減量手術が肥満糖尿病の合併症を改善・抑制 神経障害の改善や網膜症の安定化も

減量手術は複数の代謝異常を同時に改善可能。また、糖尿病の合併症を改善するとの報告も見られる。ただし糖尿病合併症に対する効果を示した研究は評価アウトカムが限られたものが多く、減量手術によって複数の糖尿病合併症を同時に改善可能かという点は、いまだ明確でない。以上を背景としてReynolds氏らは、体重や体組成、糖・脂質代謝、および種々の糖尿病合併症に対する減量手術の効果を検討した。
研究対象は、2015年4月~2018年5月に同大学肥満外科クリニックで減量手術を受けた、18歳以上でBMI 35以上の患者127人のうち、2年後のフォローアップが可能だった79人。ベースライン時の主な特徴は、平均年齢46.0±11.3歳、女性73.4%、体重130.4±24.8kg、BMI46.0±6.6であり、糖尿病患者29.1%、前糖尿病40.5%だった。HbA1cは全体平均で6.0±0.9%で、空腹時血糖は102.6±30.6mg/dL。減量手術の術式は、89.9%がスリーブ状胃切除術、10.1%が胃バイパス術だった。
2年後のフォローアップ時点で、体重は99.4±21.2kg(Δ-31.0±18.4kg)、BMIは35.6±6.4(Δ-10.8±6.5)であり、糖代謝については判定区分の改善が54.4%、不変44.3%、悪化1.3%、HbA1cの全体平均は5.5±0.7%(Δ-0.5±0.6%)、空腹時血糖は90.0±25.2mg/dL(Δ-14.4±18.0mg/dL)と、全て有意に改善していた(全てP<0.01)。血清脂質についてはHDL-CとTGが有意に改善し、TCの変化は非有意だった。このほか、全般的な生活の質(QOL)や体重に特異的なQOL(IWQOL-Lite)、神経障害に特異的なQOL(Neuro-QOL)も有意な改善が認められた。なお、血圧は有意な変化がなかった。
神経障害の指標として評価した大腿の表皮内神経線維密度(fibres/mm)は、ベースライン時に15.0±7.9、フォローアップ時に18.4±7.5(Δ3.4±7.8)であり、有意な上昇が認められた(P<0.01)。また、心血管系自律神経障害(cardiovascular autonomic neuropathy;CAN)の評価指標であるexpiration/inspiration ratio(E/I比)は同順に1.2±0.1、1.2±0.1(Δ-0.01±0.1)であり、2年間にわたり安定していた(P=0.89)。同様に、網膜症の指標として評価した視野異常の程度を表すmean deviation(MD)は同順に-1.2±4.3、-1.6±4.2(Δ-0.2±3.0)であり、やはり2年間にわたり安定していた(P=0.52)。
代謝関連指標の変化と合併症評価指標の変化の関連を線形回帰モデルで検討した結果、空腹時血糖の有意な改善がMD値で評価した網膜症の転帰の改善と有意に関連していた。一方、表皮内神経線維密度やE/I比は、代謝指標の改善との有意な関連が認められなかった。この点について論文の考察には、「網膜症には肥満よりも高血糖自体の影響がより大きく関与しているのではないかとする、既報研究のエビデンスを支持するもの」と記されている。
著者らは、「われわれの研究は、減量手術が代謝改善による直接的な影響またはその他の有益な作用を通して、肥満糖尿病患者の神経障害を改善し得る、効果的なアプローチである可能性を示している。また、CANや網膜症の進行が抑制されたことについても、それらが通常は悪化していくことが多いという自然史を考慮すると、減量手術治療が成功したと言えるのではないか。ただし、これらの有効性を確認するために、無作為化比較試験が必要とされる」と述べている。
なお、一部の著者がNovo Nordisk社、DynaMed社との金銭的関係の存在を明らかにしている。
[HealthDay News 2023年4月17日]
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