【新型コロナ】ウイルス変異株「ミュー株」がワクチン接種者の中和抗体に対し高い抵抗性を示す ワクチン接種者では9.1倍
「ワクチンが効かない」ことを短絡的に意味するものではない
コロンビアを中心とした南米諸国で流行拡大した「ミュー株」は、世界保健機関(WHO)によって2021年8月に、ラムダ株とともに「注目すべき変異株(VOI:variant of interest)」として認定された。
今回の研究で、ミュー株が、新型コロナウイルスに感染した人、および、ワクチンを接種した人の血清に含まれる中和抗体に対して、きわめて高い抵抗性を示すことが示された。
中和抗体は、ウイルス感染またはワクチン接種によって獲得された免疫応答のひとつ。ウイルス表面のスパイクタンパク質に結合し、ウイルスの感染を阻害する機能をもつ。
しかし、これは「ワクチンが効かない」ことを短絡的に意味するものではないと、研究者は注意を呼びかけている。ワクチンは、血液中への中和抗体の産生だけではなく、細胞性免疫や免疫の記憶を構築することで、複合的に免疫力を獲得するために接種するものだとしている。
細胞性免疫は、獲得免疫応答のひとつで、主にキラーT細胞とヘルパーT細胞によって担われる。また、免疫の記憶は、病原体の感染やワクチン接種によって作られ長期的に維持され、2 度目に同じ病原体に感染・暴露した際に迅速かつ効率的に免疫力を発揮するためのものだ。
「中和抗体が充分な効果を発揮できないとしても、ワクチン接種による感染予防効果・重症化を防ぐ効果は、ミュー株に対しても充分に発揮されるものと思われます」と、研究者は述べている。
研究は、東京大学医科学研究所附属感染症国際研究センターシステムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」によるもの。研究成果は、米科学誌「New England Journal of Medicine」にオンライン掲載された。
ミュー株が中和抗体に対し高い抵抗性を示す 感染者では10.6倍、ワクチン接種者では9.1倍
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)については、世界中でワクチン接種が進んでいるが、2019年末に突如出現したこのウイルスについては不明な点が多く、感染病態の原理やウイルスの複製原理、免疫逃避と流行動態の関連についてはほとんど明らかになっていない。
新型コロナウイルスによる感染やワクチン接種の後、体内では、中和抗体が誘導されるが、ベータ株(B.1.351系統)やガンマ株(P.1系統)などの、新型コロナウイルスの「懸念される変異株(VOC:variant of concern)」については、中和抗体が働かない可能性が懸念され、世界中で研究が進められている。
今回の研究では、南米諸国で流行拡大しているミュー株について、そのスパイクタンパク質を有するシュードウイルス(擬似ウイルス)と、従来株の新型コロナウイルスに感染した人の回復後の血清(13人分)、および、ファイザー・ビオンテック社製のワクチンを2度接種した人の血清(14人分)を用いた中和試験を行った。
これは、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を被ったシュードウイルスと、提供者の抗体が含まれている(と考えられる)血清を試験管内で混合し、培養細胞に添加し、血清中に含まれる中和抗体の量を定量するもの。
その結果、ミュー株は従来株に比べ、感染者がもつ中和抗体に対して10.6倍、ワクチン接種者がもつ中和抗体に対して9.1倍という、きわめて高い抵抗性を示した。
これまでの研究から、「懸念される変異株」のひとつであるベータ株がもっとも中和抗体に対する抵抗性が高い変異株として知られていたが、今回の研究によって、ミュー株はベータ株よりも高い抵抗性を有する、もっとも抵抗性の高い変異株であることが示された。
東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野
Ineffective neutralization of the SARS-CoV-2 Mu variant by convalescent and vaccine sera(New England Journal of Medicine 2021年11月3日)