日本人は肥満により糖尿病と高血圧のリスクが増加 脂質異常症は男女で差が 性差医療が必要 神戸大学
肥満が進行するほど糖尿病と高血圧の有病率は大きく増加 脂質異常症は緩やか
神戸大学は、65歳の神戸市民約1万1,000人を対象に、肥満に合併する代表的な疾患である2型糖尿病・高血圧・脂質異常症の肥満度別の有病率と、普通体重に対して各疾患を有するリスクを検討した。
その結果、各疾患の有病率は、糖尿病 9.7%、高血圧 41.0%、脂質異常症 63.8%だった。普通体重者の疾患リスクを1.0としたときの、各肥満度での疾患リスクを反映した値をオッズ比として検討した。
その結果、肥満が進行するほど、糖尿病と高血圧の有病率は大きく増加した(BMI 35以上の肥満でのオッズ比は、糖尿病 12.95、高血圧 19.44)。
一方、脂質異常症は、普通体重者群でも有病率が60%を越えて高く、肥満が進行しても増加は緩やかであることが示された。
正常体重と比べたBMI 35以上の肥満での脂質異常症のオッズ比については、超低密度リポタンパク質(VLDL)コレステロール血症をともなう場合でオッズ比は2.59、ともなわない場合で3.65となった。
男女別に解析すると、男性では肥満の進行とともに3疾患を有するリスクは同じように増加したが、女性では糖尿病と高血圧のリスクが大きく増加した一方で、脂質異常症のリスク増加は緩やかで、そのピークも軽度肥満者群に認められた。
女性では、肥満度が上昇しても、脂質異常症のリスク増加は低いのに加え、ピークは肥満度Iという軽度の肥満で認められた。
男性では減量が有効だが、女性の脂質異常症は減量だけでは不十分
研究は、神戸大学大学院医学研究科健康創造推進学分野の田守義和特命教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載された。
これまで肥満に関連する疾患の有病率を肥満度別に検討した報告はほとんどなく、肥満になると、肥満に関連するどの疾患もリスクが増加するという、漠然とした認識しかないのが実情だった。
そのため、2型糖尿病などの生活習慣病や肥満症の診療でも、どの程度減量すればどのくらい疾患リスクが低下するかといった、具体的な指導ができなかった。
「とくに日本人を含め東アジア人は、軽度の肥満でも代謝異常を発症しやすいという特徴があります。しかし、日本人はどの程度の肥満になれば、どういった疾患がどのくらい発症するのか、今まで詳しい研究はほとんどなされていませんでした」と、研究グループでは述べている。
「今回の研究で、糖尿病、高血圧、脂質異常症の有病率を減らすためには、男性では減量が有効であること、女性では糖尿病と高血圧を減らすには減量が有効であるものの、脂質異常症には体重を減らすだけでは不十分で、減量以外にも、食事や運動など生活習慣の改善を見据えた指導や診療が必要となることが示唆されました」。
「女性の脂質異常症には、肥満以外にも各種の背景(遺伝的素因、ホルモン、食事、運動など)が関与するものと考えられます。単に体重を減らすことだけではなく、過剰な脂質や糖質摂取を控える、運動不足に注意するといった良好な生活習慣を維持することが重要と考えられます」と、田守特命教授はコメントしている。
この3疾患以外にも、脳梗塞や冠動脈疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症といった運動器疾患など、肥満に関連する重要な疾患がある。
「今後は、このような肥満に関連する健康障害が、どの程度の肥満でどのくらいの有病率を示すのかを、年齢別、性別で解明することが、肥満に関連して発症する疾患を指導および診療して行くうえで重要であり、医療経済的な側面に対する減量の効果を推測するうえでも大変に参考になります」としている。
なお、今回の研究での3疾患の診断基準は次の通り――。
糖尿病:空腹時血糖値が126mg/dL以上かつHbA1c値が6.5%以上。または血糖降下薬を使用中の人。
高血圧:収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上のいずれかの場合。または降圧薬を使用中の人。
脂質異常症:血清の中性脂肪濃度が150mg/dL以上、または血清LDL-コレステロール濃度が140mg/dL以上、または血清HDL-コレステロール濃度が40mg/dL未満のいずれかの場合。または脂質降下薬を使用中の人。
神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 糖尿病・内分泌内科学部門
Obesity and risk for its comorbidities diabetes, hypertension, and dyslipidemia in Japanese individuals aged 65 years (Scientific Reports 2023年2月9日)