糖尿病患者の「足の動脈硬化」(LEAD:下肢動脈疾患)を調査 「LEAD・フレイル研究」を開始 日本フットケア・足病医学会など

2023.11.30
 日本フットケア・足病医学会と医療法人社団 恵智会は、「足の動脈硬化」(LEAD:下肢動脈疾患)と「フレイル」の関連や、重症化のリスク因子を調査・研究する「LEAD・フレイル研究」を開始した。

 同研究は、ABI正常未満のLEADとフレイルについて、身体機能低下への影響や関連などを調査する5年間の観察研究で、640人の患者に、2日間もしくは3日間に分けて、血流や筋肉、歩行、身体機能に関する測定を、5年にわたって受けてもらうもの。

 「足病変治療に携わるなかで"もう少し早く見つけて、治療ができていれば"と患者さんの歩行を守りきれなかった経験を持つ方もいらっしゃるかもしれません。LEAD・フレイル研究班は、そうした思いや経験をもつ医師らが集まり、下肢虚血と身体機能の低下の関連について研究をはじめています」としている。

LAED・フレイル研究に関する医療者向けHP

"歩ける足を残す" 下肢虚血とフレイルの研究の患者さん紹介にご協力ください

日本人のLEADとフレイルの関連や重症化リスク因子を調査
5年にわたり歩行・身体機能の経過を追跡

 日本フットケア・足病医学会と医療法人社団恵智会は、「足の動脈硬化」(LEAD:下肢動脈疾患)と「フレイル」の関連や、重症化のリスク因子を調査・研究するため、5年にわたり歩行・身体機能の経過を追う「LEAD・フレイル研究」を開始した。

 研究の目的は、「日本人でABI値異常を呈する症例のフレイル発症率および身体機能低下への影響やLEADの重症化へ及ぼす影響を探索すること」。研究期間は、2023年4月1日~2029年3月31日。

 研究は、世界でも類を見ない検査数を実施するだけでなく、足の動脈硬化の無症状や軽症者とフレイルの関連を前向き観察研究で調べる、日本初の取り組みになるとしている。

 「LEAD・フレイル研究」について、同学会では、次のように述べている。

 足の動脈硬化が重症化すると足壊死・切断を起こし、生存率は悪性腫瘍より低いとも言われています。しかも、無症状で経過する方が多く、特に歩行機会が少ない方は症状に気が付かぬうちに最重症に至るケースも存在します。近年、欧米では無症候や軽度の足の動脈硬化の方でもフレイルリスクが高いという報告もあり、兆候を見つけることで早期発見に繋げ、予防をしていくことが大切です。

LEADを有する糖尿病患者は創傷治癒後の歩行維持率が低下

 日本フットケア・足病医学会などは、11月14日の「世界糖尿病デー」に合わせて、「LEAD」や「LEAD・フレイル研究」に関するプレスセミナーを開催した。

寺師浩人 先生(日本フットケア・足病医学会 理事長、神戸大学大学院医学研究科形成外科学 教授)

 高齢者人口の増加のほか、糖尿病やその疑いのある人や、透析患者といった、LEAD(下肢動脈疾患)発症のリスクが高い疾患をもつ患者も増加中であると言われています。そして現在、LEAD患者は約400万人(そのうち症状がある方が約100万人)と推定されており、先の疾患と同様に患者数が増加すると推測されています。

 これまで、糖尿病やLEADの重症化による足の創傷治療には入院治療が中心でしたが、近年、病床数が削減傾向にある背景からも、外来治療に移行しつつあり、自力歩行(杖歩行を含む自身の力で歩くこと)ができることの重要性が増しています。

 自力歩行を維持するためには、創傷治療において極力下肢を温存することが大切です。重症下肢虚血患者切断部位別の術後ADL変化に関する研究データをみると、足趾や足の長さが1/3までの場合、高い歩行維持率であるのに対し、下腿切断では33%、大腿切断では0%となり歩行維持が困難になることを示されています。

 さらに、糖尿病を患っていても、LEADがなければ創傷治癒後に歩行することが可能である一方で、LEADを有する糖尿病患者は、創傷治癒後の歩行維持率が低下します。LEADが歩行を奪う注視すべき疾患です。

 寺師先生は、自身が診る患者の1/4は初診時にすでに歩行を失っているという経験から、「無症候性LEADの患者は歩行能力の低下に気づいていない可能性があること、LEADの初期段階ではすでにサルコペニアやプレフレイルが始まっているのではないか」と指摘している。

医療法人社団恵智会が公開しているビデオ

足の動脈硬化(下肢動脈疾患:LEAD)

足の動脈硬化と身体機能を研究する目的

ABI値異常の患者のフレイルの発症率と身体機能低下を調査
無症候性LEADや間欠性跛行患者も対象

東 信良 先生(LEAD・フレイル研究ワーキンググループ 研究代表者、旭川医科大学 外科学講座 血管・呼吸・腫瘍 病態外科学分野 教授)

 全身の動脈はいずれも動脈硬化に陥る可能性があり、脚に起こる動脈硬化を下肢動脈疾患=LEAD(lower extremity arterial disease)と呼びます。LEAD発症の危険因子には、高齢、糖尿病、高血圧、腎機能障害などが挙げられ、国内の発症率は70歳以上で2〜5%にとどまるものの、65歳以上の糖尿病患者では12.7%に上ります。

 LEADは「Ⅰ:無症状」「II:間歇性跛行」「III:安静時疼痛」「IV:足の潰瘍・壊死」の4つのステージに分類され、症状によって治療が決定されますが、ⅠとIIでは基礎疾患の治療(背景リスクの管理)がとくに勧められ、III、IVは血行再建が適応になります。

 LEADの課題となるのは、無症候性LEAD患者の中には、足部の血流が著しく低下しているのに自覚症状がない「潜在的下肢重症虚血」という患者群がいるが、重症化予防の手立てがないこと、さらに、ステージIII・IVで血行再建が適応になったとしても、術後に歩行能力が回復できない場合、生命予後への影響が大きいという点です。そして近年、LEADの診断基準のひとつであるABI検査値の異常(0.90以下)だけでなく、境界型についても歩行障害発生のリスクがあると報告されています。

 無症候性LEADについては研究が進んでおらず、無症状のなかでもどんな患者さんが潜在的下肢重症虚血になるのか、どのような医療的介入によって重症化予防ができるのかなど、解明されていないことが多いと言えます。

 また、血行再建後の生命予後への影響については、筋肉量が関連していると考えられることから、フレイルを予防することでLEADの重症化予防に貢献できるのではないか、あるいはフレイル予防が予後改善に期待できるのではないかと考えられます。

 LEAD・フレイル研究では、無症候性LEADや間欠性跛行患者を対象にすることで、これまで基礎疾患の治療(背景リスクの管理)が中心だったフェーズに対し、新たな予防・治療の可能性を見出すほか、重症化を辿る患者像への理解が深まるデータを蓄積できる可能性があります。

 東先生は「歩いて健康寿命を維持することを国民と共有するため、LEAD・フレイル研究が貴重なデータソースになることを期待しています」と今後の展望を述べた。

「LEAD・フレイル研究」の概要

河辺信秀 先生(LEAD・フレイル研究ワーキンググループ 研究分担者、東都大学 幕張ヒューマンケア学部 理学療法 学科 教授)
百崎 眞 事務局長 (医療法人社団 恵智会)

 研究参加希望者316人に対しABI測定を行った結果、正常値が88%、境界型が5.7%、異常値が5.7%であり、疫学データと類似した結果を得ています(集計期間2023年4月~10月末)。

 また、LEAD危険因子の割合は、境界型の方では、喫煙歴(28%)、糖尿病(17%)、高血圧(44%)、脂質異常症(50%)であり、異常値の方では、喫煙歴(50%)、糖尿病(67%)、高血圧(83%)、脂質異常症(44%)であったことから、あらためて生活習慣病や喫煙歴のある方にLEADについて警鐘を鳴らすとともに、LEADとフレイルの実態解明のため、1人でも多くの方に研究参加いただきたい。

LAED・フレイル研究に関する医療者向けHP

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一般社団法人 日本フットケア・足病医学会

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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