脂質プロファイルにもとづく機械学習で糖尿病やCVD発症を高精度に予測

2022.03.24
 脂質プロファイルを利用し機械学習モデルによって構築されたリスク評価スコアにより、将来の2型糖尿病発症や心血管疾患(CVD)イベント発生を高精度で予測できるとする研究結果が、「PLOS Biology」に3月3日掲載された。ドイツのバイオテクノロジー関連企業であるLipotype GmbH社のChris Lauber氏らの研究によるもの。

 2型糖尿病の発症やCVDイベントの発生は、それらが実際に生じる前に、血圧や脂質、血糖値などのデータからある程度リスクを推測できるが、予測能は十分でなく、残余リスクの存在が示唆されている。そこでLauber氏らは、スウェーデンで行われた住民ベースのコホート研究(Malmö Diet and Cancer-Cardiovascular Cohort;MDC-CC)のデータを用いて、詳細な脂質プロファイルを利用した機械学習モデルによって、それらのリスクの予測能を高める検討を行った。

 MDC-CCは1991~1994年に4,067人が登録され、2015年まで2型糖尿病やCVD、認知症、がんなどの発症が追跡された。本研究では、ベースライン時に糖尿病やCVDの既往のある者を除外して解析が行われた。糖尿病に関しては3,688人が解析対象とされ、そのうち509人(13.8%)が追跡期間中に2型糖尿病を発症、CVDに関しては3,951人が解析対象とされ、870人(22.0%)にCVD死を含むCVDイベントが発生した。

 セラミド、リゾホスファチジルコリンなど、合計184種類の脂質関連パラメーター(2型糖尿病については167種、CVDについては157種)から算出するリスクスコアを作成。そのリスクスコアは、2型糖尿病発症やCVD発生を高精度に予測することが明らかになった。

 例えば、2型糖尿病に関しては、リスクスコアの第1十分位群からは3.2%のみが発症したのに対して、第10十分位群からは37.0%が発症した。スコアの平均値との比較では、第1十分位群のリスクは76.8%低く、第10十分位群は168.1%高かった。またCVDイベントに関しては、第1十分位群からは10.4%発生したのに対して、第10十分位群からは40.5%が発生した。スコアの平均値との比較では、第1十分位群のリスクは52.8%低く、第10十分位群は84.2%高かった。

 この結果を、公開されているゲノムワイド関連解析(genome wide association study;GWAS)のデータから作成した多遺伝子リスクスコア(polygenic risk scores;PRS)と比較したところ、PRSよりも予測能に優れていることが確認された。また、脂質プロファイルにもとづく予測スコアにPRSを加味しても、予測能はわずかな上昇にとどまった。

 続いて、一般的な臨床検査データを加味したところ、以下に示すように、最も高い予測能が観察された。2型糖尿病に関しては、リスクスコアの第1十分位群からは1.1%のみが発症したのに対して、第10十分位群からは51.0%が発症し、後者は平均スコアに比較し258.8%のリスク増。またCVDイベントに関しては、第1十分位群からは6.5%が発生したのに対して、第10十分位群からは53.3%が発生し、後者は平均スコアに比較し145.9%のリスク増。

 これらの結果からLauber氏は、「低コストで迅速に分析可能な脂質プロファイルから得られる予測スコアの利用によって、従来の臨床検査値にもとづくリスク評価の精度向上につながる可能性がある」と述べている。

 なお、数人の著者が、Lipotype GmbH社との金銭的関係の存在を明らかにしている。

[HealthDay News 2021年3月11日]

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