日本人の2型糖尿病の罹患リスクを予測するモデルを開発 良好な判別力を確認 JPHC糖尿病研究

2023.09.05
 国立がん研究センターなどは、日本人を対象とした、5年間の2型糖尿病の罹患リスクを予測するモデルの開発と検証を行い、良好な判別力を確認したと公表した。

 この予測モデルを利用して、2型糖尿病の罹患リスクが高いと推定された人を対象に、早期発見のために定期的に健康診断を受診することを促し、食事や運動などの生活習慣の改善支援を行うなどの対策が可能になると期待している。

5年間の2型糖尿病の罹患確率を推定する予測モデルを開発

 研究は、国立がん研究センター、横浜市立大学、国立国際医療研究センター、国際医療福祉大学などによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」に掲載された。

 研究グループは、糖尿病の既往のない1万986人を対象に、5年間の2型糖尿病の罹患確率を推定する予測モデルを開発し、別の集団の1万1,345人のデータを用いて外部検証した。

 研究では、非侵襲性の予測因子(採血などの痛みや苦痛を伴う検査を要さずに取得できる情報、例えば性別や糖尿病の家族歴)と、侵襲性の予測因子(HbA1c値や空腹時血糖値の検査結果の情報)を用いて、5年間の糖尿病罹患リスクを予測するモデルを開発した。

 開発した3つのモデルを検証した結果、すべてのモデルは良好な判別力を示し、非侵襲性の予測因子にHbA1c値を追加したモデルでは較正能も比較的良好だった。

 予測モデルの開発には1990年代に開始された「JPHC Diabetes Study」を用い、検証は2013年から開始された「J-ECOHスタディ」で行った。

 これまで日本人を対象に、糖尿病罹患予測モデルが複数開発されているが、今回の研究のように日本国内の複数の地域住民を対象として開発されたものはなかった。

 開発した予測モデルは、地域や時期が異なっていても、今回の研究結果を適用できる可能性が比較的高いとしている。

HbA1c値を追加した予測モデルは較正能が十分と判断

 非侵襲性リスクモデルでは、▼性別、▼BMI(体格指数)、▼糖尿病の家族歴、▼拡張期血圧を予測因子として選択。作成したモデルの予測性能として、2型糖尿病を罹患する人としない人を見分けることのできる程度(判別能)をあらわすROC曲線下面積(1に近づくほど2型糖尿病への罹患を正確に予測できることを示す、AUC:Area Under the Receiver Operating Characteristic Curve)を計算した。

 「JPHC Diabetes Study」で、1998~1999年に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、2000~2001年に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾の10保健所(呼称は2019年現在)管内に在住していた46~75歳の男女のうち、1998~2000年度に実施された糖尿病調査に協力した糖尿病の既往のない1万986人(男性3,609人、女性7,377人)を対象に、5年間の2型糖尿病罹患の予測モデルを開発し、別の集団で外部検証した。

 その結果、非侵襲性リスクモデル(model 1)では、0.643であったのに対し、非侵襲性の予測因子にHbA1c値を追加したモデル(model 2)では0.786、HbA1c値と空腹時血糖値を加えたモデル(model 3)では0.845という結果になった。

 さらに、各モデルで計算された予測確率が、観測された2型糖尿病罹患リスクとどの程度一致するのか(較正能)を較正プロットにより評価したところ、すべてのモデルで比較的良好な結果が示された。

 次に、職域多施設研究「J-ECOHスタディ」に参加し、2013年に健康診断を受診した46歳~75歳の男女1万1,345人のデータを用いて、開発したモデルの外部検証を行った。

 その結果、model 1のROC曲線下面積は0.692、model 2は0.831で、model 3では0.874となった。予測確率が0.2未満の範囲では、HbA1c値を追加したmodel 2は予測確率と糖尿病リスクがおおむね一致し、較正能が十分と判断した。一方、model 1やmodel 3は実際に観測されたリスクより高く予測する傾向が示された。

HbA1c値を追加したmodel 2は予測確率と糖尿病リスクがおおむね一致
J-ECOHスタディのROC曲線

横軸は1-特異度、縦軸は感度

J-ECOHスタディの較正プロット
横軸は予測確率、縦軸は観測した罹患割合
出典:国立がん研究センター、2023年

2型糖尿病の罹患リスクが高い人に集中して生活指導を

 「本研究では、2型糖尿病のリスクを予測するために3つのモデルを開発しました。すべてのモデルは良好な判別力を示し、非侵襲性の予測因子にHbA1c値を追加したモデル(model 2)は較正能も比較的良好でした」と、研究グループでは述べている。

 これまで、日本人を対象として、糖尿病罹患予測モデルが複数開発されているが、今回の研究のように日本国内の複数の地域住民を対象として開発されたものはなかった。地域や時期が異なっていても、研究結果の適用可能性は比較的高いとしている。

 「このモデルを利用して、2型糖尿病の罹患リスクが高いと推定された人は、糖尿病のために適度な食事や運動の習慣を心がけることを促し、早期発見のために定期的に健康診断を受診することを促すなどの対策を行うことが可能となりますので、広く活用されることが期待されます」としている。

 今後、研究で開発した2型糖尿病のリスク予測モデルにより、自身のリスクを計算できるツールを公開する予定としている。

国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト
Development and validation of prediction models for the 5-year risk of type 2 diabetes in a Japanese population: Japan Public Health Center-based Prospective (JPHC) Diabetes Study (Journal of Epidemiology 2023年5月20日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

脂質異常症の食事療法のエビデンスと指導 高TG血症に対する治療介入を実践 見逃してはいけない家族性高コレステロール血症
SGLT2阻害薬を高齢者でどう使う 週1回インスリン製剤がもたらす変革 高齢1型糖尿病の治療 糖尿病治療と認知症予防 高齢者糖尿病のオンライン診療 高齢者糖尿病の支援サービス
GLP-1受容体作動薬の種類と使い分け インスリンの種類と使い方 糖尿病の経口薬で最低限注意するポイント 血糖推移をみる際のポイント~薬剤選択にどう生かすか~ 糖尿病関連デジタルデバイスの使い方 1型糖尿病の治療選択肢(インスリンポンプ・CGMなど) 二次性高血圧 低ナトリウム血症 妊娠中の甲状腺疾患 ステロイド薬の使い分け 下垂体機能検査
NAFLD/NASH 糖尿病と歯周病 肥満の外科治療-減量・代謝改善手術- 骨粗鬆症治療薬 脂質異常症の治療-コレステロール低下薬 がんと糖尿病 クッシング症候群 甲状腺結節 原発性アルドステロン症 FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症 褐色細胞腫

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料