45歳未満の肥満女性の乳がんは低リスク 日本の80万例を用いた医療ビッグデータ解析

2022.06.14
 東京大学が、国内の大規模医療データベースの45歳未満の女性約80万例のデータを用いて、日本の女性のBMIと乳がんとの関連を調査したところ、BMIが22以上であると乳がんにかかるリスクが低いことを明らかにした。

 欧米ではBMIが大きいと閉経前に乳がんにかかるリスクが低いことが知られており、今回の解析で、日本でも欧米と同様の関連があることがはじめて示された。

 肥満者の少ない日本では、BMI分布を考慮すると、40歳代の乳がん検診の意義はより大きいものと考えられる。BMIと乳がんリスクの関連は人種を問わない可能性があり、今回の研究は乳がん発生のしくみの解明に寄与することも期待される。

BMIが大きいと閉経前に乳がんにかかるリスクが低い

 乳がんは、現在日本では生涯で9人に1人の女性が罹病しており、増加傾向にある。乳がんの発生のしくみはいまだに不明だが、女性ホルモンへの曝露など複数のリスクが知られている。

 閉経後の女性では、脂肪細胞が主たる女性ホルモン産生の場であることから、人種・地域を問わず肥満が主なリスク因子であることが分かっている。

 しかし、閉経前の女性では、肥満の乳がんリスクに人種差・地域差がある可能性がある。欧米ではBMIが大きいと閉経前に乳がんにかかるリスクが低いとされる一方、日本を含む東アジアではその関連性が分かっておらず、むしろリスクの高い可能性が指摘されていた。

 その根拠とされた先行研究では、解析された人数が少なかったり、解析対象の年齢が高かったり、BMIを一定の値で区切ってひとまとめにしているなど、統計解析上の問題点があった。

日本でも45歳未満の女性でBMIが22以上では乳がんのリスクが低い

 そこで東京大学の研究グループは、国内の大規模医療データベースを用いて、BMIと乳がん発生との関連を調査した。45歳未満の女性約80万人のデータを解析した結果、45歳未満の女性でBMIが22以上では乳がんのリスクが低いことが示された。

 90%以上の日本人女性は45歳以降に閉経を迎えるとされていることから、東アジアでBMIが閉経前乳がんに及ぼすリスクが欧米と同様であることをはじめて示された。

 乳がんにかかる年齢のピークは、東アジア(40~50歳代)と欧米(70歳代)で異なることが知られており、その原因は分かっていなかった。今回の研究の結果にもとづくと、その違いは日本など東アジアでは肥満者が少ないことと関連していると考えられる。

 肥満者が少ない日本を含む東アジアでは、閉経前の40歳代から乳がんになりやすい一方で、肥満がリスクとなる閉経後乳がんは比較的少ないものと推測される。

 そのため、「人口のBMI分布にもとづくがん検診の戦略が求められます。BMI分布を考慮すると、日本では40歳代を中心に、若年からの乳がん検診の意義がより大きい可能性があります」と、研究グループでは指摘している。

 また、「乳がんの中でもホルモン受容体陽性乳がんで強い関連が認められたことから、乳がんの発生にBMIに関連するホルモンが強く関与していることが示唆されます」としている。

 研究は、東京大学大学院医学系研究科の小西孝明氏(医学博士課程)、田辺真彦准教授、康永秀生教授、瀬戸泰之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国医学誌「Breast Cancer Research and Treatment」にオンライン掲載された。

45歳未満の女性のBMIと乳がんリスクの関連
BMIが22以上の女性では、ハザード比の推定値とその95%信頼区間が1を下回っており、BMIが22に比べて、統計学的有意に乳がんになりにくいことを示している。
一方、BMIが22以下の女性では、ハザード比の95%信頼区間が1をまたいでいるので、BMIと乳がんリスクとの間に統計学的関連はないことが示されている。
出典:東京大学、2022年

日本の医療ビッグデータを活用45歳未満の女性78万人超が解析対象

 乳がんの早期発見・早期治療の推進や乳がん発生のしくみの解明のためには、リスクを正確に同定することが極めて重要となる。そのため研究グループは、日本の医療ビッグデータを用いてBMIと閉経前乳がんとの関連を調査した。

 研究では、診療報酬請求明細書・健診のデータを含むJMDCデータベースを用いて、2005年1月~2020年4月に健診でBMIを測定した45歳未満の女性78万5,703人(年齢中央値37歳、BMI中央値20.5)を解析対象とした。

 観察期間中央値1,034日の間に5,597人(0.71%)が乳がんと診断された。喫煙や飲酒などの背景因子を調整したCox比例ハザードモデルに、BMIを区切ることなく解析可能な制限3次スプライン回帰モデルを組み合わせて解析したところ、BMIが22以上であると乳がんにかかるリスクが有意に低いことが明らかになった。

 乳がんにかかるハザード比は、BMIが25.0-29.9で0.81(95%信頼区間0.73-0.89, P値<0.001)で、30.0以上で0.77(95%信頼区間0.65-0.91, P値<0.001)だった。

 ホルモン受容体陽性乳がんでも同様の関連が示された一方、HER2陽性乳がんではそのような関連は認められなかった。

 ホルモン受容体陽性乳がんは、代表的な女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの受容体を発現している乳がんで、これら女性ホルモンの刺激が乳がんの増殖を促進するため、各種ホルモン剤による薬物治療の適応となる。一方、HER2陽性乳がんは、HER2と呼ばれるタンパク質をもつ乳がんで、抗HER2薬を用いた治療の適応となる。

東京大学大学院医学系研究科 乳腺・内分泌外科学
Association between body mass index and incidence of breast cancer in premenopausal women: A Japanese nationwide database study Breast Cancer Research and Treatment 2022年6月4日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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