NSAIDsの一部が2型糖尿病患者の心不全リスクを高める可能性 欧州心臓病学会で発表
2型糖尿病患者にNSAIDsの使用を検討する際は心不全の潜在的リスクについて考慮する必要が
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の一部が、短期使用により、2型糖尿病患者の心不全リスクを高める可能性があると、デンマークのコペンハーゲン大学病院が発表した。詳細は、8月にスペインで開催された欧州心臓病学会(ESC2022)で発表された。
NSAIDsの使用は、これまで一般集団では心不全のリスク増加と関連することが報告されていたが、2型糖尿病患者についてはデータが不足していた。2型糖尿病患者が心不全を発症する可能性は、糖尿病のない患者の2倍以上であることを考えると、リスクの高いグループでは、一部のNSAIDsの処方については慎重である必要があるとしている。
「NSAIDsは臨床で非常に頻繁に使用されており、今回の研究でも2型糖尿病患者の約6人に1人で1年以内に1回以上処方されていました」と、同病院の心臓専門医であるAnders Holt氏は言う。
「一般的に、糖尿病患者に新しく薬を処方する前に、慎重に検討をすることが必要となります。今回の研究が、医師がNSAIDsを処方する場合のリスク軽減に役立つことを願っています」。
研究グループは、デンマークで実施されている2型糖尿病の全国コホート研究のデータを用い、短期間のNSAIDsの使用と心不全入院リスクとの関連を調査した。1998年~2021年に2型糖尿病と診断された33万1,189人の患者を解析対象とした。NSAIDsが長期間処方されている患者、または心不全の既往のある患者は除外した。
心不全による初回入院前に処方されたNSAIDs(イブプロフェン、ジクロフェナク、ナプロキセン、セレコキシブ)に関する情報を収集し、患者が自身でコントロールして行動するケースクロスオーバーデザインを使用し、短期間のNSAIDs使用と心不全の初回入院のリスクとの関連を評価した。
解析対象者の平均年齢は62歳で、女性が44%だった。追跡開始後、最初の1年間で16%の患者にNSAIDsが1回以上処方され、3%の患者は3回以上処方された。処方されたNSAIDsの比率は、イブプロフェンは12.2%、ジクロフェナクは3.3%、ナプロキセンは0.9%、セレコキシブは0.4%だった。
中央値5.85年の追跡期間中に、2万3,308人が心不全の初回入院治療を受けた。NSAIDsの使用は、心不全による初回入院リスクの上昇と有意な関連があった〔オッズ比(OR)1.43、95%信頼区間[CI]1.27~1.63)〕。
薬剤別に解析すると、イブプロフェン〔OR 1.46、(同1.26~1.69)〕と、ジクロフェナク〔OR 1.48、同1.10~2.00〕が、リスク上昇と有意な関連があり、ナプロキセンとセレコキシブは関連がみられなかった。
研究グループは、サブグループ解析でのNSAIDsの使用による心不全リスクも解析した。HbA1cが6.6%未満と、血糖管理が良好な糖尿病患者では、NSAIDs使用による心不全リスクの上昇はみられなかった。また、65歳以上の患者では心不全入院リスクとの強い関連がみられたが、65歳未満では非有意だった。もっとも強い関連性は、NSAIDsの使用頻度が非常に低い、または新規に処方された患者でみられた。
NSAIDsは、水、ナトリウムの貯留を起こすので、心不全患者で腎機能障害や体液貯留を増悪させるリスクがあり、重篤な心不全患者での使用は禁忌となっている。加えて、2型糖尿病自体が心不全リスクを高めるため、冠動脈疾患や心不全の兆候がなくても、心不全のリスクに配慮する必要があるとしている。
「今回の研究は観察研究であり、NSAIDsが2型糖尿病患者の心不全を引き起こすと結論付けることはできないにしても、結果はNSAIDsの使用を検討する際に、心不全の潜在的なリスク上昇について考慮する必要があることを示唆しています。一方、糖尿病が十分に管理されている患者や、65歳未満の患者では、NSAIDsの短期処方は安全である可能性も示されました」と、Holt氏は言う。
欧州心臓病学会 (ESC2022)
Non-steroidal anti-inflammatory drugs linked with heart failure in patients with diabetes (欧州心臓病学会 2022年8月23日)