高齢糖尿病患者の低血糖リスクを抑制 「臨床意思決定支援(CDS)ツール」を活用

2023.10.18
臨床意思決定支援ツールにより高齢者の低血糖リスクを抑制可能

 臨床意思決定支援(clinical decision support;CDS)ツールの利用と、意思決定の共有(shared decision-making;SDM)によって、高齢糖尿病患者の低血糖リスクが著減するとする研究結果が報告された。米バージニア・コモンウェルス大学のDeborah A. Koehn氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Geriatrics Society」に9月21日掲載された。

 血糖管理の強化によってリスクが高くなる低血糖は、糖尿病患者、とくに高齢糖尿病患者の深刻な治療関連合併症の一つ。ただし、いったん治療が軌道に乗ると、その後に低血糖リスクの再評価や薬剤の減量が適切に行われないことがあり、その結果、過剰な血糖管理が続けられている高齢患者が少なくない。

 この状況に対してKoehn氏らは、CDSツールを利用して血糖管理目標を再評価することの有用性を検討した。

 本研究で用いられたCDSツールは、糖尿病の合併症および糖尿病以外の併発症の有無と数、日常生活動作(ADL)低下または認知機能低下の有無と程度、居住環境(介護施設か否か)などを勘案して、HbA1cや空腹時血糖値、就寝前血糖値の目標値を患者ごとに決定する過程をサポートするもの。

 本研究の解析対象は、プライマリケアを担うクリニック5施設の外来2型糖尿病患者のうち、65歳以上で過去90日以上にわたりインスリンまたはスルホニル尿素(SU)薬が処方されており、過去6カ月間のHbA1cが7%未満に治療されていた94人。平均年齢は74歳(範囲65~93)で、男性が42.6%を占め、HbA1cは6.36±0.43%だった。6カ月間の研究期間中に3回の外来フォローアップを行い、CDSツールを用いて低血糖リスクを評価した上で、SDMによって個別の管理目標を設定し、それに合わせて血糖降下薬の処方が調整された。

 ベースライン時に38人(41%)、介入開始後の初回の外来で50人(53%)、2回目の外来で2人に対して個別の管理目標が設定されており、残りの4人は管理目標設定に至る前に研究から離脱した。管理目標設定に至った患者のうち52%は目標HbA1cが7%以上、48%は7%未満に設定された。

 この介入の結果として、研究期間中に全体の21.1%の患者で、低血糖リスクのある薬剤(インスリンまたはSU薬)が中止または減量されていた。また、低血糖リスクの高いと考えられる患者(HbA1cが7%未満でありながらインスリンまたはSU薬が処方されている患者)は、全体で46%減少していた(P<0.0001)。

 目標HbA1c7%未満/以上で群分けすると、7%未満群では19.0%、7%以上群では22.9%で、低血糖リスクのある薬剤が中止または減量されていた。一方、研究期間中のHbA1cは両群ともに0.53%有意に上昇していた〔目標HbA1cが7%未満の群は6.18±0.52から6.70±0.66%(P=0.001)、7%以上の群は6.42±0.33%から6.95±1.11%(P=0.019)〕。

 このほかに、TRIM-HYPO(Treatment Related Impact Measure-Hypoglycemic Events)という患者報告に基づくアウトカム評価ツール(スコアが高いほど日常生活の支障が大きいことを意味する)を用いた検討では、ベースライン時スコアが19.6であったのに対して、初回外来では5.4、2回目の外来では3.6と有意に低下していた(P<0.001)。またTRIM-HYPOの五つのサブドメイン(糖尿病の管理、生活機能、睡眠など)も全て、有意に改善していた。

 論文の上席著者である米パークビュー・ヘルス・システムのJeffrey B. Boord氏は、「この介入は極めて成功したと言える。CDSツールが他のプライマリケアでも採用され、高齢糖尿病患者の低血糖のリスクを抑制し、健康状態の改善につながることを期待したい」と話している。

 なお、数人の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。また本研究は、メルク社、ノボノルディスク社、サノフィ社、アボット社の資金提供を受けて実施された。

[HealthDay News 2023年10月11日]

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