筋肉内脂肪が多いと心不全予後が悪化 筋肉の質も心不全の予後に関連 大腿部の異所性脂肪に着目
筋肉内脂肪比の高い心不全患者は予期せぬ再入院が多い
心不全とは、心臓のポンプ機能が低下することにより身体機能が低下し、寿命を縮める状態。また、かねてより身体機能のなかでも骨格筋が注目され、筋肉量や筋力の重要性が報告されている。
そこで、大阪公立大学は、筋肉量や筋力以外に筋肉の質も、心不全の予後に関連することに着目し、大腿部の筋肉内脂肪の蓄積が、非虚血性心筋症による心不全の予後に影響を与えることをはじめて明らかにした。大腿部の筋肉内脂肪を測定することで、心不全の予後を推測できる可能性がある。
心不全患者が増えている現代では、心不全のさらなる予後改善は必要不可欠となっている。サルコペニアは、進行性で全身の筋骨格筋の障害を引き起こし、筋肉量の減少を主とする疾患だが、以前よりサルコペニアを合併している心不全患者は、予後が悪くなることが知られている。
また近年、筋肉量だけでなく筋肉の質も重要で、その指標のひとつとして筋肉内脂肪をはじめとする「異所性脂肪」が注目されている。異所性脂肪とは、皮下脂肪や内臓脂肪以外の脂肪組織のことで、"第3の脂肪組織"とも言われている。主なものとしては心臓周囲脂肪や筋肉内脂肪がある。
異所性脂肪のうち、心臓周囲脂肪が狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患や心房細動を引き起こすという報告はあるが、身体の他の部位の異所性脂肪が心不全に与える影響についてはよく分かっていない。
大腿部の筋肉内脂肪が、2型糖尿病といった生活習慣の影響を受ける疾患の発症に関与しているという報告もある。
大腿部の筋肉内脂肪を測定することで心不全の予後を推測できる可能性
赤い部分が筋肉内脂肪を示す。
そこで研究グループは、大腿部の筋肉内脂肪が心不全患者の予後に関係するのかを検討した。
2017年9月~2020年1月に、大阪公立大学医学部附属病院で、心機能が低下した心不全の精査目的に入院し、冠動脈疾患が否定された連続93例を対象に、CT(コンピュータ断層撮影)で大腿部のスキャンを行い、筋肉量と筋肉内脂肪を測定して、筋肉内脂肪比を算出した。
筋肉内脂肪比を中央値で2群に分類し、それぞれの群で心血管死、もしくは心血管系の病気による予期しない入院の発生率に差があるかを検討した。
その結果、筋肉内脂肪比が高い、つまり大腿部の筋肉内脂肪が多い群の方が、発生率が高く、筋肉内脂肪比が独立した予後規定因子であることが明らかになった。
研究は、大阪公立大学大学院医学研究科循環器内科学の柴田敦病院講師、吉田俊丈大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Cardiology」に掲載された。
「大腿部の筋肉内脂肪を測定することで、心不全の予後を推測できる可能性があります。一方で、大腿部の筋肉内脂肪が多いと、なぜ心不全患者の予後が悪くなるのかについて、今後の解明が必要です」と、研究グループでは述べている。
心不全患者の予後改善を目指した治療の新たな標的が必要
研究では、同病院で、心不全の精査目的に入院し冠動脈疾患以外の心機能が低下した93例を対象に、CTで大腿部の筋肉内脂肪を測定し、筋肉内脂肪比(100×筋肉内脂肪面積/(筋肉内脂肪面積+筋肉面積)(%IMF)を算出した。%IMFを中央値で2群に分類し、それぞれの群で最終目標である心血管死もしくは心血管系の病気による再入院の発生率に差があるか検討した。
その結果、生存期間解析では%IMF高値群の方が有害事象の発生率が高く、多変量解析により%IMFが独立した予後規定因子であることが明らかになった。
「心不全とは、心臓のポンプ機能が低下することにより身体機能が低下し、寿命を縮める状態と言われています。かねてより、身体機能の中でも骨格筋が注目され、筋肉量や筋力の重要性が報告されていました」と、同大学の柴田氏と吉田氏は述べている。
「今回、我々は筋肉量や筋力以外にも筋肉の質も、心不全の予後に関連することを見出しました。これにより、心不全患者さんの予後改善を目指した治療の新たな標的が判明したと考えています」としている。
今後の展開として、「筋肉内脂肪は単に体重によって規定されるものではなく、運動習慣などの影響もあると考えられます。したがって、心臓リハビリテーションなどによって、大腿部の筋肉内脂肪がどのように変化していくのかを検討することで、リハビリテーションの新たな効果を発見できる可能性があります」としている。
「また、大腿部の筋肉内脂肪が多いと、なぜ心不全患者の予後が悪くなるのか、そのメカニズムを解明することで、新たな治療方法に結び付く可能性があると考えています」。
大阪公立大学大学院循環器内科学
Thigh Intramuscular Fat on Prognosis of Patients With Nonischemic Cardiomyopathy (American Journal of Cardiology 2022年1月20日)