルゼパチド10mgを152人に、チルゼパチド15mgを148人に、プラセボを155人にそれぞれ投与した。参加者の平均年齢は45.5歳、平均BMIは37.4、男性が31%、白人が66.8%だった。研究開始時と36週目の時点で外来血圧モニタリングのデータが有効である494人について分析した。
なお、試験で使用された外来血圧モニタリングでは、血圧モニタリング装置を24~27時間装着し、日中は30分ごと、夜間は1時間ごとに、オフィスや家庭で血圧測定を毎日行い、包括的な血圧評価を可能にした。
試験の限界としては、SURMOUNT-1の参加者2,539人のサブセットでのみ実施しており、外来血圧モニタリングは、研究のベースラインと36週目の2つの時点でのみ測定したことを挙げている。参加者の負担を最小限に抑えるため、測定は夜間に1時間に1回のみに制限した。さらに、食物摂取量および24時間尿中のナトリウム排泄量の変化については評価していない。つまり、降圧と関連の深い塩分摂取量やその他の変化を含む食事の修正がどれだけ寄与したかは不明としている。
なお、この試験はイーライリリー・アンド・カンパニーからの資金提供を受け実施された。
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