所得の低い患者は慢性腎臓病(CKD)の進行や人工透析のリスクが高い 個人の経済状況をふまえた対応も必要 日本人560万人分の医療レセプトデータを解析
所得が低いとCKDの進行リスクが1.7倍 透析などのリスクは1.65倍
京都大学は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診および医療レセプトのデータ(約560万人分)を用いて、皆保険制度のある日本でも、個人の所得と腎機能低下に関連があることを明らかにした。
所得のもっとも低い群(平均月収13万6,451円)は、もっとも高い群(平均月収82万5,236円)に比べて、急な慢性腎臓病(CKD)の進行(年間eGFR低下量>5mL/min/1.73m²)のリスクが1.7倍、腎代替療法(透析、腎移植)開始のリスクが1.65倍高いことが明らかになった。
この関連は、男女ともに認められたが、女性よりも男性で大きく、また糖尿病のある群よりも、非糖尿病群で大きいことも示された。
これまでの研究でも、慢性腎臓病(CKD)の発症や進行と、社会経済要因(所得、教育歴、居住地など)との関連がみられ、社会経済的地位の低い人ほどリスクが高いことが示されている。
しかし、公的な皆保険制度がなく無保険者は高額な医療費のかかる米国からの報告が多く、皆保険制度のある日本での状況は分かっていなかった。
そこで研究グループは今回、日本での最大の保険者である全国健康保険協会(協会けんぽ)のデータから、2015年度に生活習慣病予防健診を受診した被保険者559万1,060人を対象に解析した(平均年齢 49.2歳、女性 33.4%)。2022年度末もしくは保険脱退まで中央値6.3年の観察を行った。
月額収入(標準報酬月額)をもとに10分位に分け、所得により腎機能低下リスクの違いがあるかを検討し、急なCKD進行(年間eGFR低下量 > 5mL/min/1.73m²)と腎代替療法(透析・腎移植)の開始について評価した。
腎臓病の診療では個人の経済状況をふまえた介入も必要
研究は、京都大学大学院医学研究科社会疫学分野の石村奈々氏、井上浩輔特定准教授(白眉センター)、近藤尚己教授と、上智大学の中村さやか教授、曁南大学の丸山士行教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Health Forum」にオンライン掲載された。
「健康保険や毎年の健康診断など、手厚い医療制度の敷かれた日本でも、所得による腎機能低下リスクの差が男女ともに存在することを明らかにした」。
「本研究は、腎臓病患者さんの診療に携わるなかで、健康には社会との深いつながりがあり、経済的理由や家族の事情から治療中断にいたることがあり、受療行動にも社会経済格差があると気付くところからはじまった」。
「同時に、病院診療の限界と一次予防(健康増進・発病予防)の重要性を認識し、この不平等をなくし皆が同じように健康でいられる、腎不全にならない社会を実現したい思いから、この研究を遂行した」。
「慢性腎臓病の予防や診療で、個人の経済状況をふまえた対応が必要と考えられる。現在の診療ガイドラインでは患者の社会経済状況に関する言及はないが、どのような人が脆弱でリスクが高いのか、新たな視点で日本におけるエビデンスを構築していきたいと考えている」としている。
京都大学大学院医学研究科社会疫学分野
Income Level and Impaired Kidney Function Among Working Adults in Japan (JAMA Health Forum 2024年3月1日)