肥満の診断基準の大幅な見直しを提案 BMIに加えて体脂肪なども測定 ランセット糖尿病・内分泌学

2025.01.21

 世界の75以上の医療機関が参加している臨床肥満委員会(The Commission on Clinical Obesity)が、肥満について、体格指数(BMI)に加えて体脂肪などの測定と、個人レベルの客観的な健康状態や症状にもとづき診断する新しいアプローチを提案している。詳細は、「Lancet Diabetes & Endocrinology」に掲載された。

 BMIだけでなく、身体サイズ[ウエスト周囲径、ウエストヒップ比、ウエスト身長比など]を1つ以上測定することを推奨している。

 「肥満を単なる危険因子とみなし、疾患としてみないことは、肥満が原因で健康を害している患者が治療を受けられないという不当な結果をまねく可能性がある」と、研究者は指摘している。

肥満の診断基準の大幅な見直しを提案 BMIに加えて体脂肪なども測定

 キングス カレッジ ロンドンなど世界の75以上の医療機関が参加し、内分泌学・内科・外科・公衆衛生学など幅広い分野の専門家56人が参加している臨床肥満委員会(The Commission on Clinical Obesity)が、肥満について、体格指数(BMI)に加えて体脂肪などの測定と、個人レベルの客観的な健康状態や症状にもとづき診断する新しいアプローチを提案している。詳細は、「Lancet Diabetes & Endocrinology」に掲載された。

 委員長の、キングス カレッジ ロンドン 代謝・肥満外科部のFrancesco Rubino教授は、「肥満は疾患である、あるいは疾患ではありえないという、"全か無か"というシナリオを前提としていると、肥満に対する対処は間違いやすい。肥満の病態は複雑であり、肥満があっても臓器の機能や全体的な健康状態を長期にわたって正常に維持できている人がいる一方で、重篤な疾患の兆候や症状をすでに示している患者もいる」と述べている。

 「肥満を単なる危険因子とみなし、疾患としてみないことは、肥満が原因で健康障害があらわれている患者が、時間的に制約のある治療を受けられないという不当な結果をまねく可能性がある。一方、肥満を疾患として一概に定義すると、過剰診断や不適切な薬物療法や外科療法の実施につながるおそれもある」としている。

 臨床肥満委員会が示した肥満に対する新しいアプローチの概要は次の通り――

  •  現在の肥満の診断法はBMIに依存しているが、これは個人レベルでの健康や疾患の信頼できる指標ではない。そのため誤診が発生し、肥満者や社会全体に悪影響を及ぼす可能性がある。
  •  委員会は、BMIに加えて、ウエスト周囲径や直接的な体脂肪の測定などにより肥満を検出し、誤分類のリスクを軽減する、新しい精密なアプローチを提唱している。
  •  さらに、個人レベルでの疾患の客観的な尺度にもとづき、肥満の2つの新しい診断カテゴリー、すなわち、▼臨床的肥満(肥満による機能不全が継続されている慢性疾患)、▼前臨床的肥満(健康リスクの程度はさまざまだが継続疾患はない)を導入した。
  •  肥満ともに生きるすべての患者が、臨床的肥満と前臨床的肥満に対する異なる戦略にもとづき、必要に応じて、個別の健康アドバイスとエビデンスにもとづく治療・指導を受けられるようにし、さらには肥満に対する誤解や無理解による社会の偏見や非難を回避できることが望ましい。

過剰な体脂肪により低下した身体機能の回復・改善が必要

 委員会ではさらに、BMIが肥満の可能性のある人を特定するためのスクリーニングツールとして有用であることを認めながら、BMIに下記の方法を追加して、過剰な体脂肪とその分布について理解することを推奨している。

  •  BMIに加えて、身体サイズ[ウエスト周囲径、ウエストヒップ比、ウエスト身長比など]を1つ以上測定する。
  •  BMIに関係なく、身体サイズの測定[ウエスト周囲径、ウエストヒップ比、ウエスト身長比など]を2つ以上追加する。
  •  BMIに関係なく、直接的な体脂肪測定を実施する。
  •  BMIが40を超える高度肥満の場合は、体脂肪が過剰であると想定される。

 臨床的肥満は、過剰な体脂肪の蓄積を直接の原因として、標準的な日常活動を行う能力の著しい低下が認められる状態で、慢性疾患が進行しており、適切な管理と治療必要とみられる。委員会は、成人の臨床的肥満に関する18の診断基準と、小児および青少年に関する13の特定の基準を設定している。

 臨床的肥満のある患者には、単に体重を減らすだけでなく、過剰な体脂肪によって低下した身体機能を回復あるいは改善することを目的に、エビデンスにもとづく治療をタイムリーに提供する必要がある。臨床的肥満の治療と管理の種類(ライフスタイル、薬物療法、外科療法など)は、個人のリスクとベネフィットの評価にもとづき決定し、適切な患者支援も必要としている。

 一方、前臨床的肥満は、臓器機能が正常な肥満状態であり、現在は発症してないものの、将来的に臨床的肥満や2型糖尿病、心血管疾患、特定の種類のがん、精神疾患などの非感染性疾患(NCD)を発症するリスクの変動が予想される。そのため、潜在的な疾患リスクを減らすために支援を提供することが望ましいとしている。

THE LANCET DIABETES & ENDOCRINOLOGY: Global Commission proposes major overhaul of obesity diagnosis, going beyond BMI to define when obesity is a disease (Lancet 2025年1月14日)
Global Commission proposes major overhaul of obesity diagnosis (キングス カレッジ ロンドン 2025年1月15日)
Definition and diagnostic criteria of clinical obesity (Lancet Diabetes & Endocrinology Commission 2025年1月14日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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