肥満や喫煙が新型コロナの重症化リスクを65~81%上昇 肥満対策や禁煙の生活指導は新型コロナ対策としても有用
肥満や喫煙は新型コロナのリスクも高める
▼喫煙、▼肥満、▼社会経済的地位の低下が、新型コロナを軽度から重度に進展させるリスクを高める可能性があることが、香港大学公衆衛生学部や香港中文大学医学部などが実施した、約300万人の大規模なゲノムワイド関連解析により明らかになった。
これまで2型糖尿病や高血糖、ビタミンDの不足なども、新型コロナのリスクを高めるとみられていたが、喫煙と肥満の影響はこれよりも強いことが示された。
研究者グループはまた、新型コロナウイルスの重要な受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)というタンパク質が、肥満などがもたらす悪影響の一部を媒介していることも発見した。
生体内の細胞にあるアンジオテンシン変換酵素(ACE)は、ACE1とACE2の2種類があり、ACE1は体内のナトリウム濃度を調節するホルモンであるアンジオテンシンIIを生成して高血圧をもたらし、ACE2はこれを不活化して血圧を下げたり、臓器を保護する働きをする。
高血圧の治療薬として広く利用されているACE阻害薬は、アンジオテンシンIIの生成を抑えることで血圧を下げる薬。アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、アンジオテンシンIIが作用する受容体を直接的に阻害して血圧を下げる薬だ。
新型コロナウイルスは、ACE2を介して宿主細胞に侵入するが、これまで高血圧のある人が、降圧薬であるACE阻害薬やARBを服用していると、新型コロナに感染しても意識障害などの重症化が少ないことなどが報告されており、新型コロナの重症化によって生じるサイトカインストームや急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を改善する薬剤としてい期待されている。
ウイルスの侵入を効果的に抑制するために、ACE2を調節する薬を利用した、治療アプローチも開発されている。
BMIが上昇すると新型コロナの重症化リスクは81%増加
研究グループは今回、曝露因子と疾病との間の因果関係について推測する研究手法であるメンデルランダム化を用いて、新型コロナを重症化するさまざまな因子について調べた。
研究グループは、約304万人のデータから、新型コロナのさまざまな危険因子に関連する遺伝的変異体を抽出し、ゲノムワイド関連解析により約294万のデータを評価した。
その結果、▼喫煙、▼肥満、▼社会経済的地位の低下が、新型コロナを軽度から重度に進展させるリスクを高める可能性があることが明らかになった。
たとえば、体格指数(BMI)の標準偏差が1つ上昇すると、新型コロナの重症化リスクは81%増加し、入院リスクも55%増加するという。
新型コロナの感染リスクについては、強い社会的グラデーションもみられ、社会経済的地位の低い人もリスクが高いことが示された。そうした人は、喫煙率が高いことが知られている。
肥満対策や禁煙の生活指導は新型コロナ対策としても有用
これまでも、肥満や糖尿病のある人では、脂肪組織で新型コロナの受容体となるACE2が亢進しており、感染や重症化のリスクが上昇しやすいことが報告されている。
また喫煙により、ACE2の受容体の発現がもたらされ、炎症が起こりやすくなり、新型コロナが重症化しやすいことも知られている。
「世界保健機関(WHO)の報告書でも、健康を害し疾病による負担を増やしている要因として、肥満や喫煙習慣が挙げられています。肥満や喫煙は、新型コロナのリスクも高めることが示されました」と、香港大学公衆衛生学部で生物統計学を研究しているライアン オー ヨン シウラン教授は言う。
「喫煙習慣のある人や、BMIの高い肥満の人に、新型コロナのリスクを軽減するために、ただちに禁煙や減量に取り組んでもらうのは難しいかもしれませんが、中期・長期の展望として、リスクの高い人に禁煙や体重管理を推奨して、健康的な生活スタイルを推進する必要があります」と、オー ヨン教授は言う。
「さしあたって、いますぐできる新型コロナ対策として、新型コロナワクチンの追加接種を受けることが強く推奨されます」としている。
A joint HKU-CUHK study confirms smoking and obesity increase risk of severe COVID-19 by 65%-81% (香港大学 2022年12月14日)
Does ACE2 mediate the detrimental effect of exposures related to COVID-19 risk: A Mendelian randomization investigation (Journal of Medical Virology 2022年10月10日)