糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬が脳卒中患者の脳卒中再発・心臓発作のリスクを低下 米国心臓学会
GLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬の投与が脳卒中サバイバーの心臓発作・再発・死亡リスクの低下と関連
GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬のいずれかを投与した患者(2型糖尿病が93%)は、投与しなかった同年代の患者に比べて、3年間の追跡期間中に、脳卒中再発、心臓発作、死亡のリスクが低いことが、脳卒中の既往歴のある患者7,000人超の医療記録を解析した調査で明らかになった。
研究は、米メイヨー・クリニックおよびヘンリーフォード医療センター心臓血管部門のM. Ali Sheffeh氏らによるもので、この予備研究の結果は11月にシカゴで開催されるAHA Scientific Sessions 2024で発表される予定。
研究グループは、米国で実施されているロチェスター疫学プロジェクトの2000年1月~2022年6月の医療データを使用し、急性虚血性脳卒中で入院した成人7,044人の医療データを解析した。解析精度を高めるため2000年まで遡って症例を検討した。
「脳卒中サバイバーの4分の1は脳卒中を再発することが知られており、また脳卒中の危険因子の多くは他の心臓病とも関連しており、心臓発作など他の心血管イベントのリスクも抱えている」と、Sheffeh氏は述べている。
「これらのリスクを管理し、この集団での脳卒中の再発、心臓発作、あるいは死亡のリスクを減らすための新しいアプローチを検討することは、脳卒中サバイバーの生存率を高め、QOLを向上させるための重要なステップとなる」している。
研究グループは今回、2型糖尿病治療のための2クラスの薬剤[GLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬]の投与が、脳卒中サバイバーの心臓発作、再発予防(2次予防)、あるいは死亡リスクの低下と関連しているかを評価した。
この2クラスの薬剤の影響を検証するため、2000年1月~2022年6月に血栓性脳卒中(虚血性脳卒中)を発症し、ミネソタ州あるいはウィスコンシン州の複数の医療期間で脳卒中治療を受けた7,000人以上の成人の医療記録を解析。初回の脳卒中後にGLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬が処方された患者と、処方されなかった患者を比較した。
GLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬が処方された患者は脳卒中・心臓発作・死亡リスクが大幅低下
その結果、次のことが明らかになった――。
- GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬のいずれかが投与された成人患者は、死亡リスクが74%低下し、心臓発作リスクが84%低下した。
- SGLT2阻害薬が投与された患者は、脳卒中の再発リスクも67%低下した。
- 期間全体を通じて、GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬のいずれかが投与された脳卒中患者の死亡率は11.8%であり、どちらの薬剤も投与されなかった患者の54%よりも大幅に低かった。
- 両クラスの製剤のいずれかが投与された患者の心臓発作の発症率は1.5%であり、どちらの薬剤も投与されなかった患者の6.1%よりも大幅に低かった。
- 両クラスの製剤のいずれかが投与された患者と投与されなかった患者の療法で、再発性脳卒中の発症率は約6%と同様だった。
「再発性脳卒中を発症した患者のリスク要因(年齢・性別・喫煙状況・高血圧・2型糖尿病・末梢動脈疾患・脂質異常症・慢性腎臓病・心臓発作の既往歴・心不全の既往歴など)を含む複数の変数を比較した解析により、両クラスの製剤が再発性脳卒中リスクを大幅に低下させる可能性も示された。しかし、追加変数のない解析では、再発性脳卒中リスクは大幅には低下しなかった」と、Sheffeh氏は指摘している。
「両クラスの製剤の治療群は、どちらの薬剤も使用していない群と比較し、もともとリスクが高いという特徴をもっている可能性があり、薬の潜在的な予防効果は隠されている可能性があるが、多変量を調整した解析により、これらの違いを考慮した独立した効果を引きだすことができた。今回の研究結果は、肥満や心不全の患者でのこれらの薬剤の心血管疾患の予防効果に関する他の研究の結果とも一致している」としている。
研究グループはさらに、これらの薬剤を少なくとも6ヵ月投与した患者のサブ解析を実施し、心臓発作、再発性脳卒中、死亡のリスク低下との関連性が薬剤に起因するものであるかを検証した。その結果、両クラスの製剤の投与はメイン解析と同様に、心臓発作、再発性脳卒中、死亡のリスク低下と関連していた。
GLP-1受容体作動薬が血小板の凝集を減らし脳卒中リスクを低下させる可能性
なお、研究の限界点としては、解析が米国の1つの医療システム内で治療を受けた患者の医療データにもとづいて行われたこと、解析対象となった患者のほとんどが白人で、同じ地理的地域出身であったため、結果が他の人種や民族、他の地域に在住する患者には当てはまらない可能性があることなどを挙げている。
今回の解析の対象となった患者の平均年齢は72歳、52%が男性、48%が女性、94%が白人成人、1.5%が黒人成人、1.5%がアジア人成人だった。
さらに、いずれかの薬剤が投与された患者の93%が2型糖尿病であったにもかかわらず、データベースには患者が薬剤を処方された理由が示されていなかった。そのため、脳卒中が各患者に与えた負担を個別に評価するのは困難としている。
米国で脳卒中の約85%を占める虚血性脳卒中は、血栓による脳への血流不足が原因となる。これは、脳に血液を供給する血管が、血管壁内のプラークあるいは脂肪沈着物によって閉塞されたときに発生する。プラークは、血管を狭くして血流を阻害するか、あるいは体の別の部分で血栓が破れて脳近くのより小さな血管に移動し、そこで閉塞を引き起こす可能性がある。
「この数年に発表されたランダム化比較試験では、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬には、脳卒中、心臓発作、死亡を含む心血管疾患のリスクを軽減する効果があることが示されている。今回の新しい知見は、予想していたことと一致しており、2型糖尿病と肥満症のある患者と、2型糖尿病ではない肥満症の患者の両方で明らかであることが示された」米ウェイクフォレスト大学医学部神経学部の教授および研究副委員長であるCheryl Bushnell氏は述べている。Bushnell氏は、米国心臓学会(AHA)の「脳卒中一次予防ガイドライン2024年版」の編集委員長も務めている。
「GLP-1受容体作動薬には血圧を下げ、心臓発作や脳卒中の危険因子であるアテローム性動脈硬化症にともなうプラーク形成を減らす作用があると考えられる。また、今回の研究にとって非常に重要なもうひとつのメカニズムとして、GLP-1受容体作動薬が血小板の凝集を減らし、それ自体が凝固のリスクを減らして脳卒中リスクを低下させる可能性が考えられる」。
「SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬が実際に脳卒中の治療に実際に有用であり、2度目あるいは再発性の脳卒中の予防を抑制するかを確かめるために、臨床試験を実施する必要がある」としている。
なお、AHA Scientific Sessions 2024で発表される今回の研究は、査読済みの医学誌に掲載されるまでは、暫定的な結果とみなされる。
American Heart Association Scientific Sessions 2024
GLP-1, SGLT2 medications may lower stroke survivor’s risk of future heart attack, stroke (米国心臓学会 2024年11月11日)