糖尿病網膜症の有病率は総脂肪・飽和脂肪酸の摂取量が多いと上昇 日本の糖尿病患者を調査 JPHC-NEXT
日本人の脂肪酸摂取と糖尿病性網膜症との関連を調査
糖尿病網膜症は、視覚障害の主な原因になっており、2020年の世界の糖尿病網膜症患者は1億3,102万人、うち2,854万人で視力障害が生じていると推計されている。
一方、魚に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸は、加齢黄斑変性症のリスク低下と関連することが報告されており、多価不飽和脂肪酸の摂取も、リスク低下に寄与する可能性が示唆されている。
また、飽和脂肪酸の摂取は、糖尿病リスクの増加と関連しており、眼疾患などの発症に影響をもたらす可能性が指摘されている。
そこで、慶應義塾大学医学部眼科学教室や国立がん研究センターなどの研究グループは、脂肪酸の摂取量と糖尿病網膜症との関連について、次世代多目的コホート研究「JPHC-NEXT」に参加した糖尿病を有する地域住民を対象に調査した。
対象となったのは、茨城県筑西市で実施した眼科検診を受診し、研究に参加した40歳以上の男女7,090人のうち、糖尿病を有する647人。
糖尿病網膜症の診断は、眼底写真を用い、ETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)分類にしたがい眼科医が実施した。脂肪酸摂取量は、食物摂取頻度調査票から推定し、総エネルギー摂取量に対する割合を算出した。
対象者を総脂肪・各脂肪酸摂取量が少ない順から人数が均等になるように4つのグループ(四分位:Q1~Q4)に分類した。
その結果、糖尿病を有する患者647人のうち、100人が糖尿病網膜症を有しており、総脂肪・飽和脂肪酸の摂取量が多いほど、糖尿病網膜症の有病率が高いことが明らかになった。
糖尿病網膜症の有病率は、摂取量のもっとも多いグループでは、総脂質では2.61倍(95%信頼区間 1.07-6.39、p=0.025)に、飽和脂肪酸では2.40倍(同 1.12~5.17、p=0.013)に上昇した。
一価不飽和脂肪酸あるいは不飽和脂肪酸の摂取量と糖尿病網膜症の有病率とのあいだには有意な関連性はみられなかった。
日本の糖尿病患者では、総脂肪・飽和脂肪酸の摂取量が多いほど、
糖尿病網膜症の有病率が高い
なお、アジア人は西洋人に比べて、飽和脂肪酸を含む食品の摂取量が少ない傾向があり、今回の研究でも、平均総脂肪摂取量と飽和脂肪酸摂取量の摂取エネルギーに対する割合が、それぞれ22.0%、7.3%と、米国の国民健康栄養調査に比べ低い値だった。
「西洋人に比べて脂肪摂取量がはるかに少ない日本人で、糖尿病患者では、総脂肪・飽和脂肪酸の摂取量が多いほど、糖尿病網膜症の有病率が高いことが分かった。これまで飽和脂肪酸と糖尿病網膜症との関連は一致していなかったが、飽和脂肪酸の過剰摂取はさまざまな健康問題と関連していることが知られている」と、研究者は述べている。
なお、本研究は横断研究であるため、飽和脂肪酸摂取多いと糖尿病網膜症になるのか、糖尿病網膜症の方では飽和脂肪酸摂取量が多いのかといった因果関係を明らかではなく、これらの因果関係を明らかにするためには、前向き研究をはじめ、さらなる研究が必要としている。
次世代多目的コホート研究「JPHC-NEXT」(国立がん研究センター 予防研究グループ)
Associations between fatty acid intake and diabetic retinopathy in a Japanese population (Scientific Reports 2023年8月9日)