【新型コロナ】1日2回の鼻洗浄でコロナ重症化・死亡を減らせる可能性 前向き臨床試験を実施

2022.10.04
 新型コロナに感染した人が、薄い生理食塩水で鼻洗浄を1日2回行うと、入院と死亡のリスクを大幅に減少できる可能性のあることが、米国のオーガスタ大学の新たな研究で示された。

 やり方は、ドラッグストアなどで売られている精製水、もしくは沸騰してから冷ました水1カップに、小さじ半分の塩と重曹を混ぜて、鼻腔洗浄用ボトルに入れて、鼻腔を洗い流すというもの。

 この方法であれば、家庭でも簡単に実施でき、安価で安全だ。しかも、新型コロナのリスクを低減するのに効果的としている。

新型コロナ陽性患者が24時間以内に1日に2回の鼻洗浄を実施

 「体内にいるウイルスが多ければ多いほど、汚染のリスクは大きくなります。緊急治療室や手術室などでまず行われることは、希釈し洗い流すことで、汚染のリスクを減らすことです」と、オーガスタ大学ジョージア医学部の救急医であるエイミー バクスター氏は言う。

 「汚染物質を洗い流すほど、ウイルスや汚れなどを取り除くことができます。副鼻腔内に適度な水分を与えることで、その機能の向上もはかれます」としている。

 「体内にいるウイルスが多ければ多いほど、汚染の可能性も大きくなります。私たちは、新型コロナ検査で陽性の判定が出てから24時間以内に、鼻腔洗浄によりウイルスの一部を洗い流すことで、重症化リスクを下げられるかもしれないと考えました」と、同医学部救急医療部のリチャード シュワルツ部長は言う。

 そこで研究グループは、2020年9月24日~12月24日に実施された新型コロナのPCR検査で、陽性が判明してから24時間以内に登録された、55歳以上のリスクの高い患者79人を対象に臨床試験を実施した。

 対象者を、14日にわたり1日に2回、消毒薬のポビドンヨード、または重曹(炭酸水素ナトリウム)のいずれかを混合した、240ccの生理食塩水で鼻洗浄を行う群にランダムに割り付けた。対象者の平均年齢は64歳で、女性が46%だった。

 さらに、米疾病対策センター(CDC)が公表しているデータで確認された、同期間内に新型コロナの陽性が示された50歳以上の人(対照群)と比較した。

鼻洗浄を行った群は入院と死亡が8.5分の1に減少

 その結果、入院治療を要した対象者は、ポビドンヨード群で1人、重曹群で0人であり(1.27%)、死者はいなかった。

 これに対して、米国疾病管理予防センター(CDC)によって報告された人口統計によると、新型コロナの拡大がはじまってから約9ヵ月後の同じ期間に、新型コロナ患者の9.47%が入院し、入院に関するデータが不明な人のうち1.5%が死亡している。

 「鼻洗浄を行った群は、対照群に比べ、入院と死亡が8.5分の1に減少し、死亡数はゼロであることが示されました。さらに、生理食塩水による洗浄で症状の程度も抑えられるようで、1日2回の洗浄をきちんと実施していた患者では症状の消失も早かったのです」と、シュワルツ部長は述べている。

 このように、新型コロナの陽性の診断が出てから、24時間以内に鼻洗浄によりウイルスの一部を洗い流すことで、新型コロナウイルスが肺に入り多くの致命的な損傷をもたらすリスクを減らせ、感染経路全体の重症度を下げられる可能性が示唆された。

 さらに、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質は、細胞表面のACE2受容体に結合して細胞内に侵入することが明らかにされているが、研究グループによると、生理食塩水による鼻洗浄は、新型コロナウイルスのACE2受容体への強固な結合を減弱させるのに役立つ効果も期待できるという。

 なお過去の研究では、ウイルスがACE2受容体に付着しにくくするために添加物が役立つ可能性が報告されているが、今回の研究では、添加物は実際には付加価値をもたらさず、生理食塩水だけで十分であることが示唆された。十分な量の生理食塩水によりすすぎを行うことで、効果をえられると考えられる。

鼻洗浄により世界の新型コロナの罹患率と死亡率を減少できる可能性

 「新型コロナによる入院患者と死亡患者を、2021年11月の時点で11%から1.3%に減少できたことは、米国で入院を要した高齢米国人の絶対数を100万人以上減少することに相当します」と、シュワルツ部長は言う。

 今回の研究は、同種の前向き臨床試験としては最大規模であり、対象となった集団は、高齢で糖尿病や高血圧、肥満などの基礎疾患をもち、リスクが高かったとしている。簡単で安価ですぐに実践できる方法で恩恵を受けられる可能性があることを示した意義は大きいとしている。

 「世界中で新型コロナの罹患率と死亡率を大幅に減少できる可能性があります。この知見を他の研究でも裏付ける必要があります」としている。

 バクスター氏は、鼻洗浄は東南アジアで数千年も前から行われており、ラオス、ベトナム、タイなどの国で、新型コロナによる死亡率が低いことを指摘している。

 歯を磨くのと同じように、鼻洗浄を衛生行動の一部として日常で実施している国では、鼻づまり、後鼻漏、副鼻腔の痛みや頭痛が少なく、味覚と嗅覚、季節性アレルギー、睡眠の質も改善されている傾向があるという報告がある。

 2020年9月に発表された研究では、生理食塩水をベースにうがいをすると、新型コロナウイルスの量を減らせ、2021年に発表された別の研究では、生理食塩水が他のコロナウイルスの感染に関連する風邪の症状を軽減するために有用である可能性が、それぞれ指摘されているとしている。

Twice-daily nasal irrigation reduces COVID-related illness, death (オーガスタ大学 2022年9月13日)
Rapid initiation of nasal saline irrigation to reduce severity in high-risk COVID+ outpatients (Ear, Nose & Throat Journal 2022年8月25日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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