心不全を早期発見するAI システムを開発 心不全重症度の新たな指標も確立 東京大学など

心電図データからAIにより心不全の重症度を数値化
スマートウォッチなどで取得した心電図データも解析
東京大学などは、携帯型心電計で計測される心電図データから、心不全を早期検出する人工知能(AI)システムを開発したと発表した。
研究は、東京大学大学院医学系研究科先進循環器病学の荷見映理子特任研究員、藤生克仁特任教授らの研究グループが、SIMPLEX QUANTUMと共同で行ったもの。研究成果は、「International Journal of Cardiology」に掲載された。
このシステムを活用すれば、植込み型心臓電気デバイス(CIED)に依存していた心不全の在宅モニタリングは、スマートウォッチを含む携帯型心電計で計測できる単一誘導心電図データのみを用いてできるようになり、心不全の進行の早期検出につながる可能性がある。
研究グループはさらに、AIによる独自の「HF(Heart failure)インデックス」を開発し、心不全の重症度を数値化する新たな指標も確立した。こうしたアプローチによる心不全のリアルタイム評価システムの報告はこれまでになく、心不全管理のより良い医療を提示するものとしている。
「本システムの導入により、心不全患者さんは自宅で簡便に病状をモニタリングできるようになるため、再入院のリスク低減や早期の治療介入につながります。さらに、遠隔医療の発展や、心不全管理の効率化や患者さんの生活の質向上にも寄与することが期待されます」と、研究者は述べている。

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患者が自宅にいながらにして心不全の悪化を早期に検出
左室収縮能が保たれている心不全にも対応
心不全の再発を早期に検出し、薬物療法などを行えば入院を避けることが可能だが、心不全の悪化は自宅で起こるため、自宅での早期検出が重要となるが、患者が自宅で病状の進行を検知する方法は限られている。
そこで研究グループは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いたAIモデルを構築し、家庭でも利用できる単一誘導心電図を使って心不全の進行度を判定するシステムを開発した。
これまで、心電図から心不全のうち左室収縮能が低下しているタイプの心不全(HFrEF)を検出できるAIモデルはすでに報告されていたが、今回の研究で新たに開発したAIモデルは、左室収縮能が保たれている心不全(HFpEF)にも対応しているため、両方のタイプの心不全を検出することができる。
研究グループは、9,518人の心不全患者および健康な参加者の心電図データを用いて、AIモデルの学習を行った。心電図記録時には、複数の循環器専門医がニューヨーク心臓協会(NYHA)分類を用いて判定し、そのデータを基にAIがNYHA分類を推定した。
そして、推定されたNYHA分類からHFインデックスを算出し、心不全の重症度をリアルタイムで数値化する新しい指標を開発した。
その結果、CNNモデルは心不全の重症度をNYHA I–II(無症状~軽度)とNYHA III–IV(中等度~重度)の2つのカテゴリーに分類し、91.6%という高い精度を達成した。
また、新たに導入したHFインデックスは、血中脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)濃度と正の相関[R=0.74]を示し、HFインデックスが上昇するとBNPも有意に上昇していくことが前向き観察研究で明らかになり、心不全の重症度を適切に反映する指標としての有効性を確認したとしている。
さらに、入院治療を受けた心不全患者を対象として、前向き観察研究を実施した。退院後、自宅で携帯心電図を用いて計測された単一誘導心電図からHFインデックスを算出し、BNPとの相関性、判定精度、および再入院との関連について解析を行った結果、心不全の判定精度は特異度87.5~93.8%と良好であり、HFインデックスはBNPと良好な相関を示した。加えて、再入院前にBNPよりも早期にHFインデックスが上昇する症例も確認された。
これらの結果から、研究で構築されたAIモデルによって、携帯心電図から算出されるHFインデックスを用いることで、心不全患者が自宅にいながらにして心不全の悪化を早期に検出できる可能性が示されたとしている。
研究は、科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業「恒常性の理解と制御による糖尿病および併発疾患の克服」の支援により実施された。
東京大学大学院医学系研究科
科学技術振興機構 ムーンショット型研究開発事業
Heart failure monitoring with a single‑lead electrocardiogram at home (International Journal of Cardiology 2025年8月)