GLP-1受容体作動薬などによる痩身目的のオンライン診療のトラブルが増加 ダイエット目的で糖尿病治療薬を数ヵ月分処方 国民生活センター

2023.12.28
 国民生活センターは、GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬などを利用した、痩身などを目的としたオンライン診療(自由診療)について、説明不足や解約・返金などのトラブルについての相談が増えていると発表した。同センターは、2020年9月にも注意喚起を行ったが、その後も相談は増えているという。

 同センターは、痩身などを目的とするオンライン診療についての相談事例からみた特徴や問題点として、(1) 処方薬、副作用の説明や、基礎疾患の問診が不十分、(2) 消費者側からみると定期購入と同様の仕組みだが、特定商取引法にもとづく取消しや解約が難しい場合がある、(3) 運営事業者と医師の責任の所在がわかりにくい――という3点を挙げている。

GLP-1受容体作動薬などを利用したオンライン診療のトラブルが増加

 国民生活センターは、GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬などを利用した、痩身などを目的としたオンライン診療(自由診療)について、説明不足や解約・返金などのトラブルについての相談が増えていると発表した。同センターは、2020年9月にも注意喚起を行ったが、その後も相談は増えているという。

 痩身などを目的とするオンライン診療についての相談では、処方薬、副作用の説明や、基礎疾患の問診が十分でないまま、初診時に数ヵ月分の処方薬が処方されるなど、厚生労働省が作成した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が遵守されていないケースや、処方薬の定期購入の中途解約に一定の条件がある場合であっても、その説明が十分にされていないケースがみられるとしている。

 「PIO-NET」(全国消費生活情報ネットワークシステム)は、国民生活センターと全国の消費生活センターなどをオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベース。

 PIO-NETに登録された「美容医療のオンライン診療」に関する相談件数の推移をみると、2021年は49件だったのが、2022年は205件と4.2倍に増え、2023年も10月時点で169件となっており依然として多い。

 相談情報の詳細として、女性が多い(76.5%)、平均年齢は43.3歳、給与生活者が全体の67.2%を占める、契約購入金額の平均は約12万円といった情報を公表している。

 なお、ここで言う「美容医療」は、疾病の治療ではなく、身体の美化を主目的とした医療サービスを指し、特定商取引法に規定する特定継続的役務の美容医療とは必ずしも一致しない場合がある。

PIO-NETにおける「美容医療のオンライン診療」に関する相談件数の推移

「美容医療のオンライン診療」に関する相談の件数[性別・年代別]

出典:国民生活センター、2023年

痩身などを目的とするオンライン診療の問題点などを指摘

 オンライン診療は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、医療機関の受診が困難となったことなどをふまえ、2020年4月より時限的・特例的な取り扱いとして開始され、2022年1月に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が改訂され、初診からのオンライン診療が恒久的に可能となった。

 情報通信白書によると、2021年6月末時点でオンライン診療などを実施可能とする医療機関が全体の15%となっている。

 国民生活センターは、痩身などを目的とするオンライン診療についての相談事例からみた特徴や問題点として、次のことを挙げている。

(1) 処方薬、副作用の説明や、基礎疾患の問診が不十分
 痩身目的などの自由診療では、医師は施術にともなう副作用や合併症のほか、施術費用及び解約条件、保険診療での実施の可否、効果には個人差があることなどについても丁寧に説明することが求められているが、多くの事例でこれらの説明が不十分と考えられるとしている。
 また、厚生労働省が作成した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、初診の場合には、基礎疾患などの情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方を行わないこととされているが、初診で基礎疾患などの確認が不十分なまま数ヵ月分の処方がなされているケースがある。
 さらに、同指針で、患者が、医学的な必要性にもとづかない体重減少目的に使用されうる糖尿病治療薬の処方を希望するなど、不適正使用が疑われるような場合に処方することは不適切とされているが、2型糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬)を痩身目的で処方(不適正使用)されているケースがある。
 このように、同指針が遵守されているとは考えにくい事例が見受けられるとしている。

(2) 消費者側からみると定期購入と同様の仕組みだが、特定商取引法にもとづく取消しや解約が難しい場合がある
 相談事例では、痩身目的の治療について契約期間が数ヵ月間の継続的なコース(処方薬の定期購入)を勧められ、数十万円の契約をしているケースが多くみられるが、オンライン診療の結果、医師の判断で薬の処方の当否や薬の種類、数量が決められ処方されている。
 このように診療の過程で、医師が判断し処方をした薬についての購入の申込みを行っている場合、パソコンなどの画面に表示する手続にしたがって消費者が契約の申込みを行うといえないのであれば、「特定申込み」に該当しないため、定期購入と同様の仕組みであっても、特定商取引法にもとづく取消しができない。
 また、中途解約に一定の条件がついている場合であっても、その説明が不十分で、消費者が理解していない事例がみられる。
 また、契約期間中に副作用が出た、期待したほどの効果がないなどを理由に解約を申し出るケースもあるが、たとえば脂肪の減少を効能としない薬の処方など、原則として同法の特定継続的役務提供(いわゆる美容医療)に該当しないと解される場合については、消費者から一方的に中途解約することは難しいと考えられる。

(3) 運営事業者と医師の責任の所在がわかりにくい
 消費者が、オンライン診療サイトを運営する事業者を通じて予約したうえで受診し、医師が処方を行っている場合、運営事業者の約款では「オンライン診療や医薬品の処方は医師が行うものであり、運営事業者は責任を負わない」旨が明記されているケースが多く見受けられるが、消費者に送付される処方薬の発送主には運営事業者名が記載されているなど、運営事業者と医師の責任の所在が分かりにくくなっているケースがある。
 そのため、診察や処方薬などにかかる説明は誰が行うのか、誰が処方薬の販売者なのか、トラブルが生じた際、誰がどういった責任を負い、どこに問い合わせればいいのかなどについて、消費者にとって分かりにくくなっている。

消費者は何に注意すれば良いか?

 同センターでは以上をふまえて、消費者へのアドバイスとして、次の4点を挙げている――。

(1) 痩身目的などのオンライン診療を受診するときは、処方薬も含めて医師からしっかり説明を受けましょう
 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、医学的な必要性にもとづかない体重減少目的に使用されうる糖尿病治療薬の処方など、不適正使用が疑われるような場合に処方することは不適切とされている。
 痩身目的などのオンライン診療を受診するときは、治療内容や処方薬、副作用などのリスク、万が一のときの対応などに関して、医師からしっかり説明を受けましょう。
 持病があり、通院や服薬をしている人は、主治医に相談するなど、とくに慎重に検討することが大切です。
 治療内容の詳細や副作用などのリスクについては、受診前に専門医の学会などが提供する情報や公的機関の注意喚起情報、日本全国に設置されている医療安全支援センターなどの情報を確認しておくようにしましょう。

(2) 糖尿病治療薬は痩身目的の使用に関して安全性と有効性は確認されていません
 メディカルダイエットなどと称して、糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬)が痩身目的で使われていることがありますが、これらの薬は、2型糖尿病の治療を目的として承認されています。
 これらの薬に関する美容・痩身・ダイエットなどを目的とする不適正使用については、安全性と有効性は確認されていません。
 処方された薬は何か、どのような副作用があるか、どのように管理されて消費者の手元に届くのかなどの説明を求め、慎重に検討しましょう。
 なお、関係する学会などからGLP-1受容体作動薬などの適正使用に関する注意喚起がなされています。

(3) 解約条件などについて申し込み前によく確認しましょう
 痩身目的などのオンライン診療の受診後に処方薬を購入する場合、定期購入になっているケースが多くみられます。
 解約できる場合でも条件が付されていることが多いため、申し込み前によく確認しましょう。また、問い合わせ先がわからないとの相談も目立つため、解約の申し入れ先や副作用が出た場合の連絡先などについても確認しておきましょう。

(4) トラブルにあった場合は、消費生活センターなどに相談しましょう
 契約に不安を感じたり、解約時にトラブルになったりした場合には、1人で悩まず最寄りの消費生活センターなどに相談しましょう。もし副作用などの症状が出た場合には、速やかに医療機関を直接受診してください。

痩身などを目的とするオンライン診療の具体的な相談内容は

 同センターは、痩身などを目的とするオンライン診療についての具体的な相談事例として、下記を挙げている――。

【事例1】オンライン診療で処方されたダイエット治療薬が糖尿病治療薬だった
 ネット通販でダイエットサプリを購入しようと思っていたときにオンライン診療を知った。医師の処方であれば安心だと思い、オンライン診療を受け、2種類の薬を処方された。支払いはコンビニ決済を選んだ。
 処方された薬を調べると、糖尿病治療薬で副作用があることがわかった。自分には糖尿病歴がないため、不安になり、処方薬が届く前に解約の申し出をしたが、「1回目はキャンセルできない」と言われ、後日、薬が届いた。副作用の説明は受けておらず、1ヵ月分で2万円を超え高額なので返品したい。
(2023年5月受付 40歳代女性)

【事例2】基礎疾患の問診が不十分なまま、処方薬を強く勧められた
 ダイエットをしたいと思っていたところ、SNSにダイエットのオンライン診療の広告が出てきた。オンライン診療サイトをみたところ、オンライン診療を受ければダイエット薬を自宅に届けるという内容だった。
 診療予約はネットで行い、氏名、電話番号、生年月日、身長、体重、最近の入院歴を聞かれた。昨年、病気を患い、入院して治療したが、最近ではなかったので入院歴は入力しなかった。
 その後、申し込み完了メールが届き、医師の名前が記載されていた。予約日時にオンラインで受診し、医師から3種類の薬の説明があった。
別の薬を希望したが、医師は「飲んだ70%の人に効果がある。認められている薬」と何度も言い、糖尿病治療薬を強く勧められた。既往症や飲んでいる薬は聞かれなかった。
 3ヵ月分8万円のコースを選び、後刻、支払いの手続きをした。昨年入院しており、現在も治療中なので、主治医にオンライン診療で処方された薬のことを相談したら「来年4月まではやめてほしい」と止められた。
 そこでオンライン診療サイトに連絡してキャンセルを申し出たが、「キャンセルはできない」と言われた。主治医の指導なのにキャンセルできないのか。
(2022年11月受付 50歳代女性)

【事例3】他の薬との飲み合わせや副作用の説明がなく、キャンセルもできない
 低血圧、低血糖、精神的な疾患で通院、投薬を受けている。薬の副作用で体重が増えたことに悩んでいたところ、SNSでみつけた痩身の広告をみて興味をもち、オンライン診療を受診した。
 薬で痩せるというもので3種類あると言われた。他の薬との飲み合わせや副作用について尋ねたが「分からない」と言われた。その場で保留もできずに3ヵ月コース(約8万円)を申し込んだ。
 そのときは定期購入とは聞いてなかったが、後になって知った。また、糖尿病の薬と知り、低血糖の自分が飲んだらいけないのではないかと不安になった。知人の看護師に相談すると「飲まないほうが良い」と言われた。
 解約を申し出ようとしたが電話がつながらず、メールで申し出たところ「処方後のキャンセルはできません」との返信があった。
(2023年3月受付 30歳代女性)

【事例4】基礎疾患の問診がなく、処方された薬で副作用が出た
 精神疾患が原因で過食となり体重が増加したため、食欲を抑える方法をネットで検索したところ、オンライン診療でダイエット薬を処方するサイトを知った。WEB会議システムで担当者から説明を受けた後、提携する医療機関の医師につないでもらい、食欲を抑える薬を処方してもらった。
 医師から「効果を得るためには半年程、継続して服用してもらいたいが、半年分をまとめて送るので返品はできない」と言われ了承した。
 診察が終了すると再度担当者に切り替わり、処方薬の返品はできないことや支払い方法などの説明を受けた。6ヵ月コースは初月無料で、毎月約3万円だった。
 後日、処方薬が届き、1ヵ月ほど服用したが、頭痛・吐き気・めまいなどの副作用が現れたため、解約したいと思った。メールで「クーリング・オフをしたい」と送信したが、「医薬品はクーリング・オフできない。診療時にも中途解約不可と説明をしている。副作用については再度オンライン診療を受けてはどうか」と言われた。納得できない。
 精神疾患は通院中で薬も服用しているが、オンライン診療では基礎疾患などの聴き取りはなかったため、精神疾患のことは話していない。
(2023年1月受付 40歳代女性)

【事例5】処方薬が意図せず定期購入になっていた
 3ヵ月前、オンライン診療を予約した。診療時、医師に肝斑があると相談すると「通常より1種類、薬を増やしましょう」と言われ、ビタミン剤を含む4種類の薬が処方されることになった。1ヵ月分の薬の処方を希望すると「3ヵ月分からしか処方できない」と言われ了解した。「定期コースにすると安くなる」と勧められたが、「まずはお試しをしたいので高額でも定期購入は契約しない」と伝えた。
 後日、薬が届き、コンビニから約3万円を支払った。ところがその後、薬を発送する旨のメールが届き、はじめて定期購入になっていることを知った。問い合わせ窓口に架電し、「定期購入は契約していないので新たに届く薬は返品したい」と申し出ると、「返品できないので支払ってください。3回目は解約しておきます」と言われた。高額で支払いたくない。
(2023年8月受付 50歳代女性)

【事例6】オンライン診療サイトの運営事業者と医師(クリニック)の役割が判然としない
 スマートフォンの広告で知ったサイトを通じて、医師のオンライン診療を受け、ダイエット薬を処方してもらった。当初、痩せる注射を希望していたが、サイトに問い合わせたところ「飲み薬のみ扱っている」と言われ、飲み薬についてよく知らなかったので医師の話を聞いてみようと思った。
 予約を入れてオンライン会議システムで受診した。副作用の話もあったが、画面越しでも実際に話してみると断り切れず、後でクーリング・オフすればいいと思い、食べ過ぎを防止するという6ヵ月のコースと炭水化物をカットするというコースをセットにして、毎月2万数千円程度を支払う契約をした。
 クーリング・オフを申し出ようとしたが、オンライン診療サイトには電話番号の記載がなかった。当該サイトにメールしたところ、「当社はプラットフォーマーのため、解約には対応できない」との返信が来た。医師に連絡したいが、連絡先がわからない。今後どうしたらよいか。
(2023年8月受付 50歳代女性)

痩身目的等のオンライン診療トラブル-ダイエット目的で数か月分の糖尿病治療薬が処方される「定期購入トラブル」が目立ちます- (国民生活センター 2023年12月20日)
GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解 (日本糖尿病学会 2023年11月28日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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