カルシウム拮抗薬のシルニジピンがミトコンドリア異常を抑制 糖尿病や脂肪肝を改善 エコファーマ創薬に期待 九州大学など

2024.08.01
 身体に取り込まれたグルコースは、ミトコンドリアでエネルギー源として利用されるが、糖尿病患者では、ミトコンドリア異常が報告されている。

 九州大学は、高血圧治療の使われているカルシウム拮抗薬であるシルニジピンに、ミトコンドリアの機能を維持する作用があることを発見し、ミトコンドリア形態異常を抑制することで、高血糖や脂肪肝を改善することを明らかにした。

 シルニジピンを服用している高血圧患者で、糖代謝の有意な改善がみられ、ミトコンドリアの品質維持が糖尿病や脂肪肝の新たな治療戦略になる可能性を示した。

高血圧症治療薬のシルニジピンがミトコンドリアの品質を維持

 九州大学は、高血糖・高脂肪食の摂取によって引き起こされる肝臓や骨格筋のミトコンドリア形態異常に着目し、ミトコンドリア過剰分裂を抑制する作用のあるカルシウム拮抗薬であるシルニジピンやその新規誘導体が、高血糖や脂肪肝を改善することをマウスで明らかにした。

 研究グループはこれまでに、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬のひとつであるシルニジピンが、ミトコンドリア異常分裂を抑制することを明らかにしている。

 アムロジピンなど別のカルシウム拮抗薬ではこうした作用はみられなかったことから、シルニジピンは従来のカルシウム拮抗作用とは異なる薬理作用を介して、ミトコンドリア異常分裂を抑制すると結論している。

 今回の研究で、高血糖や高脂質で引き起こされる組織でみられるミトコンドリア形態異常を抑制することで、グルコース代謝を正常化し、血糖値を制御することや、脂肪滴の蓄積を改善することが示された。

 シルニジピンを服用している高血圧患者でも、糖代謝の有意な改善がみられ、ミトコンドリアの品質維持が糖尿病や脂肪肝の新たな治療戦略になる可能性が示唆された。

 身体に取り込まれたグルコースは、ミトコンドリアでエネルギー源として利用されるが、糖尿病患者の組織では、ミトコンドリアの形態異常が報告されている。

 今回の研究で、シルニジピンを糖尿病モデルマウスへ投与し、血糖値が改善されることを明らかにした。

 さらにシルニジピンは、ミトコンドリアの分裂に必須の因子であるDrp1と、細胞骨格を司るアクチンに結合するタンパク質であるFilaminとのタンパク質間相互作用を阻害し、ミトコンドリア形態異常を抑制することで、血糖値を改善させることを解明した。

 シルニジピンは、肝臓で脂質を貯蔵している脂肪滴も軽減し、またシルニジピンの既知の作用(Ca2+チャネル阻害活性)を除去した誘導体(1-4DHP)を同定し、1,4-DHPがシルニジピンより効果的に高脂肪食負荷マウスの高血糖や脂肪肝を改善することも示した。

 ミトコンドリアの形態異常はエネルギー産生能に影響することから、ミトコンドリアの質の維持(品質管理)が糖尿病の治療戦略になると考えられる。

 研究は、九州大学大学院薬学研究院の西田基宏教授(自然科学研究機構生理学研究所/生命創成探究センター兼務)、加藤百合助教、有吉航平氏らの研究グループが、京都大学、大阪公立大学などと共同で行ったもの。研究成果は、「British Journal of Pharmacology」および「International Journal of Molecular Science」に掲載された。

 「今回の発見は、糖尿病、脂肪肝に限らず、ミトコンドリア形態異常をともなうさまざまな疾患に対する画期的な治療法を提案するものと期待される」と、研究グループでは述べている。

シルニジピンや1,4-DHPによるミトコンドリア品質管理
シルニジピンは従来のカルシウム拮抗作用とは異なる薬理作用(ミトコンドリア過剰分裂に関与するDrp1-Filamin複合体の抑制)を介してミトコンドリアの機能を維持する
今回の研究で、ミトコンドリア分裂阻害能を保持したシルニジピン誘導体(1,4-DHP)を同定
出典:九州大学、2024年

ミトコンドリア機能を改善するとグルコース代謝が正常化 糖尿病合併症リスクが減少

 身体に取り込まれたグルコース(糖)は、ミトコンドリアでのエネルギー源になり、ミトコンドリアは常に分裂と融合のサイクルを繰り返しながら、その品質と機能を維持している。

 分裂と融合のバランスの崩壊は、糖尿病や神経変性疾患などさまざまな疾患の発症に関与しており、糖尿病患者の組織でミトコンドリアの膨潤や断片化といった形態異常が報告されている。

 研究グループは、ミトコンドリアの構造・形態を正常化することで全身のミトコンドリアの機能を改善すれば、血糖値を制御し合併症のリスクも減らせるのではないかと仮説を立てた。

 高血糖モデルマウスの肝臓や骨格筋でみられるミトコンドリアの形態異常に着目し、シルニジピンやその誘導体によるミトコンドリア品質維持より、血糖値や脂肪滴を制御する新たな治療法の開発を目指した。

 epG2細胞を高濃度のグルコース(25mM)で培養すると、ミトコンドリアが膨潤(形態異常)し、ミトコンドリア機能の指標のひとつである酸素消費速度が減少したが、シルニジピンがこれらを改善した。

 ストレプトゾシンを用いた細胞障害による高血糖モデルマウスにシルニジピンを投与した結果、血糖値が正常なマウスと同程度まで改善した。シルニジピンを投与していない高血糖マウスでは、骨格筋、肝臓ともミトコンドリア形態が変化していたが、シルニジピンはこの形態異常を抑制していた。

 レプチンを欠損させた糖尿病モデルのOb/obマウスにシルニジピンを投与しても、血糖値改善効果は得られず、シルニジピンにインスリンの抑制傾向があることが分かった。

 次に、インスリン放出を阻害するCa2+チャネル阻害能をシルニジピンから除去し、ミトコンドリア分裂阻害能のみ保持したシルニジピン誘導体(1,4-DHP)を同定した。

 高脂肪食を与えたOb/obマウスに1,4-DHPを投与した結果、インスリン放出抑制効果はなく、ミトコンドリア形態異常が抑制され、高血糖が改善した。同時に、肝臓での脂肪滴の蓄積も減少した。

Ob/obマウスの肝臓におけるミトコンドリアと脂肪滴
[左]高脂肪食を摂取したOb/obマウスの肝臓の電顕画像 (M: ミトコンドリア、LD: 脂肪滴)
[右]1肝細胞中の脂肪滴の面積
出典:九州大学、2024年

 「以上の結果から、高血糖や高脂質で引き起こされる組織でみられるミトコンドリア形態異常を抑制することで、グルコース代謝を正常化し血糖値を制御することや脂肪滴の蓄積の改善が示唆された」と、研究グループでは述べている。

 「本研究により、シルニジピンや1,4-DHPを用いて複数の臓器のミトコンドリアの質を正常化することで、全身のグルコース代謝を改善することをみいだした。今後は、病態下で何をきっかけにして、ミトコンドリアの形態・機能異常が引き起こされるのかを明らかにしていく必要があると考えている」。

 「ミトコンドリア形態異常は、糖尿病やその合併症だけではなく、心不全や神経変性疾患などさまざまな疾患でも報告されていることから、これらの疾患に対してミトコンドリアの品質管理を標的とした新たな治療法の開発が期待される」としている。

九州大学大学院薬学研究院生理学分野
Inhibition of dynamin-related protein 1-filamin interaction improves systemic glucose metabolism (British journal of pharmacology 2024年7月10日)
Inhibition of Drp1–Filamin Protein Complex Prevents Hepatic Lipid Droplet Accumulation by Increasing Mitochondria–Lipid Droplet Contact (International Journal of Molecular Science 2024年5月17日)
Hypoxia-induced interaction of filamin with Drp1 causes mitochondrial hyperfission-associated myocardial senescence (Science Signaling 2018年11月13日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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