「肥満症対策に向けた6つの提言」を発表 多職種や多機関の連携や多様な介入手法が必要 日本医療政策機構
肥満と肥満症に多様に介入するために提言を策定
経済成長にともなう生活スタイルの変化や都市化などを背景に、日本でも肥満やメタボをはじめとした慢性疾患、非感染性疾患(NCDs)が増加している。
日本では世界にさきがけて、多くの慢性疾患の要因となる肥満やメタボに対して、「特定健康診査」「特定保健指導」(メタボ健診)の実施が2008年から開始された。肥満が健康にもたらす害について、国民の意識の改善がはかられたのは画期的で、これまで成果がえられている。
一方で、医療的介入も検討すべき肥満症と、一般的な肥満とでは、対処するべきやり方が異なり、予防も含めた多様な介入手法が必要とされている。
自己責任論におちいらず社会全体で取り組むことが重要
そこで、医療政策についての調査・研究を行っている日本のシンクタンクである日本医療政策機構(HGPI)は、このほど「患者・市民・地域が参画し、協働する肥満症対策に向けた6つの提言」を策定した。
肥満の予防や介入では、健康的な食事や運動・身体活動といった生活スタイルをマネジメントしやすく、肥満の原因となる心理的ストレスの少ない社会環境をつくることが求められている。
「健康の社会的要因(SDH)」と呼ばれる、所得や生活環境と健康の相関関係も明らかになっている。自己責任論におちいることなく、所得格差や教育格差が健康格差につながらないよう、社会全体で健康増進の取り組むことが重要になっている。
肥満症に対する医療的介入についても、さまざまな科学的なアプローチが世界的に進められている。
保健医療システムを俯瞰し多職種や多機関の連携を促進
同機構は、肥満症や肥満に関する社会全体の関心を引き上げ、さらに効果的で有機的に対策を推進していく機運を作るために、「肥満症対策推進プロジェクト」を2022年に立ち上げた。
プロジェクトの第1弾として、多様な専門領域からなるアドバイザリーボードを組成し、意見交換を行い、検討すべき論点を抽出。
発表された提言でも、主な論点として次の5点を挙げている。
- 医学的視点での肥満症の定義づけと、それを広く社会に浸透させる重要性
- 科学的根拠にもとづく各種ガイドライン整備
- 医療的介入だけでなく非医療的介入を含めた介入方法の多様化
- 日本での肥満症や肥満に関する研究の拡充、エビデンスやデータにもとづく政策展開
- 当事者にとって円滑な健康増進施策を推進するための医療情報ネットワークやデータヘルスシステム構築
「提言が政策立案者や関係者の一助となり、患者・市民・地域が参画し、協働する肥満症対策に向けて、政策の進展がはかられることを期待します」と、同機構では述べている。
提言1 |
医療的介入が必要な肥満症の定義を広く社会に浸透させ、介入が必要な当事者を同定するとともに、引き続き科学的根拠にもとづく各種ガイドラインを整備していく
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医療的介入が必要な肥満症の人が適切な治療にアクセスできるようにするため、医学的な肥満症について広く社会に浸透させる必要がある。減量の必要のない女性や若年層などが、過度に肥満をおそれることを防ぐことも必要。過栄養の人と低栄養の人が併存する「栄養不良の二重負荷」にも対策する。
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▼肥満の定義、▼世界で増加する肥満、▼特定健診データから見える日本の現状、▼「健康日本 21」から見える日本の現状、▼日本肥満学会の取り組み、▼診療ガイドラインの普及啓発 |
提言2 |
医療的介入が必要な肥満症の治療では、専門医や専門医療機関の関与のみならず、かかりつけ医や産業医との連携や多職種連携を推進する
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医療機関の専門医(内科、外科、精神科など)に加えて、保健師、看護師、管理栄養士、理学療法士、臨床心理士など、多職種の連携が効果的。多職種の医療提供者が連携できるようにする政策的支援が期待されている。
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▼日本医師会の取り組み、▼大学・教育機関の取り組み、▼学校医の役割、▼肥満症対策の効果の波及、▼集学的治療の推進、▼海外事例 |
提言3 |
肥満症の発症要因は多様かつ複雑であり、過食や運動不足といった自己責任論に収束することなく、「健康の社会的要因」の視点をふまえ、当事者および社会全体が抱える要因課題を再認識する
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肥満症は当事者の自己責任だけではなく、「健康の社会的要因」が背景としてあることを理解し対応する。子供では家庭や社会での食育や健康教育が、成人期でも孤立や貧困、ストレスといったメンタルヘルスや社会的環境が要因になっているケースがある。
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▼プレシジョン・パブリックヘルス、▼次期国民健康づくり運動プラン、▼食育や栄養教育、▼海外事例 |
提言4 |
肥満症の発症要因の多様性や複雑性をふまえ、肥満症に対する介入方法を多様化させるべく、幅広い関係者の協働と参画を拡充させる
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肥満症の発症要因の多様性や複雑性をふまえ、肥満症の当事者のニーズによりそった介入手段を検討する。肥満症や肥満の予防・改善では、社会的処方を含む多様な非医療的介入も有効。国内外で好事例がではじめており、地域の特性をふまえつつ、全国での横展開を進める。
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▼社会的処方、▼精神障害の当事者への対応、▼まちなかウォーカブル推進事業、▼スマート・ライフ・プロジェクト、▼身体活動の促進を目指した国内外の好事例、▼地域包括ケアシステムの活用、▼海外事例 |
提言5 |
肥満症や肥満に関連する出現状況は、国や地域によって異なるため、日本での研究を拡充させ、エビデンスやデータにもとづく政策を展開する
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国や地域、人種により肥満症の影響に差があり、世代別でも、より若い世代での肥満が寿命に大きく影響することなどが示されている。日本での肥満症や肥満についての研究を拡充させ、エビデンスやデータにもとづく政策を実装する。
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▼ナショナルセンターの連携、▼患者・市民参画、▼特定健診の今後の展開や活用、▼格差是正の目的に沿ったエビデンスデータの検証、▼海外事例 |
提言6 |
肥満症対策のみならず、保健医療システム全体を俯瞰した医療情報ネットワークやデータヘルスシステムの構築により、当事者にとって円滑な健康増進施策を推進する
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肥満症と肥満の改善だけでなく、健康増進の施策を全般に推進するために、また多職種連携や多機関連携を促進するために、医療情報ネットワークやデータヘルスシステムの構築が不可欠。当事者目線に立った、質が高く無駄のない医療や健康相談を提供することを可能にする。
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▼医療DXの推進、▼エビデンスの構築に資する医療DX、▼オンライン診療の現状と展望 |