肥満2型糖尿病で「外科治療」と「薬物治療」を比較 血糖改善と医療経済面で外科治療が有利
肥満2型糖尿病に対する外科治療の実施は海外では多い
現在、2型糖尿病治療では、生活習慣の改善に加え薬物治療が広く行われており、これらは内科的アプローチだ。しかし、患者によっては生活習慣改善や薬物療法の順守が困難であったり、薬剤費が長期にわたるなど、治療目標の達成が困難な場合もみられる。
一方、肥満をともなう2型糖尿病に対する治療法として、外科治療(腹腔鏡下減量・代謝改善手術)が欧米を中心に広く行われている。日本でも年間800例程度行われているが、現状では保険診療の適応基準が制限されていることもあり、外科治療を受けられる肥満2型糖尿病患者は限定的だ。
肥満症に対する外科治療は、胃の容量を小さくしたり、小腸の一部に物が通らないようにバイパスすることで、食事摂取量や消化吸収を減らし体重減少を得ようという治療がある。
日本では、2014年にBMI 35以上の高度肥満症患者で保険適用となり、2020年にBMI 32.5以上で血糖コントロール不良の糖尿病患者までに保険適用の対象が拡大された。
外科治療は血糖改善効果・医療経済面で優れているという結果に
そこで、日本の軽度肥満をともなう2型糖尿病患者を対象に、外科治療と薬物療法の効果を比較検討する研究が実施された。
研究は、ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーのエチコン事業部から、四谷メディカルキューブ(黒川良望院長)への研究業務委託を通じて行われたもの。研究成果は、アジア糖尿病学会の機関誌である「Journal of Diabetes Investigation」に掲載された。
今回の研究での外科治療の定義は、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術もしくは腹腔鏡下スリーブバイパス術。また、薬物治療の定義は、2型糖尿病治療薬の処方となっている。
対象となったのは、軽度肥満(BMI 27.5~34.9)をともなう2型糖尿病患者。四谷メディカルキューブの患者データから手術群を、JMDCの日本の保険者データベースから薬物治療群を抽出し、傾向スコアマッチングを用いてレトロスペクティブに治療効果(治療後1年目)を比較した。
その結果、治療後1年目の糖尿病寛解(糖尿病治療薬を使用せずにHbA1c 6.5%未満となった状態)率は、手術群で59%、薬物治療群で0.4%(p<0.0001)だった。
また、治療後1年目に至適血糖コントロール(HbA1c7.0%未満)が達成されたのは、手術群で75.6%、薬物治療群で29.0%(P<0.0001)だった。
治療前と治療後1年目の2型糖尿病治療薬、降圧剤、脂質異常治療薬の月間薬剤費(中央値)の変化を見ると、手術群は1万2,650円から0円に減少し、薬物治療群では5,240円から5,830円に増加した。
このように、軽度肥満をともなう2型糖尿病患者に対する外科治療(減量・代謝改善手術)は、薬物治療と比べて血糖改善効果と医療経済効果の両面で優れていることがはじめて示唆された。
今後の保険適用拡大に期待
「軽度肥満(BMI 27.5~34.9)の2型糖尿病患者を対象とした同研究で、薬物治療と比較して、外科治療の有用性が、血糖改善効果のみならず医療経済面でも優れていることが示唆されました。近年、腹腔鏡下減量・代謝改善手術は2型糖尿病治療を主目的とする効果的な治療法(メタボリックサージェリー)として注目されていますが、保険上の手術適応要件はいまだ厳しく、外科治療の恩恵にあずかれない患者さんが多くいらっしゃいます。今後のさらなる保険適用拡大が期待されます」と、今回の研究の研究責任者となった四谷メディカルキューブの関洋介氏はコメントしている。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、肥満・糖尿病の分野で研究をサポートしており、2017年11月に、2型糖尿病患者に対する外科治療の有用性を示した結果を発表した。また、2021年7月には、肥満・糖尿外科手術の増加が新型コロナウイルス感染による死亡や入院を減少させる可能性が示唆され、最終的に肥満の臨床的および経済的負担を減少させることが期待されるという英国での研究結果を発表した。
STAMPEDE, a study that confirms that metabolic surgery provides long-term control of T2 Diabetes in patients with a Body Mass Index of 27-43 kg/m2(Johnson & Johnson 2017年11月15日)
Cost-effectiveness of bariatric and metabolic surgery, and implications of COVID-19 in the United Kingdom(Surgery for Obesity and Related Diseases 2021年7月27日) 今回の研究で、同社と四谷メディカルキューブの研究業務委託契約に基づき、以下の役割を実施した。
四谷メディカルキューブ:プロトコルレビュー、プロトコル審査(倫理審査委員会)、手術患者データの提供、論文原稿作成とレビュー、論文投稿
同社:プロトコル原案作成、プロトコル審査、薬物治療群のデータ提供(株式会社JMDC協力)、手術患者データと薬物治療患者データの統計解析、論文原稿作成とレビュー
研究詳細
Index date |
手術群:腹腔鏡下スリーブ状胃切除術もしくは腹腔鏡下スリーブバイパス術が行われた日 薬物治療群:2型糖尿病治療薬の初回投与後HbA1c以上6.5%の状態にあった6ヵ月以内の日(2008年1月~2019年6月) |
対象者の適格基準 |
・ HbA1c6.5%以上(index dateまたはそれ以前) ・ BMIが27.5以上、35未満(index dateに最も近い日) ・ 年齢が18~65歳(index date) ・ index date 前6ヵ月以内、あるいは36ヵ月以内に所定の疾患イベントなどがある者は除外された |
対象者 |
手術群:四谷メディカルキューブの電子カルテから、2008年1月から2019年6月までに腹腔鏡下スリーブ胃切除術もしくは腹腔鏡下スリーブバイパス術を受け、2型糖尿病治療のために医師の治療を6ヵ月以上受けた119人 薬物治療群:JMDCの日本の保険者データベース*から、2008年1月から2019年6月までの年次健康診断で、直近の2型糖尿病診断から6ヵ月以上、2型糖尿病治療薬の処方を受けた1万117人 *日本の複数の健康保険組合のレセプト(入院、外来、調剤)と検診データを蓄積した疫学的なレセプトデータベース。
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統計解析 |
傾向スコアマッチングを用いて、年齢、性別、BMI、HbA1c、2型糖尿病罹患期間、index年で手術群:薬物治療群を最近傍法にて1:4でマッチング。 ロジスティック回帰を用いて、年齢、BMI、index dateのHbA1c、2型糖尿病罹患期間、index dateのインスリン使用量を調整した上で、治療後1年目での糖尿病寛解率を手術群と薬物治療群で比較。 メタボリックシンドローム(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症)の治療に要した薬剤費は、同じ共変量を調整しながら、一般化線形モデルでモデル化。 |
【各群の特性】 |
手術群、薬物治療群ともに、性別のバランスはよく、平均年齢にも大きな差はなかった。 手術群:患者数78人、平均年齢47.9±9.6歳。術前の平均BMIは32.1±1.8kg/m2、HbA1cは7.9±1.1%。診断からの2型糖尿病の平均罹患期間は、46人(59.0%)が8年未満、32人(41.0%)が8年以上。 |