ビフィズス菌に軽度認知障害と脳萎縮進行の抑制効果 MCI患者の見当識などの症状が改善

2022.06.15
 順天堂大学は、ビフィズス菌の摂取による、軽度認知障害(MCI)患者の認知機能改善、および脳萎縮進行の抑制効果を確認したと発表した。

 軽度認知障害患者に対し、ビフィズス菌摂取(MCC1274)介入のランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施。ビフィズス菌を摂取した群では、認知機能のうち見当識などの症状が改善し、MRI画像解析による脳萎縮進行の抑制も確認した。

 また、介入前の認知機能スコアを高低別に腸内フローラを比べたところ、認知機能がより低い患者群でビフィズス菌(Bifidobacterium)の占有率が低いことも判明した。

 この成果は、ビフィズス菌といったプロバイオティクス介入による認知機能の改善・脳萎縮の進行予防の可能性を示すものだとしている。研究グループは、「今後は、腸の環境と脳機能との関連性について、実地医療の視点で確認していきたい」としている。

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科ジェロントロジー研究センターの浅岡大介准教授、大草敏史特任教授、佐藤信紘特任教授らによるもの。研究成果は、「Journal of Alzheimer’s Disease」にオンライン掲載された。

日常で実践できる軽度認知障害と認知症の発症予防

 認知症の前段階である軽度認知障害の患者は、現在国内では約400万人いるとされ、世界的には国によって65歳以上の人口の7~42%が軽度認知障害の状態であると推計されている。さらに、軽度認知障害患者のうち、年間10~30%が認知症に移行するとされている。

 軽度認知障害や認知症に対する有効な治療法がないため、発症予防に注目が集まっており、とくに日常生活の中で実践できる有効な対策が求められている。

 一方で、さまざまな全身的な疾患と「腸内フローラの異常(dysbiosis)」との関連が報告され、腸内フローラの制御を介した健康維持への期待が高まっている。順天堂大学でも2002年に、消化器内科が中心となって、腸内細菌と中枢神経系との相関関係、いわゆる脳腸相関に関する学会を世界に先駆けて日本で立ち上げた。

ビフィズス菌の摂取により見当識が有意に改善

 研究グループは今回の研究で、東京都江東区の高齢者医療の拠点である、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターをフィールドとして、軽度認知障害の患者130人を対象とする、プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した。ビフィズス菌摂取による認知機能、MRI画像診断における脳萎縮度および腸内細菌叢への影響を確認した。

 プロバイオティクス試験食品の摂取については、対象者をランダムに2群に分け、ビフィズス菌を200億個含む粉末(スティック)、またはプラセボ粉末(スティック)を1日1スティック、それぞれ24週間摂取してもらい、認知機能検査(ADAS-Jcog・MMSE)を摂取前、8週間後、16週間後、24週間後の4回実施し、脳萎縮度(頭部MRI(VSRAD))と腸内細菌叢解析(糞便採取)の評価を摂取前と24週間後の2回実施した。

 その結果、ADAS-Jcogによる認知機能検査では、ビフィズス菌の摂取により、プラセボ摂取群と比較して「見当識」と呼ばれる評価項目が、有意に改善されていることが明らかになった。

 見当識は、日付や現在の時刻、場所や周囲の状況、人物の把握などを総合的に判断し、自身が現在おかれている状況を把握し理解する能力のこと。見当識障害は、認知症の症状の1つでもあり、アルツハイマー型認知症の場合、物忘れの次に起こしやすい障害とされている。

 さらに、別の認知機能検査(MMSE)では、認知機能が低い(MMSE<25)サブグループで「時間の見当識」「文章書字」の項目が有意に改善していることが示された。

ビフィズス菌を摂取した群では「見当識」が改善した

認知機能が低い(MMSE<25)サブグループでも「時間の見当識」「文章書字」が改善

出典:順天堂大学、2022年

ビフィズス菌摂取群で脳萎縮の進行が抑制

 認知障害と関連がある脳萎縮の状態を確認するツールとして、大脳萎縮の評価に有用とされているVBM解析手段のなかから、研究では日本で広く使われているプログラム「VSRAD(ブイエスラド)」を用いて脳の萎縮の状態を検証した。ビフィズス菌の摂取前と摂取24週間後に、頭部MRI検査を実施し、脳萎縮の状態を評価した。

 「VSRAD」は、MR装置で得られた脳画像情報をコンピュータ処理して診断支援情報を提供するもので、被検者のDICOM画像を入力することで、簡単な操作で健常者との萎縮の度合いを解析することができる。

 その結果、摂取前後の変動値比較では、全脳委縮領域の割合の変動で脳萎縮の進行度合いに両群間で有意差(P=0.0134)が確認され、プラセボ群に比べ、ビフィズス菌摂取群では、脳萎縮の進行が抑制されていた。

 さらに、MMSEで認知機能が低い群(MMSE<25)と高い群(MMSE≧25)とでのサブグループ解析を行った結果、認知機能が低い群で、ビフィズス菌の占有率が低いことが確認された。

ビフィズス菌摂取群では、脳萎縮の進行が抑制された
摂取前後の変動値比較で、全脳委縮領域の割合の変動で、脳萎縮の進行度合いに両群間で有意差(P=0.0134)が確認された。ビフィズス菌摂取群では、プラセボ群に比べ、脳萎縮の進行が抑制された。

認知機能が高い群でビフィズス菌の占有率が高いことが判明した

出典:順天堂大学、2022年

プロバイオティクスによる神経疾患と腸内環境の関連性を検証

 ビフィズス菌は、加齢とともに著しく減少することが知られている。今回、そのビフィズス菌の摂取により軽度認知障害(MCI)患者の認知機能が改善することが確認された。

 研究グループではこの成果を得て、「今後は、腸の環境と脳機能との関連性について、実地医療の視点で確認していきたいと考えています。たとえば、認知機能の低下をまねく疾患への、プロバイオティクスの効果や神経疾患と腸内環境の関連性や、プロバイオティクスの作用・効果などについての検証を開始していきたいと考えております」と述べている。

 「その検証により、今まで治療が難しかった領域について、腸内環境ならびに脳と腸との連関に注目することで、新たな光が見えてくる可能性が考えられます」としている。

 順天堂大学では、高齢者医療を重要視しており、外来に専門の窓口(長寿いきいきサポート外来)を設置し、対策を早期に行うことにより、フレイル・ロコモ・認知症対策および寝たきり・要介護予防に取り組んでいる。2021年には、ジェロントロジー研究センターを本学に設立し、健康寿命延伸の対策拠点として稼働を始めている。

 「近年、腸内細菌が健康と密接に連関していることが明らかになっており、腸内細菌を含めた腸と脳が機能連関することを意味する“脳腸相関”が注目されていますが、本学では新しい考え方とされる“脳腸相関”についての臨床的社会実装化に取り組んでいます」。

 「今後、認知障害やうつ病などの増加する神経精神疾患に、如何に脳腸相関が関与するかなどについて、本学大学院に開設されたジェロントロジー研究センターおよび腸内フローラ研究講座にて、精力的に研究を推進していきたいと考えています」としている。

順天堂大学大学院医学研究科ジェロントロジー研究センター
Effect of probiotic Bifidobacterium breve in improving cognitive function and preventing brain atrophy in older patients with suspected mild cognitive impairment: Results of a 24-week randomized, double-blind, placebo-controlled trial (Journal of Alzheimer's Disease 2022年5月7日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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