ラクトフェリンが慢性腎臓病とサルコペニアの進行を抑制 東北大学ら

2025.09.25
東北大学の研究グループらは、母乳に含まれる多機能性タンパク質であるラクトフェリンが、慢性腎臓病とそれに伴うサルコペニアの進行を抑制する可能性があることを明らかにしたと発表した。

 慢性腎臓病(CKD)は腎臓の働きが徐々に低下していく進行性の病態であり、日本では成人のおよそ5人に1人が罹患しているとされる。特に高齢のCKD患者では、筋力・筋量が減少するサルコペニアを合併する割合が高く、末期腎不全ではその影響が深刻となる。CKDに伴うサルコペニアは、転倒や寝たきりのリスクを高め、QOLの低下や死亡率の上昇にもつながることがわかっている。しかし、なぜCKDでサルコペニアが起こるのか、その詳しい仕組みは十分に解明されておらず、有効な予防法や治療法も確立されていない。

 今回、研究グループは、CKDモデルマウスを用いた動物実験により、母乳や涙、唾液に含まれる多機能性タンパク質成分である「ラクトフェリン」が、CKDでの腎障害とCKDに伴うサルコペニアの進行を抑える効果を持つことを明らかにした。ラクトフェリンは抗菌・抗炎症作用を有し、腸内環境の改善に役立つとされている。

 研究では、ラクトフェリンの「予防効果」(腎障害の進行抑制)と「治療効果」(すでに進行した障害への効果)の両面を評価した。その結果、腎臓病のマウスでは腎機能の低下とともに腎機能の指標となる血液中尿素窒素や血液中クレアチニン濃度が上昇するが、ラクトフェリン投与によってこれらの指標の上昇が約50%抑制された。また腎臓病では、腎機能の低下とともに筋肉が萎縮し、筋線維の横断面積が縮小するが、ラクトフェリンの投与によりその縮小が約40%抑制された。

 さらに筋肉における影響として、CKDにより異常に活性化していたタンパク質の分解や、オートファジー(細胞の不要物を除去する機能)、アミノ酸代謝の乱れがラクトフェリン投与によって是正された。加えて、CKDによる腸内環境の悪化によって産生が増加する有害な尿毒素「インドキシル硫酸」が血液や筋肉に蓄積していたが、ラクトフェリン投与によってその蓄積も有意に抑制された。

 本研究により、ラクトフェリンは腸内環境の改善を介して「腸-腎連関」と「腸-筋連関」を通じて全身に作用し、CKDおよび合併するサルコペニアの進行を抑えることが示された。同研究グループは「ラクトフェリンは、多機能性を有する食品由来の機能性成分だが、ラクトフェリンと作用機序の異なる機能性成分との併用によって、相乗的な効果も期待される。今後の研究を通じて、より高い効果を備えた予防・治療薬の開発を進めることで、CKDとサルコペニアに対する新たな対策となり、国民の健康リスク軽減と健康寿命の延伸への貢献が期待される」としている。

 本研究は、東北大学大学院薬学研究科の佐藤恵美子氏らのグループと、東北大学大学院薬学研究科、大阪公立大学大学院獣医学研究科、医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センター、東北大学大学院医学系研究科等との共同研究によって実施され、研究成果は2025年7月24日付で学術誌 The Journal of Nutritional Biochemistryに掲載された。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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