糖尿病による持久⼒低下がSGLT2阻害薬により改善 糖尿病や加齢による運動機能低下を改善する治療法の創出へ 九州大学

2023.11.16
 九州大学は、SGLT2阻害薬の投与により⾻格筋での代謝物が変化し、肥満・糖尿病マウスの持久⼒が改善することを明らかにした。

 糖尿病は⾻格筋量・筋⼒の低下(サルコペニア)と関連するが、有効な治療法がなく、⾼齢化が進行している日本で課題となっている。

 糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬については、⼼不全や慢性腎臓病の治療効果は報告されているが、糖尿病状態の⾻格筋におよぼす影響については不明だった。⾻格筋の代謝物を標的としたサルコペニア治療の開発につながる可能性がある。

SGLT2阻害薬の投与により⾻格筋で代謝物が変化し糖尿病マウスの持久⼒が改善

 九州大学は、肥満・糖尿病マウスにSGLT2阻害薬を投与すると、⾻格筋での内因性AMPK活性化物質の増加をともない、持久⼒が改善することを明らかにした。

 糖尿病は、転倒や⾻折や寝たきりに結びつくサルコペニアのリスク増加と関連するが、糖尿病の治療薬が⾻格筋機能にあたえる影響については、これまであまり検討されていない。

 糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬について、⼼不全や慢性腎臓病の治療効果は報告されているが、糖尿病状態の⾻格筋にどのような影響を及ぼすのか、とくに⾻格筋機能にあたえる影響については不明だった。

 そこで九州⼤学の研究グループは、肥満・糖尿病マウスにSGLT2阻害薬「カナグリフロジン」を投与すると、⾛⾏距離が約5倍に伸びることを発⾒。

 同⼤学⽣体防御医学研究所との共同研究により、⾻格筋のメタボローム解析を⾏い、⾛⾏距離が伸びた個体のヒラメ筋では、「AICARP」と呼ばれる内因性AMPK活性化物質が増加することを⾒出した。

 AMPK、細胞内のエネルギーが不足すると活性化し、糖の取り込みを増やしたり、脂肪酸を酸化する、細胞内の燃料センサーとも言える調節分子。AICARPは、プリンヌクレオチド⽣合成経路の中間体のひとつで、AMPKを活性化する作⽤がある。

 さらにAICARPの増加は、AMPKの活性化と脂肪酸酸化の亢進により、⾻格筋でのエネルギー産⽣を増加して、持久⼒を改善する可能性を見出した。

 「SGLT2阻害薬の投与により、⾻格筋での代謝物の変化をともない、糖尿病マウスの持久⼒が改善することが示された」と、研究者は述べている。

 「今回の研究は、⾻格筋内でのAICARPの増加と持久⼒の回復の関連を⽰すもの。将来、⾻格筋の代謝物を標的としたサルコペニア治療法の開発が期待される」としている。

 研究は、九州⼤学⼤学院医学研究院の⼩川佳宏主幹教授、宮地康⾼助教、中村慎太郎氏らの研究グループが、同⼤学⽣体防御医学研究所の⾺場健史教授、和泉⾃泰准教授、⾼橋政友助教、中⾕航太助教らと共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に掲載された。

SGLT2阻害薬の投与により⾻格筋でAMPKが活性化
AMPKを活性化する代謝物AICARPを同定

出典:九州⼤学、2023年

SGLT2阻害薬によりAICARPが増加 細胞内の燃料センサーAMPKが活性化

 SGLT2阻害薬について、これまで尿糖排出によるカロリー消失により、⾎糖低下のみならず体重減少などの有効性が報告されてきたが、同時に⾻格筋量が減少するのではないかという懸念もあった。

 研究グループはこれまで、糖尿病のないマウスにSGLT2阻害薬を投与して⾻格筋への影響を検討し、エサを⾃由に⾷べさせた場合は、SGLT2阻害薬を投与しても⾻格筋量に変化はないが、エサを制限すると⾻格筋量が減少し、握⼒が低下することを報告している。

 今回の研究では、肥満・糖尿病マウスにSGLT2阻害薬「カナグリフロジン」を投与し、⾻格筋機能に対する効果を評価した。SGLT2阻害薬の4週間投与により、⾻格筋量は減少せず、握⼒も変化しなかった。

 ⼀⽅で、持久⼒を評価したところ、SGLT2阻害薬を投与したマウスは、投与しなかったマウスと⽐較し、トレッドミル⾛⾏距離が約5倍に増加したことを確認。

 さらに、持久運動に重要なヒラメ筋と瞬発運動に重要な⻑趾伸筋のメタボロームデータを⽐較したところ、SGLT2阻害薬によりヒラメ筋と⻑趾伸筋で、複数の代謝物が共通して変化していたが、AICARPと呼ばれる代謝物はヒラメ筋でのみ増加していた。

 ヒラメ筋を解析したところ、AICARPの増加と⼀致してAMPKが活性化し、脂肪酸酸化が亢進していることが分かった。AMPKの活性化は糖や脂肪酸の利⽤を促進してエネルギー産⽣を増加するため、ヒラメ筋で認められた代謝変化がマウスの持久⼒の改善につながった可能性が考えられる。

SGLT2阻害薬の投与により肥満糖尿病マウスのヒラメ筋で代謝物が変化
カナグリフロジンの投与により、糖尿病マウスのヒラメ筋と⻑趾伸筋で、N-アセチルオルニチンやヒドロキシ酪酸やブドウ糖が共通して変化した。AICARPはヒラメ筋でのみ増加した。

出典:九州⼤学、2023年

⾻格筋の代謝物を標的としたサルコペニアの治療法の開発に期待

 「以上の結果から、SGLT2阻害薬の投与により、⾻格筋での代謝物の変化をともない、糖尿病マウスの持久⼒が改善することが明らかになった」と、研究者は述べている。

 「⾻格筋でのAICARP-AMPK経路の役割を詳細に検討することで、SGLT2阻害薬に対する反応のみならず、運動やさまざまな疾患での機能的意義が明らかになると考えられる。また、AICARPなどの⾻格筋の代謝物を制御できるようになれば、加齢や糖尿病などにより低下した運動機能を改善させる治療法の創出につながることが期待される」としている。

九州⼤学⼤学院医学研究院 病態制御内科学
Improved endurance capacity of diabetic mice during SGLT2 inhibition: Role of AICARP, an AMPK activator in the soleus (Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2023年11月8日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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