血圧降下により2型糖尿病のアジア人のCVDの死亡リスクが大幅減少 8万人超の大規模な糖尿病コホート
2型糖尿病のアジア人患者8万3,721人のデータを解析
研究は、シンガポールのデュークNUS医科大学が主導したもので、2型糖尿病のあるアジアの成人で、血圧値の違いがCVD(心血管疾患)による死亡リスクにどのように関連しているかを調査したもの。研究成果は、「Journal of the American Heart Association」に掲載された。
研究グループは、「シンガポール糖尿病レジストリ(SDR)」に2013年~2019年に登録された2型糖尿病患者8万3,721人のデータを解析した。対象者の平均年齢は65.3歳で、50.6%が女性、78.9%が血圧降下薬による治療を受けていた。
対象者のHbA1cの平均は7.4%、収縮期血圧は120mmHg未満の患者が21.5%、120~129mmHgが24.4%、130~139mmHgが23.8%、140mmHg以上が30.3%だった。
拡張期血圧は70mmHg未満の患者が44.3%、70~79mmHgが36.4%、80~89mmHgが15.5%、90mmHg以上が3.8%だった。
降圧により2型糖尿病患者のCVDリスクを大幅に減少
解析した結果、収縮期血圧についてCVD既往のある患者では、120~129mmHgを基準とすると、主要アウトカムであるCVDによる死亡リスクのハザード比は、140mmHg以上で1.27[95%CI 1.12~1.45]となり有意に高かったが、130〜139mmHgあるいは120mmHg未満の患者では有意差はなかった。
CVD既往のない患者では、収縮期血圧を120~129mmHgを基準とすると、CVDによる死亡リスクは、130〜139mmHgの患者で1.16[95%CI 1.01~1.33]と有意に高く、140mmHg以上で1.87[95%CI 1.65~2.12]の患者ではさらに上昇した。
拡張期血圧についてCVD既往のある患者では、70〜79mmHgを基準としたCVDによる死亡リスクは、80〜89mmHgおよび90mmHg以上で有意差はなかったものの、70mmHg未満では1.25[95%CI 1.12~1.39]と有意に高かった。
さらに、CVD既往のない患者では、70〜79mmHgを基準とすると、80〜89mmHgでは有意差がなかったものの、90mmHg以上では1.32[95%CI 1.05~1.67]と有意に高く、70mmHg未満でも1.23[95%CI、1.11-1.36]と有意に高かった。
拡張期血圧を70mmHg未満に下げすぎるのは慎重であるべき
「今回の大規模研究は、糖尿病患者の心臓病や脳卒中を防ぐために、収縮期血圧を130mmHg未満に下げることを推奨している臨床ガイドラインの確かさを裏付けるものだが、同時に、拡張期血圧を70mmHg未満に下げすぎることに対しては、より慎重になるべきであることを示唆している」と、同大学医療サービス&システム研究所のTazeen Jafar教授は指摘している。
拡張期血圧70mmHg未満の血圧管理は、糖尿病患者にとって潜在的に有害である可能性があるが、その関連性が直接的な因果関係によるものかは不明としている。
これまで、調査により年齢分布、血圧評価方法、追跡期間、交絡因子の調整などの差異があり、アジアの糖尿病集団にとって最適な血圧目標は未確定のままになっている。
「アジア人は西洋人よりも心血管疾患リスクが高く、糖尿病罹患率の上昇にも直面しており、今回の研究の結果はとくに意義深い」と、Jafar教授は述べている。
「最適な目標を達成するに、医薬品へのアクセスを改善し、より健康的なライフスタイルを促進するために、政府、医療制度、地域団体などのパートナーとの協力も必要となる。医師と患者はともに、ライフスタイルの改善や投薬を通じて、血圧管理と全体的な健康状態を監視しながら、上昇した収縮期血圧と拡張期血圧を下げる対策をする必要がある」としている。
Optimal blood pressure levels for reducing CVD mortality risk identified in large Asian diabetes cohort (デュークNUS医科大学 2023年11月17日)
Real‐World Systolic and Diastolic Blood Pressure Levels and Cardiovascular Mortality in Patients With Type 2 Diabetes—Results From a Large Registry Cohort in Asia (Journal of the American Heart Association 2023年11月28日)