【新型コロナ】感染から1年後も抗ウイルス抗体と中和抗体は維持される 国内のCOVID-19回復者を調査
新型コロナから回復した患者を調査
研究は、横浜市立大学大学院医学研究科微生物学の梁明秀教授、宮川敬准教授、同大学院データサイエンス研究科の後藤温教授、東ソーなどの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Open Forum Infectious Diseases」に掲載された。
研究は、横浜市立大学が主導した、新型コロナから回復した患者を対象に行った抗体検査プロジェクトである「新型コロナウイルス感染症回復者専用抗体検査PROJECT」の一貫として行われ、2021年5月に中間報告をした研究成果の最終報告となる。
研究では、抗ウイルス抗体は、ウイルスタンパク質に対する抗体のうち、ヌクレオカプシドタンパク質(NP)とスパイクタンパク質(SP)に結合するIgG抗体量を定量的に調べた。また、中和抗体は、ウイルス感染阻害能を有する抗体で、研究では血清を段階的に希釈してウイルス感染を50%阻害する血清希釈倍率をNT50値としてその活性の強さを定量的に算出した。
研究では、2020年1月~8月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された日本人497例を対象に、感染6ヵ月と1年後に採血を行い、ウイルスに対する抗体価と中和活性を調べた。20代~70代の幅広い年齢の人が研究に参加し、発症時の重症度は、無症状・軽症が391例(79%)、中等症が80例(16%)、重症が26例(5%)だった。
AIA-CL用SARS-CoV-2-NP-IgG抗体試薬/SARS-CoV-2-SP-IgG抗体試薬(東ソー)、およびシュードウイルスによる中和活性測定系を用いて、血清中のSARS-CoV-2に対する抗体価(NP-IgG、SP-IgG)と中和抗体価をそれぞれ定量的に測定した。
感染から1年後も多くが抗ウイルス抗体と中和抗体を有している
その結果、感染6ヵ月後から1年後にかけて、NP-IgG抗体価は2.9から1.1へと減少した。一方、SP-IgG抗体価は13.0から9.4へ、中和抗体価は297から222へと推移し、減少傾向にはあるものの、感染1年後も維持されることが分かった。
いずれの検査時期でも、重症例や中等症例の人が、軽症例よりも中和抗体価は高値だった。年代別では、50歳以上の人では重症例や中等症例の人が多く、これにともなって中和抗体価が1年後でも高い傾向にあった。
次に、同大学が独自に開発した、さまざまなSARS-CoV-2変異株に対する中和抗体を簡便かつ迅速に測定できる手法である「hiVNT新型コロナ変異株パネル」を用いて、変異株に対する中和抗体の保有率を定性的に調べた。
その結果、軽症例の一部(約20~30%)では、感染6ヵ月後にはすでに変異株に対する中和抗体の消失が起こっていることが分かった。一方、重症例では、感染1年後でもすべての変異体に対する中和抗体を保有していることが分かった。
重症例では感染1年後も変異株に対する高い抗体価を維持
また、研究では変異株に対するSP-IgG抗体価を自動測定する系を東ソーと共同開発した。その結果、hiVNTの結果を裏付けるように、重症例では感染1年後でも変異株に対するSP-IgG抗体価が高く維持されていた。
さらに、国立感染症研究所で分離された変異株ウイルスを用い、BSL3実験室で中和活性を評価したところ、重症例では感染1年後でも変異株ウイルスを中和する活性が実際に維持されていることを確認した。
今回の研究は、COVID-19から回復した日本人の6ヵ月後および1年後における免疫状況について経時的かつ包括的に調査したもの。今回は液性免疫の持続性の観点から評価を行ったが、細胞性免疫の持続性についても今後検討していく予定としている。
「研究で開発した全自動抗体検出技術を装置とともに社会実装し、今後、新たな変異株に対する抗体保有状況を集団レベルで速やかに調べ、検証を進める予定です」と、研究グループでは述べている。
横浜市立大学大学院医学研究科微生物学
Persistence of robust humoral immune response in COVID-19 convalescent individuals over twelve months after infection(Open Forum Infectious Diseases 2021年12月10日)